俯瞰視点
アンリはきょろきょろと挙動不審ぎみに周囲を伺う。
夜も更けた繁華街、こんな場所に来たのは初めてだった。
彼がこんな場所に来たのは親友のマキシミリアンのためだった。
マキシミリアンは彼にとって悲劇の英雄のような存在だった。
母はすでに亡く、といっても平均寿命の短いこの国では母親のいない子供はそれほど珍しくないが。それも悪質な継母がいて、もしかしたらその継母が彼の母親を亡きものとしたのかもしれないと言われていた。
そして、なお悪いことにマキシミリアンにはそのまま母の血を継ぐ弟までいた。
弟はマキシミリアンの身分を狙っているとアンリは信じていた。
清廉潔白なマキシミリアンと違ってその弟は性根のねじ曲がった不良少年だという噂だ。その証拠をつかもうと彼はこの繁華街にやってきていた。
ここでその弟の悪行の証拠をつかもうとしていたのだ。
しかし、店の前まで来てどうしても店の中まで入る踏ん切りがつかない。
そんな時見覚えのある顔を見た。
いずれも品行方正な生徒から白い目で見られている不良少年の集団だ。
はみ出し者たちは慣れたふうで店の中に入っていく。
扉の閉まる寸前に一人が叫ぶのが聞こえた。
「あれ、デイビッドじゃん、来てたの」
デイビッドはマキシミリアンの弟の名だった。
やはりその弟はこの悪所で不届きな行いに走っていたか。
義憤に駆られたアンリは意気揚々と扉を開ける。
柔らかなバイオリンの音色が流れていた。こんな店でも音楽を流すらしい。
その店内は隅々にまで掃除が行き届いているとは言い難かった。
それでも定期的に手が入っているのだろうが。他の客が食べこぼした料理のかけらや酒のしみが石畳に散らばっていた。
その中で、先ほど入っていった不良少年たちはテーブルの一角にすでに座り、何やらきつそうな蒸留酒などを口に運びつつ。安っぽい魚の揚げ物などを食い散らかしていた。
アンリはデイビッドの姿を探す。
おそらくここで彼もあの連中と一緒に飲んだくれているに違いないと酔漢たちの顔を確認していった。
しかしそれらしい顔が一向に見えない。
「すいません」
ウエイターがエールの大瓶を手に彼の背後を通っていく。
その金髪の後ろ姿を見ながらそれらしい少年が全く見えないのが不思議だ。
もしかしてデイビッドとはマキシミリアンの弟ではないのだろうか。
デイビッドという名前が聞こえてきたが、よくある名前だと言えばそうだ。
だとすれば本日は空振り、舌打ちして店を出て行った。
「なんであの人ここにきてたの?」
ウエイターが不思議そうに呟く。
「デイビッド、フライドポテトも持ってきて」
顔見知りの酔漢たちがデイビッドを手招きした。
さっき入ったばっかりでもうここまで酔っぱらっているとは。困った先輩たちだなと思いつつデイビッドはフライドポテトの注文を通した。




