表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/25

第22話 邪神ティファヴァマブート

 魔王の居城のあるタルヤーン地方までの旅は、呆気ないほど順調に進んだ。


「本当に、魔王が復活しているのでしょうか?」


 タルキトスでさえ、そう疑問を呈するほどだった。


「大聖女ナタリアがそう言ったのだ。私は彼女の受けた神託を信じるがね」


 マルークが告げると、彼はさすがに恥ずかしそうな顔をした。

 だが、彼の疑念ももっともなのだ。


 十八年前、魔王レテスクラヴィルが世界をその手に握ろうと、その牙を剝きだしてきた時には、魔物だけでなく、魔族も頻繁に姿を見せ、世界に恐ろしい災厄を振り撒いていた。


 今回は、まだそんな事態は起こっていない。だから、彼女が受けたという神託以外には、魔王の復活に関して、何の根拠もなかった。


「まあ、魔王の城まで行って、何ともありませんでしただって、いいじゃないか。それで懸念は払われて、世界は平和なんだから」


 エルシオスがお気楽そうな様子で言う様子に、タルキトスがほんの少しだけ眉をひそめるが、マルークもそれでもいいとは思っていた。

 だが、彼の持つ前世の記憶が、そこまで楽観的な考えを抱くことを許さなかったのだが。


 それに、すでに三年前、彼は魔族に遭遇していた。

 あれは見間違いなどではなかったと、彼は今でも信じていた。




「魔王の居城にも、敵の姿はないか」


 エルシオスは、それでも油断なく大剣を掴みながら、城の広い廊下を進む。


「以前は、どうだったのですか?」


 タルキトスがマルークに問い掛けてきた。


「以前か……。以前は、魔族が列をなして襲ってきたな」


 答えながら、彼は、胸に苦しいものを感じていた。

 もう十八年も前のことなのに、それでもその記憶は彼を苛んだ。


 やはりこの場所に来るのではなかったと、少し後悔さえする気がした。


「お父様……」


 そんなマルークの様子に気がついたのか、クリスティが彼を心配そうに見ていた。


「大丈夫だ。ありがとう」


 彼女の顔を見て、マルークは落ち着きを取り戻した。

 そう。今、彼の側には、愛する娘がいる。


 彼は、彼女を守るために、ここまでやって来たのだから。




 そして、遂にたどり着いた魔王の玉座で待っていた者。それは、マルークだけが知る者だった。


 邪神ティファヴァマブート。


 大聖女ナタリアは、魔王レテスクラヴィルが復活し、災厄を振り撒くとの神託を受けたと語った。

 だが、マルークの前世の記憶が、それは間違いだと告げていたのだ。


「貴様が、魔王レテスクラヴィルか!」


 コドフィルの言葉に、玉座に座る者は、身動(みじろ)ぎもせずにただ声を響かせる。


「我は、そのような小さき者ではない」


「嘘を吐くな!」


 コドフィルが、また大きな声を出すが、マルークがそれを押しとどめる。


「コドフィル、嘘ではない。あれは私が十八年前に見た者とは違う。おそらく、もっと恐ろしい者だ」


 マルークの言葉に、パーティーの皆が言葉を失った。


「その通りです。あれはレテスクラヴィルではありませんね」


 オーリアフォートも、マルークに同意してくれる。


「ほう。まさか、エルフのほかに、十八年前と同じ者が姿を現すとはな。もう少し待つべきであったかな」


 ティファヴァマブートが発するくぐもったような声は、そう言いながらも、少し楽しそうにさえ感じられるものだった。


「マルーク、タルキトス、援護を頼む」


 コドフィルが囁くようにふたりに伝えてきた。

 そして、エルシオスと目で合図し合うと、マルークが制止する間もなく、一気に玉座へと向かった。


「てやあっ!」

「くらえっ!」


 二人を遮る者はなく、その剣は、正面から玉座に届いたように見えた。


 ガッ! ガキーン!


 だが、剣はそこに居るはずの者を素通りし、金属製なのだろう玉座に当たり、乾いた音を立てた。


「なっ!」


 コドフィルが思わず、驚きの声を発する。

 邪神は、また、楽しそうな声を響かせた。


「愚かな。我は、この世のものにあらず。その我に、そなたらが干渉することはできぬ。我も、直接はそなたらに干渉することはできぬがな」


 マルークも、戸惑いを覚えざるを得なかった。

 前世の記憶では、邪神ティファヴァマブートこそが、真の敵だったはずだ。それが、お互いに干渉することができないとは、どういうことなのだろう。


「だが、我がこの世界へ干渉するための鍵を、そなたらがここまで運んでくれた。礼の代わりに、そなたらに絶望をくれてやろう」


 そう言ったティファヴァマブートは、突然、クリスティに向き直ると、厳かにも聞こえる声で呼びかけた。


「目覚めよ! 我が忠実なる僕、魔王レテスクラヴィルよ!」



 その声に、マルークが振り向くと、彼の愛する娘は、虚ろな目で、邪神の姿を見ていた。


「クリスティ! どうしたんだ!」


 マルークが大きな声で呼びかけたが、彼にはもう、クリスティが普通の状態でないことが、分かっていた。


 その両眼は次第に赫く輝き始め、邪悪な笑みを、頬に浮かべていたからだ。



 クリスティは、いや、クリスティだった者は、悠然と魔王の玉座へと向かう。


「クリスティ、危ない! 来るな!」


 コドフィルが呼びかけるが、それを無視して進む彼女の様子に、さすがに違和感を覚えたようだ。


「クリスティ?」


 玉座の前まで歩みを進め、彼女はそこで跪いた。


「ティファヴァマブート様、ありがとうございます。レテスクラヴィルめは、今ここに、舞い戻りました」


「何を? いったい何を言っているんだ。クリスティ」


 そう問い掛けるコドフィルに、魔王が赤い眼を向けた。


「クリスティではない。余はレテスクラヴィル。この世界の支配者だ」


 その声とともに、魔王の身体から衝撃が走り、コドフィルとエルシオスは吹き飛ばされて、床に叩きつけられた。


「グウッ……」


「ふたりとも、大丈夫か? 今、回復の魔法を」


 タルキトスの両手から温かい光が溢れて、コドフィルたちの傷を癒した。

 その間に、魔王はゆっくりとその玉座に着いて、座り心地を確かめるように、肘掛けを撫でる。


 いつの間にか、ティファヴァマブートは姿を消していた。


「この感覚も十八年振りか。マルークだったか。貴様には一杯喰わされたな。だが、貴様は自分の使った魔法が、どんなものなのか知らなかったようだな」


「何? いったいどういうことだ」


 十八年前と変わらぬ威圧感を、玉座の主から受けながら、マルークは、クリスティの姿をした者から目を離さなかった。


「余の復活に手を貸してくれた褒美に教えてやろう。貴様の使った奈落を開く魔法。あれはもともと、余のものなのだ。余の復活と再生の魔法だ」


「そんな。そんなことが……」


 マルークには、俄かには信じられなかった。だが、彼はあの呪文を、古くから伝わる魔導書、魔族に関する魔法の記された書物から得たことは事実だった。


「余が先ほど言ったであろう。これは貴様たちへの褒美なのだ。嘘など言うはずもない。いずれにせよ、貴様たちには、それを他の者に向かって伝える術もないのだからな」


「ふざけるな!」


 エルシオスが、そう叫ぶような声を出して、再び、レテスクラヴィルに向かった。


「待て! エルシオス!」


 マルークの声も虚しく、彼の振るった剣は魔王の張った障壁に阻まれ、大きく跳ね返された。

 そして、彼自身も同様にまた、弾かれるように後退を余儀なくされる。


「余に、剣など効かぬ。また同じことを繰り返すか。愚かなる人間どもよ」


 圧倒的なレテスクラヴィルの力の前に、コドフィルは、マルークを守るように立つと、彼に聞いた。


「あなたは以前、奴を葬ったのだろう。今回は出来ないのか?」


 訴えかけるような王子の目を見て、だが、マルークは、それは不可能だと答えるしかなかった。


「前は、私のほかに、私以上に強力な魔法使いがいたのだ。その者の力なしでは、奴と争うことさえ……」


 十八年前、彼がレテスクラヴィルと戦った時、クニーグが魔王の防御障壁を打ち破ろうと、高度な解呪を使って、魔王を牽制した。

 どちらかと言えば、魔王にとって、彼女との魔法の戦いこそが主戦場だったとさえ言えるだろう。


「今、私が同じ魔法を使っても、簡単に防がれてしまう。それに、奴が言ったように、あの呪文はどうやら奴のためのものらしいのだ」


「人間にしては、よく分かっているではないか。十八年の歳月は、貴様にとって、無駄ではなかったようだな」


 レテスクラヴィルは、マルークをからかうようなことを言った。


 十八年の歳月は、彼がクリスティと出会い、彼女を一人前の魔法使いに、邪神ティファヴァマブートを倒すパーティーの一人に育てるために費やされたのだ。

 だが、今それは全くの無駄になってしまった。


「私は何をしていたのだ。そんな……、そんなことが……」


 いや、それどころか、それはレテスクラヴィルを復活させる鍵を、自らの手で護り、それをわざわざ邪神の手元まで、送り届けることであったのだ。


 茫然自失となったマルークだったが、その時、玉座にあったレテスクラヴィルが突然、不自然な様子を見せた。



「ぐっ! 貴様! 我に完全に喰われたのではなかったのか!」


 頭を抱え、どう見ても、苦しんでいるようだ。


「奴はどうしたんだ?」


 コドフィルが、マルークに尋ねるが、彼にも何が起こっているのか分からなかった。


「罠に掛けようとしているとも思えませんね。叩くなら今しかないでしょう」


 オーリアフォートがそう言って、矢を番えた。

 コドフィルと、エルシオスも剣を振りかぶり、魔王に殺到する。


「ぐあっ! やめろ! 貴様も只では済まんのだぞ!」


 レテスクラヴィルは、そう言いながら、必死に防戦に努めるが……、


 ザシュ!!


 つい先程は、無力にも跳ね返されたコドフィルの一撃が、魔王に手傷を負わせた。


「はあっ……。はあっ……」


 魔王は苦しそうに喘いで、だが、今度はオーリアフォートが放った矢を、その右手で受ける。

 鮮血が飛び散るが、魔王はそれをものとせずに、眼を再び赫く輝かせ、前と同じように衝撃を放って、前衛の二人に後退を強いた。


 魔王は、どうやら、別の事に、気を取られているようだった。


「ぐああぁぁあ!」


 レテスクラヴィルの声が響き、その直後、クリスティだった者から、落ち着いた声が聞こえてきた。


「マルーク。久しぶりね。元気そうで安心したわ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
お読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ