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夜と朝のはざま

 俺は一人絵筆をキャンバスに走らせた。一筋、青い線がキャンバスに伸びた。

 教室は早朝の気持ちのいい空気に満たされている。

 すべてをやり終えたすがすがしい空気の中で俺の絵筆はキャンバスを様々な色彩で埋めていく。

 半分は暗い色彩で埋め尽くされたそれ、もう半分は明るくやわらかな色彩だ。

 タイトルは夜明け。

 夜の闇から朝の光へと置き換わるその一瞬を描き出す。このキャンバスの中身は俺の今の現状をありありと表現している。

 ああ、これですべて終わった。

「変わった絵ですね」

 ルナ嬢が何故か俺のそばで絵を覗き込んでいた。

 闇の中に浮かび上がるのは豪勢な置時計。そして宝石や美術品。そして明るい風景の中には素焼きの粗末な器や欠けたコップ。木でできた大ぶりなスプーン。

「そう?」

 夜明けの空気の中で俺は筆をおいた。あと少しで完成だ。

「とても不思議な絵だと思います」

「俺としては君がここにいるのが不思議なんだけど」

 ルナ嬢は俺と同じように制服を着ている。生徒であれば日付が変わったあたりで登校することは可能だけど。

 俺はキャンバスを置いて筆やパレットを片付け始めた。

「まあ、社会見学の成果かな」

 俺は深夜のアルバイトで見聞きしたものを思い出す。俺の知らないけれど、俺の知るよりずっと深くこの国に食い込んでいる世界。

「本当に、世界は広いんだ、俺たち貴族はその世界の広さを知らないで、小さな貴族だけのコミュニティで息を殺して生きているそんな気がする」

 猥雑で、それでいて魅力的な世界。清潔でそれでいて冷酷な世界。そしてその世界をつなぐ醜くて美しく恐ろしくて優しい存在。

「私、デイビッドさんの絵を他に見てみましたけれど、ちょっと作風が変わった気がします」

「変わったかな、自分ではわからないけれどね」

 ある程度絵の具が乾かないとしまえないので出したままのキャンバスを覗き込む。

「でも、これからどうするんです?」

 ルナ嬢は俺を探るような目をしている。

 俺はそれに笑って答えた。

「それは大丈夫、全部終わったから」

 昨日のうちに手紙を投函した。それですべて終わり、すべては俺の手を離れた。

「ディアナ嬢と俺の縁談はこれで破談になるよ、あの兄はどうか知らないけど」

 まあ、破談になっても俺には関係ないが、それがたとえ俺のしたことが原因だとしてもその遠因となることは俺の生まれるはるか前から始まっていたんだから。

「もう全部終わったんだよ」

 ある程度乾いたキャンバスに俺は布をかけながら呟いた。

 ルナ嬢は首をかしげている。

「とりあえず一つだけ聞いていい。どうして君ここにいるの?」



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