マキシミリアン視点 来訪者
学園の休日は家族がそろう。家族。その言葉に僕は自嘲した。
父親は家族に最近はほとんど興味を持たず、継母は相も変わらず僕に対し理不尽な嫌がらせを続け。弟は自堕落に遊び惚けた挙句ほとんど自室にこもって出てこない。メイドたちの話では早朝酒臭くなって戻ってきてほとんどベッドで熟睡しているのだとか。
早くこの状況を何とかしたいものだと思っていたが、こんな形でとんでもない変化が訪れるとは思っていなかった。
次々に馬車が門を越えて入ってくる。それなりに広いと思っていた庭園は馬車で埋め尽くされたようにも見えた。
そしてグレイハウンド家の分家が家の前に勢ぞろいしていた。
事前の手紙もなく彼らが我が家を訪れるなどまずありえない。
「これはどうしたことでしょう」
家令もこの状況が分からず茫然としている。
「これはマキシミリアン君」
そう言って家に入ってきたのは分家の中でも最近我が家から離れたばかりのフォックステリア伯爵だった。
「これは大人の話し合いだよ、まだ未成年の君は下がっておりなさい」
僕はまだ学園を卒業していないが、それでもあと二年で卒業だ。子供扱いされるいわれはない。
しかし、僕を押しのけて親族たちは続々と我が家に入ってくる。
使用人たちが押しとめようとしたが一睨みで引き下がるしかなかった。
僕はそれを黙ってみているしかなかった。
家令が父の書斎に駆けていくのが見えた。あの家令が廊下を走るなど、火災でもない限りあるはずのない光景だった。
僕はそのまま父親の書斎へと向かう。
しかし扉は閉ざされたまま。何事が起きているのかその前で耳を澄ませることしかできなかった。
そして怒号が響いた。叫んでいるのは父親だが、他の親族たちも何事か叫んでいる。すべてが一斉に叫んでいるので一人一人が何を言っているのかわからない。
継母が父の書斎に駆けこんでいくのが見えた。
そして聞こえてくる金切り声、すべての怒号がやんだ。
次に聞こえてくるのは何やら鈍い音。
そして、猿轡をかけられ縛り上げられた状態で継母が書斎から親族たちが連れてきた使用人に運び出されてきた。
「これは、しかるべきところに引き渡しますので」
そう言って小太りな普段は福々しい笑みを浮かべていた男はいかにも忌々しいと言った顔で吐き捨てるように言った。
それを茫然として立ち尽くし見ている父親。ふいに気づいた。
この二人のしている違法行為。それに対しての弾劾が行われているのだと。
いったい何故だ? この二人は気づかれないように細心の注意を払っていた。この場にいる僕だとて調べ上げるのにどれほどの手間がかかったか知れないのに。
どうして地方にいるはずの彼らにそんなことができた?
わけがわからないまま腑抜けたように膝をつく父親と縛り上げられ荷物のように運ばれていく継母を僕は見ていた。
そして、この騒ぎにもかかわらず弟は寝室にこもったまま出てこなかった。




