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君とレベル1  作者: 織吾
3/3

Lv.3 ずっと初期装備

ベリルが魔王討伐を志し、回復魔道士となって5ヶ月。

なんと、未だにレベル1である!


今日も町の外に出て、一番低いレベルのモンスターにエンカウントする。

ただし、このフィールドの最弱モンスターはスライムではない。狐のモンスターであり、レベルは15だ。


「あ〝いだぁっ!!」


狐の突進で吹っ飛ばされたベリルは、あっけなくライフが尽きた。


「結果が分かりきっている戦いによくまぁ何度も挑みますね、ベリル」


「うる……さーい……」



上空で腕を組みながらつまらなさそうに観戦していたのは、例によって悪魔兄弟の一人、ルシードである。

追っ払ってやりたいが、ベリルは動けず地面にへたり込んでいて、悪態をつくのがやっとだ。


音もなくベリルの前に降り立ったルシード。

風圧で狐のモンスターは塵となった。



「こういうの、何と言うか知っていますか?」


「な、何よ……」



いつになく優しく紳士的に、ルシードはベリルの手を取り抱き起こした。

悪魔の手は青白くひんやりと冷たい。

片腕でベリルを抱き抱えたまま、悪魔はベリルの耳元に口を寄せた。



「こういうのは、


 無 駄 骨 っていうんですよ」


「う、る、さーい!バーカバーカ!」



わざわざ介抱してまで嫌味を言いにきたのかこの性悪悪魔は!

こんな奴に助けられるのは癪だけど、ライフが0で動けない以上仕方がない。


不本意ながら悪魔に担がれて街へと戻るベリルであった。


回復魔道士(見習い)ベリル

本日の戦績 戦闘1回

経験値 0

ライフ 0

回復にかかる宿代 350GG



―――――――――――――



「そもそも、あいつがこの街にあたしを吹っ飛ばさなければ、今頃楽々レベル上げできていたはずなのよ」



ベリルは宿屋で休み、やっとライフを回復して部屋を出た。

宿代は元々いた町の7倍もする。またバイトしなければ今日は野宿になってしまう。


悪魔ルシードがベリルを投げ飛ばした時、かなり遠くの街に降りてしまったのだった。この街の周りの敵も、前いた街よりも強くなっており、スライム一匹に奮闘していたベリルではとても歯が立たないのである。

当然レベルを上げるどころではない。

そして宿などの物価も高い……。

このまま宿代のためにバイトしつつ街に出ても、即倒されてしまいレベルを上げることはできないため、詰みである。



「この状況を打開するには、

 もう装備品しかないわ」



そう、この街はただ物価だけが高いわけではない。より性能の良い武器や防具が売られているのだ。

どんなにレベルが雑魚でも、装備が強ければこの周りで敵を倒し、一気にレベルアップできるはず。しかし。



「お金がない……」



ちなみにベリルの装備は全て初期装備である。

武具屋を目指して市場を散策していたベリルは、窓に映る自分の姿をまじまじと見た。


緩いウェーブの淡い金髪を腰ほどまで伸ばした、褐色の瞳の女の子。背が低いせいでかなり幼い印象を与える。

白いベレー帽も、白い布製ローブもくたびれている。木の靴も擦り減っていて不恰好だ。

背負っている杖も初心者用の樫の杖で、魔力を引き出すよりも打撃に向いたものである。



「うーん、装備の性能もなんだけど、

 見た目も何とかしたいなぁ。

 これじゃ浮浪者みたいだし……」



ベリルは武具屋の前で立ち止まった。

入って装備品を見たい気持ちはあるが、お金がないのに買いたいものだけ見るのはどうか、と二の足を踏んでしまう。



「何でも見た目から入ろうとする人いますよね

 誰がとは言いませんが」


「!? ちょ、あんたどっから湧いたのよ!」



突然隣に現れた悪魔に、ベリルは思わずのけぞった。



「まぁでも貴女の今の格好、

 下手したら浮浪者ですからね、無理もないか」


「あんたに改めて言われるとムカつくわ」


「で、お金はどうやって用意する

 つもりですか?」


「……ば、バイト……」


「宿代を稼ぐので精一杯じゃないですかねぇ、

 給仕のバイトでは」


「わ、分かってるわよ!

 もういっそ、夜の仕事だってやってやるわよ」


「夜のって……」



酒場のウェイトレスを夜中のクローズまで入れば、少しずつだが装備品のための貯金ができるはずというのが、ベリルの計画だ。

ルシードはその言葉に思うところがあるのか、苦い顔でしばらく考えていた。

そして、



「なら、僕が買ってあげましょうか」


「はあ?」



また突拍子もないことを言い出した。

絶対罠だ。絶対何かある。



「まぁ、タダでというのもつまらないな。

 そうですね、いくつか装備品を試着して、

 僕が似合ってると言ったら買ってあげます」


「ほら来た!どうせあたしをおちょくるだけ

 おちょくって、結局何も買わせないんだ!」


「で、やるんですか?やらないんですか?」


「……」



----------



結局ベリルに選択肢はないのだった。

散々邪魔ばかりされてきた憎たらしい悪魔に頼りたくはない。プライドもある。

でもお金がないから仕方がない。


二人で武具屋に入り、ルシードは「これが人間の装備品ですか」と物珍しそうに見て回った。

店主は「お代をカウンターに置いてご自由にお取りください」と言い残し、さっさと逃げて行った。

むしろお代などいらないから装備を持ってすぐ去って欲しいようでもあった。ここでも悪魔兄弟の恐ろしい噂は健在らしい。



(まあ、一番高い装備を買わせて売ったお金で、後から自分で買い直せば)


「転売なんて心無いことは辞めてくださいね。

 せっかく僕が選ぶのに、

 傷つくじゃあないですか」


「心を読むんじゃない!

 悪魔が心無いとか傷つくとか言わないの、

 白々しいったら!」


「貴女の顔に出ている表情を言葉にしてみた

 だけなんですがねぇ」


「もう、いいからさっさと選びなさいよ!」



ベリルは出来るだけ心を無にすることに徹した。

ルシードに渡された装備を機械的に身に付け、披露し、また脱いでは身に付ける。



「なにこれ……」


「着ぐるみですね、猫の」


「見りゃわかるわよ!何のための服よこれ!」



心を無に……は無理だった。




「今度は何、サイズ全然合ってないんだけど」


「一般的な成人女性のローブですが、

 ベリルの足の長さだと、

 子供用がぴったりのようですね」


「いちいち嫌味言うためだけに着せてる!?

 ねえ!?」





「どゆこと?

 いつものウェイトレスの制服じゃん」


「いえ、これはハウスメイドの制服ですね」


「もしもーし?

 あたし、回復魔道士なんだけど、お忘れ?」


「ああ。回復魔法をかける前に、いつも

 ライフ0になっているから忘れてましたよ」


「誰のせいでライフ0になってるかお忘れ?

 とにかく本業はウェイトレスでもメイドでも

 ないから!!」





「だーかーらー、回復魔道士なんだって

 言ってるでしょ!?

 なんで鎧なのよ!しかもビキニ!変態!」


「心外ですね、貴女がこの店で一番高い装備に

 しろと言うから従ったまでですよ。

 それに防御力も一番高いようです」


「なぜに!?面積こんな少なくてどうして

 防御力が!?」


「まあ、少しも似合ってませんけど」


「ならなぜ着せた!?」





「はあ、はあ……もーいいわ、いい加減!」


「もういいんですか?まだ似合っていると

 僕は言っていませんが」


「どうせどの装備だって言う気ないんでしょ!」



やる前からわかってはいた。

完全に着せ替え人形のおもちゃと化したベリルだった。おかしな服を着せられるたびに言い合っていたため、ベリルは疲れ切っていた。

一方のルシードは、お気に入りのおもちゃで遊び尽くして満足したようににこやかだ。



「この帽子、ベリルが今被っているものと

 形が似ていますね。今のより魔力強化も

 つきそうですし」


「ほんとだ可愛い」



やっとまともな装備品を選んできたので、もう少し付き合ってやろう、とベリルは帽子を受け取った。

その時、店の扉のベルが鳴った。



「こんにちはー。あれ、ロングさんいない。

 こんな時間に店を開けるなんて……」



幸か不幸か--多くの場合不幸となるが--青年が一人、悪魔のいる店に足を踏み入れてしまった。



「……あれ?君は……」


「あ、」


「ベリルじゃないか、どうしてここに?」



青年は帽子を手に取った女性をベリルと呼び、驚いた様子で声をかけた。

ワンテンポ遅れて、ベリルも青年の正体に思い当たった。



「ジェイ、あんたこそどうして?」



ベリルがジェイと呼んだ青年。彼はベリルと同郷の村出身である。

ベリルが冒険者として旅を開始してからも、彼は村に住み続けているはずだ。



「僕の家は革加工品の卸売だろう?

 この店にも卸しに来ているんだ。

 ベリル、君がここにいるということは、

 順調に旅を続けてるってことかな?」


「……そうであってほしかったけどね」



実際はレベル1のまま不相応なレベルの街に飛ばされて金欠で困ってます、と暴露するのは恥ずかしすぎる。だが、



「ベリルはまだレベル1ですよ。

 どじを踏んでこの街に飛ばされてしまい、

 路銀が尽きて途方に暮れているところです」



随分とまあご丁寧に暴露してくださること!

ベリルはルシードを力一杯睨み付けたが、悪魔の気分を一掃爽快にさせるだけだった。



「……!?あ、悪魔兄弟…」



ルシードの存在を認めたジェイは一気に顔面蒼白となる。



「怯えなくてもいいですよ。

 特別興味のない人間には何もしませんから」


「は、はあ……」


「それより、ジェイさんはベリルと

 同じ村出身だそうですね。

 ベリルを村まで送ってあげては?」


「は?」


「ベリルの路銀は尽きていますし、この町で

 旅を続けることは困難でしょう。

 一度村に戻って仕切り直しては

 いかがですか?」


「そ、そういうことなら僕の馬車に

 乗っていきなよベリル」


「な、なんでそうなるのよ!」



ルシードは、さも親切を施したような笑みを浮かべ頷いた。どうやらベリルを村に送還するのが目的らしい。

ジェイはジェイで、一刻も早く悪魔の元から去りたいがために、二つ返事で提案を受け入れた。



「さ、ベリル行こう」


「だって、村に戻ったら本当に

 振り出しじゃないの!」


「ジェイさん、彼女は装備がぼろぼろなので、

 貴方の店の装備品をいくつか譲ってあげて

 くれませんか。

 そうすれば多少は前より楽に戦闘に

 挑めるのでは?」


「そ、そうですね!

 それくらいいくらでも渡せますよ」


「ぐっ……

 ……わかったわよ……」



ついにベリルが折れると、ルシードは満足そうに微笑み、ジェイは未だ青ざめた顔でコクコクと頷いた。



「さ、さ、行こうベリル!馬車はこの通りを出て

 少し行ったところだよ。」


「うん……」



ジェイはベリルの背をどんどん押し、店の出口に二人で向かおうとしていた。



「装備品も馬車にいくつか置いてあるから、

 村に着くまでに見てみるといいよ。

 元婚約者のよしみだ、値が張るものでも

 割引するから……」



ボン!



「うわっ!?な、なに!?」



突如、白い煙が立ち上りベリルの視界を奪った。同時に、ぐいぐいと背を押していた手が離れていた。

煙はすぐに引き、何事もなかったかのように店はしんと静まりかえっている。

店にはベリルとルシードの二人きりである。



「ん?あれ、ジェイは?」



ジェイが消えた。忽然と。

ひとり店を出て逃げ出したのか?

店の中をベリルが見回すと、自分の足元にちょろりと蠢く影を捉えた。


イモリだった。



「……」


「……」


「ルシード、あんたまさか」


「手が滑りました」


「はいぃ!?!?」



特別興味のない人間に手出ししないんじゃなかったのか。

悪魔の思考回路は意味不明だ。

戻せと言っても上の空で悪魔は聞き入れない。


どうすることもできないベリルは、変わり果てた姿の同郷人を手に乗せ、せめて静かに暮らしてね、とそっと森に放すのだった。



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