後編
翌日、朝市で賑わう表通りを、この国の兵のマントを着たブラッドハート王子が見物していた。
「懐かしいな。以前、視察した時のままだ」
ブラッドハート王子は笑みを浮かべて、活気のある通りを見回した。
「ご覧ください。さすが、ネバーローズ王国だけあって、薔薇の種類が豊富です」
側近が花屋に顔を向けた。
「ああ、フロンティアに買って帰るとしよう」
帰りに寄ることにして、ブラッドハート王子は先に進んだ。
すると、少し先の家の扉が開いて、若い娘が出てきた。
ブラッドハート王子は立ち止まって、町を見回す娘をじっと見た。娘のオッドアイの瞳も王子を見た。
ふたりは一瞬見つめあったが、娘は男に見つめられたせいか、不安そうな顔を見せて家に入った。
「町娘はどこも変わりませんな」
側近が王子の視線の先に気づいて言った。
「しかし、町娘にしては、美しい娘でしたな」
「……もう、戻るぞ」
力のない王子の命に、側近は少し首をかしげた。
そして、薔薇を買うのを忘れている王子に、困惑しながらつき従った。
ブラッドハート王子は薔薇も側近も忘れて、物思いに耽りながら歩いていた。
まさか、今さら、一目惚れするとは。
いや、見た目だけだ。心はフロンティアに惹かれている。
王子は思い直して、さっきの娘を振り切るように力強く歩いた。
その頃、屋敷のフロンティアの中の人は、フロンティアの部屋の安楽椅子に淡い桃色に金糸で薔薇が刺繍されたドレスを着た体を預けて、物思いに耽っていた。
昨夜見た夢を思い返した。
森の中に倒れた娘
あれこそが、自分の本当の体だと確信して、飛び起きたのだった。
自分は事故で死に、愛読していた小説のヒロイン、このフロンティアに転生したと思っていたが、そうではなく、なにかの間違いで本来入るはずのあの体ではなく、フロンティアの体に入ってしまったのだ。
「どうしよう」
フロンティアの体で突っ走ってしまった。
このままでは、いずれ戦争になっていたネバーローズ王国とバルダンディア王国。
大好きなブラッドハート王子の戦死を回避するためとはいえ、フィル王子とブラッドハート王子の会談に乗り込み、フィル王子に婚約破棄を突きつけ、ブラッドハート王子に好きですと告白してしまった。
結果、ブラッドハート王子はフロンティアと結ばれ、フィル王子は令嬢シルビアと結ばれた。
気絶しそうになってのけぞり、額に手の甲を当てた。
私は? あの体はどうなったのだろう?
その前に、ブラッドハート様は、私ではなく、フロンティアと結ばれて喜んでいる……
両手に顔を埋めて嗚咽をこぼしたが、あまりのショックのせいで頭が少し麻痺しているのか、涙は出なかった。
なにもかも話さなければ。あの体を探さなければ。
独りで探すことになるかもしれない。
最悪の予想に、体が動かなかった。
そうして、動けないでいる間にブラッドハート王子が帰ってきた。
ブラッドハート王子は、どこか、悩ましげな顔をしていた。
「どう、なさったんですか?」
「そなたこそ、どうしたのだ? 顔色が優れぬようだぞ?」
王子は鋭い目つきだが、心配した顔で近寄り、黒い軍服の膝をついて手をとった。
「あの、私」
中の人はゴクリと息を呑んだ。
「話さなければならないことがあります。衝撃的なことです」
「なんだ? 衝撃的とは?」
王子は笑いをこぼした。
「はい……実は、私はフロンティアではないのです」
「……なに? フロンティアではない?」
王子は美しい人形のように、機械的に聞き返した。
「はい」
「では、誰だというのだ?」
まだどこか機械的な王子に、慎重にゆっくりと答えた。
「私は、ここではない町で生まれた者です」
「そんな者が、どうしてフロンティアの体に居るんだ? 魔術かなにかか?」
「いいえ、私は死んで、フロンティア様の体に入り込んだのです」
「死んだ?」
王子の目が見開き、手に力が入った。
「はい。仕事の帰りに事故に遭って、確かに死にました。それから、目が覚めるような感じで気がついたら、フロンティア様になっていたんです」
王子は理解するために、言ったことを反復した。
「それは、いつのことだ?」
「昨日の会談が始まる、少し前です。私はフロンティア様に生まれ変わった、この自分は前世の記憶が蘇っているだけだと思って行動していましたが、違ったんです。フロンティア様とは別人なのです」
中の人は王子の反応を待つために、そこで黙った。
長い沈黙が過ぎ去った。
「お前は、フロンティアではない。では、フロンティアはどこに行ったのだ?」
当然だがそれを気にする王子に、胸が痛んだ。
「わかりません。体の中で、眠っているのかも」
ふたりはフロンティアの胸に目を向けた。
「私は、この体から、出て行きます。出て行かなくてはいけませんから」
ブラッドハート王子の戦死を回避できて、それだけで、悔いはなかった。
王子が顔を上げた。
「出て行くとは、どうやって、どこに?」
「さっき、夢を見ました。私の本来転生するはずの体が、森の中に倒れている夢です。あの体を探しに行きます。それまで、フロンティア様の体はお借りしないと。それから、出て行く方法はわかりません」
最後は力なく答えると、王子は片手で額を支えた。
しかし、すぐに王子は小さく笑って顔を上げた。
「ひとりで、思い詰めるな」
真剣な顔に見据えられて、中の人はドキリと胸が詰まった。
王子はフロンティアの中の女を、見ようとしていた。
「お前は、俺に惚れていて、俺やフィル王子達に降りかかる悲劇を止めるために、行動したのだろう?」
「はい……てっきり、フロンティア様に転生、生まれ変わったと思っていて、こうするしかないと、後先考えずに行動しました」
「フロンティアに生まれ変わったと思ったか。それなら、俺でも好き勝手するだろうな。あれほど大胆な事ができるのは驚きだが」
会談に乗り込んできた姿を回想して、王子は言った。
「あそこまでやって、俺の心を手に入れておきながら、そんな顔で出て行くなど、どういうつもりだ?」
王子の指が、優しく頬を撫でた。
顔をあげると、王子は微笑んでいた。
「元の体に戻るのはいい。だが、俺のそばに居いるんだ。いいな?」
「ブラッドハート様!」
胸に飛び込んでくるのを抱き締めながら、ブラッドハート王子は天井に目を向けた。
フロンティアだけを思い続けると思っていたが、まさか、三人の女に惹かれることになるとは。
「心配するな。そなたに、一番惹かれている」
王子は自分にも言い聞かせるように言った。
ふたりはほっとして、しばし、見つめあった。
「死ぬ前のお前は、どんなだった?」
「……ただの、町娘です」
「ほう、名前は?」
「名前は、忘れました」
視線をそらせてから答えて、目を合わせて続けた。
「今は、フロンティアと呼んでください。そして、本当の体に戻ったら、新しい名前をつけます。その名前で、呼んでください」
「わかった」
王子は楽しんでいるような笑みを返した。
「では、体を探しにいかないとな」
「はい」
「悪い男に攫われたり、獣に喰われたりしてなければいいがな」
王子の心配に、中の人はゾッと体を震わせた。
「フィル王子の力を借りよう。そなたが今した話も話さねばならぬことだ」
「はい」
ふたりは急いで城に向かうことにした。
♢♢♢♢♢♢♢
その頃、フィル王子は城の自室にいた。
金髪碧眼の美しい王子は長椅子に座り、隣に座る絵画から抜け出たように美しいシルビアと見つめあっていた。
「夢のようだ。君と、朝からこうしていられるなんて」
「私もです」
頬を染めて微笑むシルビアの額に、王子が手を当てた。
「ずいぶん、顔が赤いな。熱もあるようだ」
誰のせいですかと心の中で返しながら、シルビアは苦笑いした。
「昨日は一日、大騒動だった。疲れが出たのか?」
「いいえ、大丈夫ですわ。けれど、本当に色々なことが、一気に起こりましたわね」
ふたりが寄り添って回想していると、扉がノックされた。
その回数とリズムは、王子の友人のクロスだけができるノックだった。
「こんな朝早くから、友人が訪ねてきたようだ」
フィル王子は立ち上がった。
「ご友人?」
「クロスという名の兵士だ。丁度いい、君に紹介しよう」
王子が扉に近づくと、やはりクロスの呼びかける小声が聞こえた。
開けると、軍服姿のクロスと町娘がいた。
「大事な話があるんだ」
隣は誰か聞く前にクロスが言ったので、王子はふたりを部屋に入れた。
シルビアも立ち上がってふたりを迎えた。王子はその隣に立ち、改めてふたりを見た。
「突然失礼致します。王子、シルビア様」
クロスが落ち着いた態度で、ふたりに挨拶した。
「クロスさん、何度かお会いしたことがありますね?」
シルビアはクロスに笑いかけた。
「はい」
美しいシルビアに、クロスは眩しそうに瞬きした。
「その方は? まぁ、オッドアイ」
「本当だ。幸運を呼ぶオッドアイだ」
シルビアと王子は子供のように、娘の瞳を見つめた。
「この人は、フロンティア様です」
クロスの答えに、王子とシルビアはえ? と首をかしげた。
「フロンティア様、話してくれ」
フロンティアはクロスにうなずいて、自分の身に起きたことを話した。自分がフロンティアである証拠も、いくつかの質問に答えて証明した。
「君が、本当のフロンティアで、会談に現れたのはフロンティアではない?」
王子が確認するように、まだ驚きの顔で言った。
「私は、私達は君抜きで、ここまで話を進めてしまったというのか?」
王子とシルビアは硬い顔を見合わせた。
「おふたりのこと、祝福致します!」
フロンティアはすぐに言い切った。
「幼い頃の約束より、シルビア様と育んだお気持ちを大事になさってください」
「フロンティア」
切実なフロンティアに、王子はなんとも答えられなかった。
そこで、フロンティアはクロスに顔を向けた。
「私も、あの約束の後に出会った、この方への気持ちを忘れられないのです」
王子とシルビアの視線が、クロスに注がれた。
「なるほど、私達はお互いに」
それ以上は言葉にできずに、王子はフロンティアに微笑みかけた。
「フロンティア、私は、君のことを本当に想っていた」
「私もです」
ふたりは久方ぶりに、心から微笑みあった。
フロンティアはシルビアとも、微笑みと心を交わした。
王子がクロスに向かって足を踏み出した。
「クロス、なぜ、言ってくれなかった?」
「言う必要はなかった。頑張って諦めていたんだからな。しかし、友人でいるのが辛くなっていたところだった」
クロスと王子も笑みを交わした。
「しかし、こうなってよかったとは、手放しには言えない」
ほっとした空気が流れてから、クロスが言った。
「フロンティア様の体を乗っ取った奴を、どうにかしないことには」
「そうだ。ブラッドハート王子とフロンティアを、ここに呼ぼう!」
王子は濃紺の軍服の上を着ると、大股に部屋を出て行った。
「乗っ取った?」
シルビアが不安な面持ちでふたりに聞いた。
「そんな恐ろしいことをしながら、彼女がしていることは、ブラッドハート王子と結ばれて、ネバーローズとバルダンディアが平和的な同盟を結ぶ手助けですわ」
「その先に、なにか、企んでいるのかもしれません」
クロスの憶測に、シルビアとフロンティアは不安な顔を見合わせた。
三人が重苦しく黙っていると、王子が戻ってきた。
「フロンティアとブラッドハート王子、ふたりの方から来てくれた」
そう報告した王子はシルビアの隣に立った。
四人が並んで待ち構えていると、フロンティアとブラッドハート王子が入ってきた。
♢♢♢♢♢♢♢
ブラッドハート王子は並ぶ四人の中に、一目惚れした娘が居るのを見て、目を見開いた。
その隣で、フロンティアの中の人も、同じ娘を見て目を見開いた。
自分が本来入るはずの体だと、確信したからだった。
なぜなら、その姿が知っている姿だったからだ。
小説を読む度に空想していた、理想の自分の姿。
ネバーローズ王国に伝わる、幸運を呼ぶというオッドアイだが、いわゆる、ただのモブの町娘を空想していて、目の前の娘はその通りの格好をしていた。
隣のシルビアの着ている、上等の生地に金の刺繍がされたドレスとは比べられない、白いブラウスに荒い革製のコルセットワンピースにブーツだが、それでも、理想通りの格好だった。
驚きと喜びに突き動かされて、フロンティアの中の人は理想の自分の前に立った。
目が合って、しばし、見つめあった。
「お前は、何者だ?」
そんな静寂に、クロスが切り込んだ。
「あなたは?」
「俺のことはいい」
「城の兵で、私の友人のクロスフォードだ」
フィル王子が代わりに答えた。
「そして、フロンティアの大事な男だ」
中の人は驚いて、クロスをもう一度見た。
クロスフォード。フィル王子の友人で、フロンティアへの想いを隠してふたりのために戦う兵士。
胸がとてつもなくキュンとなった。そして、フロンティアと結ばれたらしいことに、心から安堵して喜んだ。
「フロンティアとは、君のことではない」
フィル王子がそんな中の人にさらに言って、
「この娘が本当のフロンティアだ」
と、オッドアイの娘を片手で示した。
「彼女の話は聞いた。さぁ、君からも聞かせてくれ。なにもかも」
「お話します」
中の人はうなずいて、事故に遭ってからのことを、ブラッドハート王子に助けてもらいながら、全て話した。
「フロンティアに生まれ変わったと思って、一連の行動をした。そういうことか?」
「はい」
フィル王子の確認にうなずいた。
「なにも、企んでいなかったのか? ただ、ブラッドハート王子への想いのためと、予知夢で見た、両国に起こる戦いを未然に防ぐために行動した?」
「はい」
クロスの確認にもうなずいた。
「こんな事態になって、困惑しているのは彼女も同じだ」
ブラッドハート王子が肩に手を置いて庇った。
「フロンティア様!」
中の人はオッドアイの娘に頭を下げた。
「なんであろうと、体を勝手に使ってしまい、申し訳ありません!」
「顔をあげてください。貴女のお気持ち、よくわかります」
ブラッドハート王子が抱き起こす自分の泣き顔に、フロンティアは微笑みかけた。
「私も、この体になって真っ先に、貴女と同じことをしましたから」
フロンティアはクロスに微笑みかけた。
「こうなってよかったのです。私が事前に、これから起こる悲劇を知っていたとしても、同じ行動はできなかったでしょう。その、思い浮かびませんから」
フロンティアはブラッドハート王子から目をそらせた。
「フロンティア、私に会った記憶はないんだな?」
ブラッドハート王子がフロンティアと向かい合った。
「はい。お会いしていたとしても、その」
「わかった」
口籠るフロンティアにブラッドハート王子は笑いかけた。
吹っ切れた笑顔だった。
「これで、俺の用事は済んだ」
ブラッドハート王子はフロンティアの中にいる女に笑いかけた。
「他の女に惹かれたり、拒絶されたりする男は嫌か?」
「そんなことはないです! 私も、フィル王子様や、クロスさんにちょっと、惹かれてしまいましたから」
「なんだと?」
「言いました、正直に言いましたから、不問にしてください!」
「……わかった」
仲の良いブラッドハート王子と自分を、フロンティアは祝福しようとして、もう一度、よくふたりを見返した。
結ばれた自分の体とブラッドハート王子?
「まっ、待ってくださいー! それは、それはー!?」
言葉にできずに、フロンティアは両手を伸ばした。
その両手を、中の人が両手で受け止めた。
触れ合う瞬間、ふたりは入れ替わるのを感じた。
「戻りました!」
フロンティアの喜びの声に、王子達とクロスとシルビアが驚きの目を向けた。
クロスが慎重にフロンティアに近づいた。
「本当か、フロンティア?」
「はい!」
フロンティアはクロスの手を取った。
「よかった!」
クロスはフロンティアの手を握り返し、ふたりは抱き合った。
「では、そなたは?」
ブラッドハート王子がオッドアイの娘に聞いた。
「私も戻れました! 本当の体に、森で倒れていた体です!」
体を見下ろす娘に、フロンティアが顔を向けた。
「森で倒れていた? 夢で見たのですか。その夢は正夢というものではないでしょうか? 私はその体で、森の中に倒れて居たのですから」
フロンティアに確証をもらって、娘はさらに喜んで安堵した。
そして、オッドアイの娘とフロンティアは手を取り合って、お互いを見つめた。
「キスは、しました」
長く見つめ合った後、オッドアイの娘が告白した。
「私も」
フロンティアも告白して、ふたりは笑みを交わして、お互いを許しあった。
ふたりが離れると、ブラッドハート王子がオッドアイの娘に、
「探す手間が省けたな」
と笑いかけて、一目惚れした姿をつくづく眺めた。
「姿形も中身も、俺の理想の女だ」
「本当ですか!? 歌も上手いはずです!」
「完璧だな。しかし、オッドアイは、我が国では不吉なのだ」
「えっ、そんな」
「嘘だ」
へたりこんだオッドアイの娘を、ブラッドハート王子は可笑しそうに助け起こした。
「お前には、散々驚かされたからな。お返しだ」
ブラッドハート王子はオッドアイの娘を抱きすくめてキスをした。
改めて結ばれたふたりに目を奪われるフロンティアを、クロスが肩に手を置いて振り向かせ、キスをした。
ふたりも改めて微笑みあった。
そんな二組を、寄り添い合うフィル王子とシルビアが、少し面食らいながらも微笑ましく見ていた。
「綺麗に、納まったようだ」
「ええ、よかった。本当に」
緊張が解けて涙ぐむシルビアの肩を、フィル王子が優しく抱いた。
「そうだ、名前を考えないと」
オッドアイの娘が悩むのを見て、フロンティアが言った。
「私は一時、ローズと名乗りましたわ。お名前がないのでしたら、候補に入れてください」
「ローズ、素敵です!」
オッドアイの娘は目を輝かせた。
「なんだ? 今度はローズと呼べばいいのか?」
意地悪な笑顔で見下ろすブラッドハート王子に、オッドアイの娘はたじろいだが、笑顔でうなずいた。
「わかった、ローズ」
ブラッドハート王子は優しく呼びかけた。
「ブラッドハート王子は、幸運を呼ぶオッドアイの、ローズと結ばれたか。幸せは約束された」
フィル王子が穏やかに言ったが、すぐに顎に指を当て、
「しかし、王子はフロンティアと結ばれると思っている者が何人かいるぞ」
と眉を寄せた。
「フフ、俺は冷酷で通った王子だ。土壇場で結婚相手を変えたと言えばいい」
「いや、もっといい解決方法があるはずだ」
不敵に笑うブラッドハート王子を止めるように、フィル王子は両手を突き出した。
「皆で考えよう」
一同は笑顔でうなずいた。
「町娘と結婚するのも、問題では?」
不安な顔を向けるローズに、ブラッドハート王子は笑いかけた。
「そんなことは、問題にさせない」
身分差の問題に、フロンティアはクロスの腕に両腕を絡めて、身を乗り出した。
「皆様、好きな方と結婚なさるのですよね?」
素直にうなずくフィル王子とシルビア、ブラッドハート王子とローズに、フロンティアは笑いかけた。
「では、私達も結婚できるように、祈っていて頂けますか?」
強気なフロンティアと驚くクロスを見ながら、四人はもちろんと、声を揃えて言った。
♢♢♢♢♢♢♢
それからしばらく後、バルダンディア王国の城でローズとブラッドハート王子が暮らし始め、フィル王子とシルビアが結婚した頃、クロスはフロンティアを家に連れて行った。
「あらまぁ、前に、オッドアイのお嬢さんを連れてきたような」
クロスの母は口を滑らせた。
「そんな方を連れてきたのですか?」
フロンティアはクロスをにらんでみせた。
「許してくれ」
クロスは可笑しそうにフロンティアに微笑みかけた。
「彼女のおかげで、俺達は結ばれたんだからな」
フロンティアは喜んでうなずき、ふたりは少年と少女に戻って笑いあった。




