表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/25

第15話 クリスティの初陣

 シュームの町は王都アルアントから歩いて一日の距離だ。

 残念ながら東へ向かう主要街道であるステトヴェリー街道から外れており、それ程活気のある町ではない。


 それでも王都から近いので、農産物を王都へ運んだり、逆に生活用品などが王都から届いたりと、往来はそれなりにあるようだった。


 今回のシューム行きに、マルークはクリスティを伴っていた。

 いつものことと言えなくもないが、今回は彼女も魔物退治に加わることになっていた。



「お父様。今回は、私もお手伝いがしたいです」


 クリスティの申し出に、彼は当然、反対をした。


「クリスティ。遊びに行くわけではないのだよ。私はクリスティを危険な目に遭わせたくはないのだ」


「私も、お父様を危険な目に遭わせたくはありません」


 クリスティは、マルークの目を真っ直ぐに見て、そう言った。


「それに、お父様は、それほど危険ではないから、安心しろとおっしゃったではないですか」


「それは、たしかにそう言ったが……」


 マルークは苦笑するしかない思いだった。彼は、ついさっき、そう言ったのだ。それは、クリスティを安心させようとして言ったのだが。


「だが、クリスティ。私はもう何度も、魔物を退治してきているが、クリスティはそんな経験をしたことはないじゃないか。だから、私とは違うんだ」


 マルークは何とか、クリスティを思いとどまらせようとしたのだが、彼女は、納得しなかった。


「お父様が、初めて魔物を退治したのは、十二歳の時だったと、以前、教えてくださったではないですか。私はもう、十四歳です。来年の春には、魔法学園へ行かなければなりません。そうなったら、こんな機会はもうないのではないですか?」


 クリスティに畳み掛けるように反論され、マルークはたじたじだった。

 確かに彼がクニーグと二人で、初めてゴブリンを退治したのは十二歳の時だった。あの時は、無謀なことをしたものだと思う。

 後で、師のスタファンに酷く叱られたが、それも当然なのだ。


 だが、クリスティの言うことにも一理あると思わされた。

 以前は、魔法を学ぶことは自由で、彼とクニーグの二人は、十二歳にしてかなりの腕前だった。


(スタファンは良い先生だったからな)


 彼は引退した以前の師を懐かしく思い出した。

 クリスティは、当時の自分以上の腕前だと思っている。それは自惚れなどではなく、冷静に一人の魔法使いとして見たときにも、そうだと確信できることだった。


「それに、初めての魔物と戦うのに、お父様と一緒なら、とても安心できるのです」


 クリスティの言葉に、マルークはもう抗うことが出来なかった。それでも、彼女が傷ついたりすることは避けたい一心で、彼は愛しい娘に告げた。


「分かったよ、クリスティ。では、決して私の前に出ないように。それから、常に私の指示に従うんだ。最後に、私が逃げるぞと言ったら、振り返らずに、真っ直ぐに安全な町まで逃げること。それが守れるのなら、私と一緒に行こう」


 マルークの言葉に、クリスティは頷き、二人でシュームの町へと出掛けたのだった。



「魔物どもにはこのところ、ほとほと困っておりました。助かります」


「シュームの町の近郊に出没する魔物を退治せよ」との王宮からの指示書を差し出したマルークに、町の代官はそう言って、安堵の表情を見せた。


「ですが、お一人で大丈夫ですか?」


 ビルデンスと名乗った代官はマルークにそう問い掛けた。

 マルークはクリスティが気を悪くしていないかなと思ったが、彼女は特段、反応を示していなかった。


「いえ。人数が多くては、魔物も姿を現さないでしょうし、ここにいる娘も手伝ってくれますから」


 マルークがそう言うと、代官は驚いたようだった。

 やはり、クリスティを連れてきたのは、時期尚早だったかなとマルークは思ったが、もう今さらだ。


「おっしゃるとおり、騎士団の派遣を受けて、山狩りをしたのですが、どこに隠れたものやら、一向に居場所が分かりません。そのくせ、騎士団が去ると、待っていたかの様に、また旅人を襲うのですから、始末に負えません」


 オークやゴブリンでさえ、野生の獣程度の知恵はある。

 そうそう大人数で対処しようとしたところで、難しいのだ。


「こういった時のための魔法ですから。ご心配なさらずに」


 マルークは思わず本音を漏らしてしまった気がした。

 魔法使いであれば、こんな場合にも容易く対処することが出来る。相手が魔法使いかどうかを判別できるほどの知性を持つ魔物は多くはないからだ。


 だが、ボードソン王は攻撃魔法の研究自体がお気に召さないようなのだ。

 こんな場合にどう対応していくつもりなのだろうと思うと、マルークは歯がゆい思いがする。


 二人は、その晩は宿に泊まり、翌朝はゆっくりと朝食を取った。


「お父様。魔物を探さなくてよろしいのですか?」


 クリスティは不思議そうにマルークに尋ねたが、マルークは落ち着いて答えた。


「ああ。騎士団を動員して探しても、見つからなかったくらいだ。私たちだけで探したところで、そう簡単に見つかるものでもないだろう。奴らが姿を現すのを待つしかないね」


「では、魔物が現れるまで、ずっとここでこうしているのですか?」


 クリスティは不安そうだ。彼女は、今回のシューム行きのために、私塾を休んでいた。

 明日以降も、習い事の予定が幾つもあり、出来れば休みたくはないと思っているようだった。


「いや、そんなことはしないよ。私だって、仕事があるし、クリスティは、私なんかより、ずっと忙しいからね。ただ、今は慌てても仕方がないんだ」


 昨日面会した代官は、魔物の目撃情報は町の東側に集中していると言っていた。だから、マルークはそちらを中心に探してみることにしていた。


「お昼をいただいたら、街道を東に向けて出発しよう。それでも早いと思うがね」


 不安そうな様子を見せるクリスティに、マルークは敢えて笑顔を見せた。



 その日の午後、町の門を出たマルークは、すぐに呪文を唱え始めた。


「ウネノーファ トゥカーラ……」


「お父様。防御魔法なら、私が掛けます」


 マルークの詠唱の声に、クリスティには、彼が使おうとしている魔法が分かったようで、そう言ってくれた。


「そうか。じゃあ、クリスティにお願いしようかな。だが、持続時間は今日の夜までだ。大丈夫かな?」


 クリスティの持つ魔力は、まだまだ少ない。これから経験を積めば増えていくのだろうが、今はまだ、マルークの魔力の方が大きいはずだった。


「やってみます」


 クリスティはそう言って呪文を唱えだした。


「ウネノーファ トゥカーラ ウェーコ フォカボーヴァ」


 クリスティの声が響き、彼女の足下に銀色に輝く魔法陣が現れる。


「我らを護る、力の盾となれ!」


 最後にそう言って詠唱を終えると、魔法陣がひときわ強く輝き、二人を包むように、魔法の防護陣が築かれた。


「うん、いいね。さすがはクリスティだ」


 マルークが褒めると、緊張した様子だった彼女は、嬉しそうな笑顔を見せた。



 マルークとクリスティは街道をゆっくりと東に向かって歩く。

 途中、王都に向かうのだろう、大きな荷物を積んだ馬車が東からやって来たかと思えば、後方から馬に乗った男が、ふたりを追い越して行く。


 小春日和と言うにはまだ早いのかもしれないが、それほど寒さを感じることのない中、街道は長閑な雰囲気だった。


「クリスティ、緊張しなくていいよ。あまり隙のない様子だと、魔物も姿を現さないからね」


 マルークはゆっくりとした調子で、彼女にそう伝える。


(まあ、初めてだからな。そう言っても難しいだろうな)


 彼女の様子は傍目にも、警戒していることが分かるようだった。

 一方のマルークも、別に警戒をしていない訳ではない。ただ、これまでの経験から、油断しているように見せているだけだ。

 クリスティがいるのに、彼が警戒を緩めるはずがなかった。


 そうして、休憩を取りながら街道を東に進んでいた二人だったが、マルークは、日が傾きかけたと見ると、踵を返した。


「クリスティ。これからが本番だ。これからシュームの町まで戻るからね」


 彼もさすがに、クリスティと二人だけで、町の外で野営をする気まではない。

 これから夕暮れにかけてが、勝負なのだ。


 秋の日は、思った以上に早く没しようとして、夕闇が迫って来る。

 その中を、マルークは歩いて行く。


「お父様。静かですね」


 クリスティの声も、何となく不安気だ。

この時間になると、街道を行く人もめっきりと少なくなる。最後に馬車に出会ったのは、もうかなり前の気がした。


「クリスティ。私の後ろに」


 マルークが囁くように伝えると、次の瞬間、クリスティの展開した魔法の防御陣に何かが打ち当たる乾いた音がした。


カン! カン!


 音は断続的に響き、いくつもの石が、防御陣で跳ね返される。

どうやら、二人を目標として飛んできたもののようだった。


「ホブゴブリンだ!」


 石の飛んできた方向を見て、マルークが叫ぶ。

 それと同時に、彼は呪文を唱えた。


「ユネヴォーリト レェユーヴァ フィーゲ フォヨファーヴァ!」


 投石が効かないと見て、数匹のホブゴブリンが錆びついた剣を振りかざして突撃してくる。


「お父様!」


 クリスティの悲鳴のような声が響く。


「力の根源たる万能のマナよ。我が敵を滅ぼす荒れ狂う炎となれ!」


 一瞬早く、マルークの魔法が完成し、周囲を炎が一気に舐めて、ホブゴブリンたちを焼き尽くしていった。


「すごい……」


 クリスティがそう漏らすのを聞いて、マルークは満足だった。

 だが、そのせいで、それに気づくのが遅れたのだ。


「お父様! 危ない!」


 クリスティの叫び声に我に返ったマルークの目の前に、光の矢が迫っていた。


キイィィィン!


「うおっ!」


 クリスティの張った魔法の防御陣を軽々と打ち破り、それはマルークの頬を掠めて、彼方へと飛び去った。

 彼女が教えてくれなかったら、マルークはその直撃を受けていたかもしれなかった。


(これは、ホブゴブリンなんかの仕業ではないな)


 光の矢が放たれた方を見たマルークの視線の先に、黒いローブを着た怪しげな姿があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
お読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ