やばいことが進行中
翌日、部屋にこもっていても息が詰まるので俺は庭でも歩くことにした。
早起きのメイドや庭師が仕事をしている。そして全員はれ物に触るような態度をとる。
それを俺は無視して土地の高い市街地なのに無駄に広い庭を散策する。
庭に面した二階の部屋が母親の部屋だ。そして俺は違和感を感じた。今までなかった鉢植えが並んでいる。
今は早朝だ。母親はまだ寝ているはず。
だから俺は遠慮なくベランダの鉢植えを観察した。
その鉢植えはなんだかあの派手好きで色鮮やかなものが大好きな母親の趣味では明らかになかった。
地味で背の低い植物が植わっている。絶対あり得ない。あの母親ならピンクや真っ赤な大輪の花を咲かせるものしか置かないはずだ。
まさか。
俺は背筋に冷たいものを感じた。
まさかこうなったらちょっと思い切った手段を取ろうかな、なんて思ってないよな。
いやあの女ならありうるけど、はっきり言って前妻が都合よく死んだのはちょっと手を回したんじゃねっと俺も疑ってるし。
適当な葉っぱをむしって調べるか。今は人目があるから夜だな。
俺はそこまで考えると足早にその場を離れた。
誰かに相談しようと思ったがあの連中しかいない。
レオナルドの家は遠いので、休みに会うことはほとんどない。それに学園内でずっと顔を合わせているのに休みの日にまで俺の顔を見たくねえとさ。
まったくいい友達を持ったぜ。
母親はいわゆる清楚系の娘だったようだ。俺の薄い顔はあの母親の血筋だろう。
ちなみに前妻は割と派手な美人だったらしい。どうやら兄は父の顔をベースに濃く俺は薄くという仕様なのだろうか。
室内に入ると小鳥の鳴き声が聞こえた。
小さな黄色い小鳥の声だ。名前は知らない、ただあの鳴き声は黄色い小鳥、それだけは覚えていた。
兄が、鳥かごにパンくずを落とす。小鳥がパンをついばんでいた。
兄にこんな平和な趣味があったとは知らなかった。
俺は思わずまじまじと見ていた。
「どうやら今日のパンは安全なようだな」
ついばむ小鳥を真剣な目で観察する。小鳥はパンくずを食べて目まぐるしく鳥かごを飛び交っていた。
「今日のパンは安全なようだな?」
俺は思わず聞き返した。
ギクッと兄の方が揺れた。
「デイビッド、なんでもない」
苦虫を噛み殺すような顔で言われても。
いやいやいや、もしかしてあの母親すでにやらかしてました?
すいません、俺は全く知りませんでした。
何とも言えない顔で俺は鳥かごの傍らに立つ兄を見ていた。
ごめんなさい、俺だけのんきで、多分、兄はありったけの食料を持ち込んでこの家で何も食べないようにしているな。
殺伐とした家庭に俺はまたため息をついた。