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逢魔が刻

幽体離脱

作者: 名月らん

クッ苦しい…

息ができない…

誰か助けて誰か…


ズルッ


そんな音がしたような気がした。

突然目の前が真っ暗になり私は音のない世界に放り出された。


全然苦しくない


先程までの息苦しさがうそのようだ。

よく耳をすますとゴーという音が微かに聞こえる。

私は恐る恐る目を開けてみた。

そこにはベッドに横たわる自分がいた。


なんでベッドに?


訳もわからず呆然としていたが、あたりを見回すと少しずつ状況が掴めてきた。


ベッドに横たわり管を繋がれている自分を見ている自分…


私は自分を見下ろしていた。


ああ、これはもう幽体離脱としか言いようがないでしょ


そう確信したときフッとからだが浮き上がり天井までとどいた。


もしこの天井を突き抜けたらどうなるんだろう…


私はフフフと自嘲気味に笑い


突き抜けることなんて出来ても上の階の部屋だよね


そう思いながらも飛び立ちたい衝動にかられる。


ふと私の脳裏に真っ青な空が浮かんだ。


そよそよと吹く風


ゆっくりと流れる雲


フワフワと飛ぶ自分


どこまでも、どこまでも飛んでいったら…

どこに辿り着くだろう


心地よい柔らかな陽射しを感じていると、外から人の声がして部屋の中に二人が入ってきた。


突然のことで引き戻された私は、天井に張り付くように浮いたままその二人を眺めた。


二人はどうやら夜間の巡回の看護師のようだった。


二人は私に繋がれた機械と管を確認したあと部屋を出ていった。


あっ…


私は慌てて看護師について部屋から出た。


多分壁をすり抜ける事も出来るとは思うのだが、これはもう人としての癖なのだろう。


扉を出ると前には一人の男性が立っていた。


なんだ?


私は不思議に思いながらもフワフワと重力のないような歩き方で廊下を行き過ぎ下の階へと降りていった。


ナースセンターでは看護師たちが話しをしている。


その看護師の声を聞きながら玄関近くの薄暗い大きな待合室へと向かった。


ひっそりとした空間…


私は身震いをした。


このまま離れていくと死んでしまうんだろうか


さっき感じたようにフワフワと浮かんであの世に行ってしまうのだろうか


それでいいのか?

私はそれで…


突然扉が開き男が入ってきた。

男は私の横をすり抜け足早に過ぎていく。


今の何処かで…


私の脳裏に何かが引っかかっていた。


私は慌てて男のあとをを追いかけるがもう姿は見えなかった。


ふと病室に帰ろうと思った私は来た道をフワフワと戻っていった。


病室に戻るとさっきまで入り口に居たはずの男性がいない。


私はドアをすり抜け中へ…そして言葉を失った。


玄関から入ってきた男か私の首を締めていたのだ。


私は必死でその男をつかもうとするがすり抜けてしまう。


なぜ私は首を締められているんだ


この男は誰なんだ


私はこのまま死んでしまうのか


その時


ズルッ


と引き戻される感覚を感じた次の瞬間


私は息苦しさの中意識を取り戻した。そして私は渾身の力で目を開け男を睨みつけた。


男はぎょっとしたあと引きつり、おののきながら首から手を放した。


その時扉が開き3人の警察官が入ってきて男を取り押さえた。


「現行犯で逮捕する」


その横から両親が駆け込んできた。そして


「良かった…良かった…」

「もうこんなことは勘弁してくれ、2回も2回も娘は殺されかけたんだぞ」


そう父が言うと警察官の一人が


「娘さんには本当にご迷惑をおかけしました。」


と頭を下げ


「娘さんのおかげで逃げつづけていた奴を捕まえることが出来たのも事実です。

ですがもっと早く捕まえるべきでした本当に申し訳ございません」


私はぼんやりとその状況を眺めていた。


そして少しずつ思い出していた。


仕事からの帰りに公園を通りあの男が女性を殺している所を見かけ目があい急いで近くの交番に逃げ込んだ事。


後にその女性が亡くなった事を知り、目撃者として警察に協力することにしたこと。


案の定、男が私の住所を特定し家に押し入って来たこと。


そこで私は首を絞められ、警察が助けに来てくれたが窓から男が逃げ出すのを見ながら意識を失った事。


それらを思い出した。


後に聞いた話だが、両親は警察に


「犯人は戻ってきます。娘さんの命は必ず守りますから協力してください。おねがいします」


そう説得されて病室を離れたらしい。


両親にしてみたら犯人が捕まれば安心出来ると思ったのだろう。


だが私には恐怖が残った。


男は5人の女性を殺害しているが、もし出所したら恨まれて狙われるのではないかと…。


そう思いながら過ごしていたが、今では力強い仲間がいる。


あの日から私を守ってくれている。


それは5人の女友達だ。


彼女たちは私とともに過ごしている。


おそらく男が出所し同じことを繰り返すなら彼女たちは行動をおこすだろう。


その時私はまた目撃者になるのかもしれない…


ただしそれは人知では言い表せない事になるのだが。


そして私は今日もタンスの上の小さな仏壇に花を供える。


5人の彼女たちのために。


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