ディアナ視点
私の妹たち、今までは何の問題もないと思っておりました。
私の人生は何一つ意にならないことは無いと思っておりました。
ですがそんな私の人生に現れた方がありました。愛するマキシミリアン様。
私と違って早くにお母さまを亡くされ、邪悪な継母とその息子に命を狙われる日々を送ってきたという気の毒な方。ですがそのような困難を一切感じさせない強い方。
あの方を知ってはじめて私は恋というものを信じられるようになったのです。
だからこそ私はあの方を助けあの方とともにありたいと願いました。
必ずやあの方を虐げる継母に思い知らせてやりたいとずっと願っていたのに。
ああ、私の心は嵐のよう。思い乱れて形は水鏡。輪郭さえ取れないのです。
末の妹のルナが、あの方の異母弟、デイビッドと親しくしているという噂を聞いたとき私は根も葉もないたわごとだと断じました。
ですが、私は見てしまったのです。あの私の愛する方と似てはいるけれど遠く及ばないくだらない男に微笑みかける妹の姿を。
今まで決しておのれの恥ずることなどしたこともないという清廉潔白な少女だったはずの妹はいつからこんなに堕落してしまったのでしょう。
私は悩みました。なんでもあの男の母親はあの方のお母さまがご存命だった折に恥知らずにもあの方のお父様に言い寄って不義の子を産んだのだという話です。
その不義の子があの男です。ああそんな汚らわしい男にあの子が微笑みかけるなんて。
「ルナ、私は見てしまったのよ」
私はルナにそう問い詰めました。
「お姉様、いったい何のことですの」
ルナは怪訝そうに真剣に詰め寄る私に向かって行ったのです。
「わかっているかしら、デイビッド・グレイハウンドのことよ」
ルナはにっこりと笑って言ったのです。
「ああ、あの方のこと? それが何か」
まるで悪気のない笑顔に私は思わず押されてしまいました。ですがここでくじけるわけにはいきません。
「なぜあのような男とかかわるの?」
「あのような男って、お姉様、あれであの方とても良い方だからですわ」
私は思わずルナの目を覗き込みました。しかしルナの目はとても澄み切って清らかでいつも通りに見えたのです。
「ルナ、あなたは騙されているのよ」
「まあ、お姉様、私ちっとも騙されてなんていなくてよ」
普段ならルナは私の言うことならば素直にうなずくのです。
「セレス、あなたからも何とか言ってあげて?」
しかしセレスは私の言うことを無視して顔をそむけます。
「ルナ、いったいどうしてあのような男と親しく付き合うようになったの」
ルナはにっこりと笑う。
「約束しましたの、だから秘密です。二人の秘密なんですわ」
私は頭がぐらぐらしてきました。このままでは妹はとんでもない男の餌食になってしまう。私の可愛い妹が。
「でもお姉様、あの方、とてもいい方ですわ、噂ってあてにならないって思いますのよ」
ルナはあの男を信じ切った眼をしています。
私を助けて。あの子を助けて。




