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傍観者

 窓から下を見下ろすと、ちょうど母親が荷物のように運び出されていくところだ。おそらくしかるべく処理されるだろう。

 不意に母親が俺のいる窓を見上げてきた。最後の瞬間目が合った。

 そして、どこにそんな力があったものか、猿轡を嚙み切った。

「あいつのせいよ、坊やあいつをどうか」

 そう叫んだあと再び押さえつけられ猿轡をかけなおされていた。

 そして必死にもがくが、俺はカーテンを閉めてそれを無視した。

 いずれなるべき人間がそうなっただけだ。

 俺はそっと目を伏せた。恐怖に歪んだ母親の顔は俺の知っているどんな顔より醜かった。見る必要もないのに、なぜ見てしまったのだろう。

 今はまだ騒がしいけれど、もう少ししたら出ていくか、全く顔を見せないのもおかしいだろう。

「あいつのせいね」

 くつっと喉の奥を笑いが上ってくる。

 いつだってあの母親は何か気に食わないことがあると、前妻か兄のせいだとかんしゃくを起こしていたな。

 今回は俺のせいだけど。

「兄さん、あんたは後手に回ってしまった。グレイハウンド家を守ろうとしたんだろうが、守る気のない俺の方が手早く手を打てた、それだけのことだけどね」

 今頃どんな間抜け面をしているか、せめてそれを拝んでおこう。

 そう思って、外に出ると父親は自室に軟禁状態だという。そして兄はその場に立ち尽くしているが目の焦点が合っていない。

 いわゆる放心状態というやつだ。

「いったい何が起きたんだろうね」

 わざとらしくあくびなんかしながら俺は呟いた。

 メイドたちがそそくさと俺と目を合わさないようにして立ち去っていく。

 俺はそれを薄笑いを浮かべて見ていた。

「何考えてるの、お前」

 そう言われて俺は襟首を思いっきり締め上げられた。

 苦しくて思わず呻き声が漏れた。

 何故か俺の首を怒りの形相で締めているのはフォックステリアのお坊ちゃまだ。

「意味が分かりませんが」

 締めている手の間に何とか指を潜り込ませて呼吸を確保しつつ俺は答えた。

 明らかに修羅場なのだが、使用人たちは誰も俺たちに割って入ろうとはしない。俺の素晴らしい人望に涙が出そうになる。

 わからないな、これでそっちの思い通りだろうに。なんで俺に対して怒るんだろう。

「本当に何考えてるんだお前」

 そう言って首は離してもらえたが、ぶるぶると拳が震えている。

 あの二人の悪事について俺に言われても困るんだが、あの二人は俺が幼児のころから不法行為にふけっていたんだ。さすがに幼児の俺に何ができたっていうんだ。

「もしかして時間がかかり過ぎって怒ってます?」

 まあ最後の手段だ、俺としてもああいう俺もろとも兄を不幸にする計画なんぞ立てられるまではもうちょっと穏やかな対応を考えていたんだ。

「もういい、もう知らん」

 思いっきり拳骨を落とされ、俺はそのまま引きずられていった。




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