片思い ルーファス視点
僕は友人からの手紙をもって彼女のところに行く。
メアリアン。学園の中で唯一と言っていい女友達。
彼女は実家に帰って嫁入り修行をしているという。いわゆる侯爵家の坊ちゃんは別の侯爵家のお嬢様と結婚してしまった。公爵家の坊ちゃんは勘当されてしまったということなので家族をがっかりさせてしまったと言っていた。
まあもともとあの二人と結婚するつもりなどまるでなかったので本当に家族をおとなしくさせておくための詐術だったんだろう。
あの三人は本当にそういう年齢になっても恋愛と全く関係のない友情をはぐくんでいた。
容姿端麗な男女にあるまじき健全なお付き合いだったのだ。
メアリアンはうちの直営の料理店で僕を待っていた。
そしてレオナルドもそこについてきていた。
レオナルドは文官として奉職している。
レオナルドは実際は勘当されたわけではなく自分から縁を切ったのだが周囲はなかなか理解できないようで。勘当されたという噂だけが独り歩きしている。
当事者同士はまったく気にしていないのだが。
「デイビッドから手紙が届いた」
僕がそう言って手紙を差し出すとメアリアンが真っ先にその手紙の封を切る。
もともとぼく個人ではなく三人で回し読みする前提で送られてきたものだろうからそれは気にしないことにした。
「しかし、デイビッドが真っ先に結婚するとはね」
レオナルドが感慨深そうに呟いた。
「それはまあ」
デイビッドは恋愛というものを避けて通ろうとしている雰囲気だった。境遇を考えれば無理はない。
「親族は誰も呼ばないで、領地の有力者だけで婚礼をするって書いてあるね」
「呼んでもどうせ来ないだろうから送るだけ紙の無駄ってことかね」
まあデイビッドの両親は物理的に来られないけれど。
デイビッドの父親は家督を強引に譲らされたあと隠居とは名ばかりの幽閉だそうだ。母親は修道院に居ると言うが、それを確認したものは誰もいない。
どっかの山奥の谷底で白骨化しているかもしれない。デイビッドもそうじゃないかと疑っていたようだが、確認はしていない。
「一応名代としてそれぞれの家の家令が参列するらしいけどね」
「まあ、あちらは金がないようだから」
国境ギリギリの辺境。それほど裕福ではないようだ。だからデイビッドは僕に絵の取引を持ち掛けてきた。
ほとんどが静物画か風景画だ。人物画は描かない。ただ、デイビッドが見ている風景はこんなのかと思わず感慨にふけってしまう。
「僕の持っているギャラリーにデイビッドの絵が展示されているんだ。今度観に来ないか」
そう言ってメアリアンを誘う。
「いいわね、レオナルド、いつ仕事は暇なの」
学生の時の延長のようにメアリアンを誘うとレオナルドがついてくることが多い。
「そういえばルナの肖像画でも描いてあげればいいのに、それは送られてこないの?」
「さすがにそれは送ってこないんじゃないか、それは自家用だろう」
メアリアンの目標は裕福で爵位の離れていない結婚相手だが。うちは裕福で爵位は低い、君の目標に近いんだが。
それをまだ言う勇気はない。




