あのお方
学園の生徒は基本的に平等をうたわれている。
身分の上下は学園で学ぶには関係ないという。まあ建前だ。
だから全員男女別ではあるが制服を着用している。
男子は紺色の上下に詰襟と袖ぐりに刺繍が施されて白いタイを絞めることになっている。
女子はクリーム色のドレス。ストンとしたスカートと襟と袖と裾に緑の刺繍を施されている。
パーティに身に着けるドレスは袖もスカートも膨らませてあるので清楚な印象だろう。
だけど、目の間にいるこのお方は。
ああ、目が痛い。
俺の仲間たちはいわゆる貴族社会からはみ出した哀れなサイレントマイノリティ、だけど目の前のお方は由緒ある公爵家の生まれであり、正式な夫婦の間に生まれた。それも両家のバランスもとれている。
いわゆるスタンダードの中のスタンダードだった。
それなのにどうしてはみ出したか。それは目の前のお方の服装が物語っている。
男子の紺色の制服を着用しているが、それを女子の制服のスカートに改造している。
いったいどこの仕立て屋で調達したんだろう。
容姿は整っている。しかしその容貌は完全な男性のものだ、ついでに体格は俺よりいい。
目の前のお方はその持って生まれた個性だけではぐれ物の仲間入りを果たしたのだ。
この方以外にもそうした性癖を持った人はいないわけではないのだろうが、単にこの方以上に強靭な精神力を持っていないだけだろう。
せいぜい、鍵のかかった自室でこっそり着替えて鏡に語り掛けるだけなんだろう。
学園では男児はせいぜい肩までの髪を首の後ろに結ぶかそれとも俺のように肩につかない長さで切るかなのだが、あのお方は腰まで伸ばしている。
「お久しぶりです、セントバーナード先輩」
できればかかわりたくない。
「あら、なんだか迷惑そうな顔ね、私貴方に忠告してあげようと思っているのに」
声もはっきり男性だ。基本的にすっぴんだが、目鼻立ちが整っているのでそれほど違和感がないが。或いは慣れたのだろうか。
「貴方のお兄様のことよ、どうもある家のご令嬢と親しくしているらしいわね」
兄に恋人ができたということだろうか。年齢からしてできてもおかしくないし、由緒ある家の娘さんならこちらとしても願ったりなんだが。
「ただ、あの家娘しかいないのよねえ」
俺の希望はあっさり叩き潰された。