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君とレベル1  作者: 織吾
2/3

Lv.2 ずっとひとりパーティ

ベリルが魔王討伐を志し、回復魔道師見習いとなって4か月。彼女はまだはじめの田舎町にいた。


「あの悪魔が邪魔するせいで、

 ぜんっぜんレベルが上がんないわ。

 こうなったら、「仲間」作戦よ!」


仲間作戦とは……仲間と共闘して敵を倒し、半分ずつ経験値を得る方法である!

ベリルは戦わずとも、仲間に付き添って回復魔法かけるだけで、ぐんぐんレベルが上がっていくはずだ!


「本当はある程度レベルを上げてからにしたかったけど、

 この調子じゃ埒があかないもの」


いざ、仲間探し!

パーティ募集掲示板へ!!


----------



「………」


「あの、よろしくお願いしますっ!お、お姉さん」


ベリルとパーティを組まれたのは、小さな武闘家の男の子だった。


(いやいや、この子あたしよりレベル高いし!

 攻撃型だし!大丈夫!!)


「あ、あの〜?」


「あ、ごめん。

 うんうん、よろしくね。

 お姉さんとがんばろ?」


「はい!」



仕切り直して。

無事パーティを組めたことだし、早速レベル上げのため魔物を倒しに行こう。

小さな子がはぐれないように手を繋ぎ、街の外に向かって歩き出そうとした。……が、



「キャーッ!!!」



すぐ横の路地から娘の悲鳴。

黒い翼の悪魔--両目が黒髪に隠れている。イザークの方だ--が、娘を抱えて攫うところだった。



(い、嫌な予感が……)



「うわあぁ!!悪魔兄弟が来たぞ、隠れろ!!」



ドガーン!!!



イザークが灼熱の息を吐き、路地の家々を焼いていく。



「お、お姉さん……」


「だ、大丈夫よ、よしよし。こっちに隠れましょ」



武闘家の男の子はすっかり怯えてしまっている。

無理もない。田舎町でこんな悪魔の所業を目にしているのだから。

ベリルは男の子を抱き寄せて背中をポンポンしてやり、路地の反対側に二人で隠れようとした。



「あ、やべ、娘一匹まるこげにしちまった」


「まったく、少しは加減を覚えてくださいイザーク」


「わりぃ兄貴」


(さ、最悪だわー!!)



兄の方も来てしまった。

見つからないことを必死で祈ったが、願いも虚しく。



「ん、ベリルではないですか」


(ちょ、こっち来んなし!)


ルシードはあっさりベリルの居場所を突き止めると、ひとりスタスタと向かってきた。



「ひぃっ!み、み、見つかっちゃった、うわぁあん!!」


「だ、大丈夫、大丈夫だから!ね?」



男の子は恐怖に耐えきれず泣き出し、ベリルは必死で男の子を抱きしめて宥める。何が大丈夫なのか全く根拠はない。



「……」


「ベリル、その子は?」



ルシードはベリルたちの前に立つと、冷ややかな赤い眼で二人を見やった。

いつになく威圧的な目線にゾクッと背筋が冷える。



「お、お姉さん……

 あああ、悪魔兄弟の仲間なんですか?」


「ち、違……」


「なぁ兄貴、ガキもオーガの餌になるよなぁ!?

 そっちでもいいか!?」


「うわあぁぁああん!!!」


「ま、まって僕ーーー!!」



男の子はベリルの腕を振り解き、泣きながら一目散に走り去ってしまった。



「ああ、もしかしてパーティを組んでいたのですか?」


「たった今台無しになったところよ!」



--------



数分でパーティ解散とあいなったベリルだったが、なぜかその元凶の悪魔と同じテーブルを囲み、カフェでパンケーキを食べていた。

イザークは人攫いの仕事の後処理をしているようで、ここにはいない。

そして、先ほどの騒ぎのせいでカフェから店員も客も逃げ出し、今はベリルとルシードの二人きりである。



「なんであたしがあんたとお茶なんか」


「まあまあ、パーティ組みのお邪魔をしてしまったお詫びですよ」



ぜんぜんまったく侘びていそうにない笑顔である。



(ふん!……食べるけど!)



金欠のベリルは、ぷりぷり怒りながらも、数ヶ月ぶりの甘味をもりもり味わった。



(だけど結局、普通にパーティ組めたとして、

 こいつらに接触されたら同じことなのよね)



魔王直属の悪魔兄弟と言えば、人間も魔物も震え上がるほどの力を持つ。まともな冒険者なら逃げるの一手のみ。

つまり、この兄弟に付きまとわれている以上は詰みなのだ。



「はあ、このままパーティ組むのは無理みたいね」


「なら、僕をパーティに入れますか?」


「はぁあ!?!?」



思わずベリルはフォークを取り落とし、ガシャン!と立ち上がった。相変わらず涼しい顔で無茶苦茶を言う悪魔である。



「冗談じゃない!そんなことしたら、

 悪魔憑きの魔導師って噂が立って

 誰も組んでくれなくなるわよ!」


「ああ、そうだろうね」


「そうだろうね、じゃ、なーい!!」



全力でツッコミすぎて、肩で息をするベリル。

そんな彼女を、悪魔は頬杖をつきケラケラ笑いながら満足げに見ている。


からかわれてる、おちょくられている。

分かっているのだけど、この理不尽な悪魔にどうしても物申さずにはいられないベリルだった。



「はあ、はあ……あんたねぇ、

 私に付きまとうの、いい加減に、やめてよね!」


「いつ、付きまとったって?

 君が僕たちの足元を

 うろちょろしているだけだというのに」



口では全くかなわないし響きもしない。



「もうそろそろ諦めて君の村に戻ったらどう?

 帰りの馬車の駄賃くらいは持ってるんだろう」



むか。


ムカムカ。



ベリルはぐいっと顔をルシードに近づける。



「?」



一瞬ルシードの顔がこわばった。

その隙を見て、ベリルはルシードのパンケーキ皿を思い切り



「ぜええーーーったい、戻らない!!」



ベチャァ!!!



ルシード目掛けて投げつけた。



「……」



悪魔の端正な顔がクリームとベリーソースまみれである。



「そうだわ、このままあんたを

 ぶったおしたら、あたし

 レベル上がるんじゃないかしら?」


「ほう?」



次の瞬間、



「えっ?……え?」



ベリルは悪魔の腕に抱き抱えられていた。

お姫様抱きである。


ぽた、とベリルを見下ろす悪魔の顔から、クリームが垂れて、ベリルの頬を伝った。



「やれるものなら、どうぞ?」


「え?わ、ちょっと何…」



次の瞬間、ベリルの体はルシードの右手にボールのように乗せられ、そのまま悪魔は投擲の構えをした。



「ま、ま、待って、まっ……」



バシュッ!!



「ぎゃあああああ!!!!!」



遥か彼方の空へベリルは投げ出された。


魔王討伐の道は遠い……。




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