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君とレベル1  作者: 織吾
1/3

Lv.1 ずっと旅の始まり


爽やかな風が吹き抜ける平野。


少し歩けばのどかな田舎町があり、初級冒険者の出発地点となるようなこのフィールドで。


初級モンスターーースライムーーと対峙し、睨み合う女の子がいた。

正確には、女の子がスライムを睨みつけていた。


(倒せる!!敵のライフは2……

 2回殴り合えばギリギリあたしの勝ちよ。

 落ち着いてやれば確実にできる。これで……)


「Lvアップよ!!!

 でりゃあぁああああ!!」


幼げな見た目に似つかわしくない雄叫びをあげ、女の子は手にした杖でスライムに殴りかかった。


……が、突然女の子の頭上に影が落ちる。




ひゅるるるるる



ぷちっ


「ぴぎゃ!!」



女の子が顔を上げる間もなく、空から黒い翼の男が降下し、非情にも着地したのだった。……女の子の上に。



「おや、ベリル。僕の足元で何をしているのですか?」


「こんにゃろう!!女の子足蹴にしてんじゃないわよ!!」


ガバっとベリルは起き上がり、涼しい顔で踏みつけてくる翼の男を押しのけようとジタバタする。


「どきなさい、あたしは今大事な一戦……」


スライムに目を戻す。

怯えた様子のスライムはまさに逃げ出そうとしていた。


「ふっ」


コテッ


「あー!!!」


翼の男の吐息を受け、スライムはあえなく倒された。



「ゴミ掃除しておきましたよ、礼には及びません」


「バカバカ―!何してくれちゃってんのよおおおぉ!!」


「あはははははははは」



回復魔道士(見習い)ベリル

本日の戦績 戦闘1回

経験値 0

ライフ 0

回復にかかる宿代 50GG



―――――――――――――



翼男に踏みつけられたおかげで瀕死状態になってしまったベリルは、這いつくばって何とか町に戻っていた。


この町は初級冒険者が最初に集う町。

少し装備を揃え、レベルを上げたらすぐ次のダンジョンへいく通過点に過ぎないはずなのだが。

魔王討伐を志してはや4ヶ月。いまだにベリルはLv.1なのだった……。


「ああ……レベルも1のまま、お金もジリ貧……」


宿の扉を背にし、ベリルは長いため息をついた。

宿に泊まり体力を回復したものの、宿代が底をついたのである。

小さな背中が余計に縮こまっている。


ここは初級冒険者がはじめて訪れる町だ。

レベルが上がらないなら、今より少し強い武器を手に入れることで、町の周りの魔物を簡単に倒せるようになるはずだ。


けれど、お金がない。


明日の宿代も工面できないほどに。



「はあ、仕方ない。またバイトしなきゃ」



―――――――――――――



「ベリルちゃーん!奥のテーブルに麦酒3つ!!」


「はあーい!」


(ああ、何が悲しくてこんな田舎町の酒場のバイトを4ヶ月も)



宿代稼ぎのバイトは、酒場のウェイトレスである。

少し短めのスカートに白いエプロンの制服。若干年齢的にもう恥ずかしいのだが、文句を言ってはいられない。


(ルシード・・あの性悪悪魔ったら!

 あいつのせいでまたレベル上がんなかったわ!

 ぜえええーーんぶ、あいつのせいよ!!)


思い出すだけで腹が立ってくる、あのスマした出立ち。

黒い大きな翼、黒髪に冷めた赤い眼。

ルシード……奴は魔物の中でも最上位にあたる、悪魔の種族だ。

全ての魔物を統べるのは魔王であり、魔王の直属の配下が悪魔である。

その悪魔が、なぜかこんな低レベル帯の町に現れては、ベリルを踏んづけて去っていくのである。



「ベリルちゃーん。もう看板娘になっちゃえばあ?」


「はいはい、麦酒追加でいいですよねー?」


あまりにもバイトを入れすぎて、酔っ払いおじさんに絡まれることもしばしば。


(我慢我慢。宿代返すまでの……)



「イモリの黒焼き一つ」


「はいただいま~って、


 やだなぁお客さん、

 うちにはそんなもの置いてません…


 ってあんたかい!!!」


「見事な2段ノリツッコミをどうも」


黒髪に赤い眼……悪魔ルシードが、もう一人の悪魔を連れて席についていた。

田舎町の酒場に悪魔。

絵面がおかしい。


「お、おい、あの悪魔兄弟だぞ!?

 なんでこんな寂れた酒場に!?」


周囲の客が彼らに気付きはじめた。

……嫌な予感がする。



「何しに来たのよルシード!」


「お客ですよ。注文したではないですか」


「イモリとかないから」


「あるでしょう?

 そこに」


ビビッ


ボン!


「うわぁぁああ!?」



イモリが爆誕した。

哀れにもさっきの酔っ払いおじさんである。



「何してんの!?ねぇなにしてんのよ!!??」



突如悪魔にイモリに変えられた客、混乱し店内から逃げ出す客たち、飛び交う怒号。


そして……………




クビである。



「はあぁ……宿代……」



店からつまみ出されたベリルは、膝から崩れ地に手をついてへたりこんだ。

また金欠、ずっと金欠。



「地べたがお好きで」



後ろ手を組み長身を腰から折り、悠々とベリルを見下ろすルシード。

そうだ、こうやって見下ろされるのもムカつくんだった。



「ルシードおおお、あんたってやつはっ!!」



一矢!!報いてやるー!!!!


ベリルは悔し泣きながら、渾身の足蹴りを放った。

そしてそれはコバエのようにふわりといなされ、弟悪魔イザークにより、遥か上空に吹っ飛ばされるベリルなのであった。




レベルアップの道のりは遠い。




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