騒動の夜明け
俺は睡魔と戦いながらベッドからはい出した。
深夜にあんな場所に呼び出され、挙句の騒動で寝そびれた。漸くうとうとしたのは夜明けごろだ。
このままじゃ授業中に寝てしまう。俺は自室の焜炉で濃いめのお茶を淹れた。
ベッドと机と本棚、日用品を入れておくクローゼット一つ、そして小さな食器棚と焜炉、これが学園で生徒が持つことができるすべてだ。
公爵から騎士爵まで全員この設備で過ごす。
公爵家あたりのご子息はこの設備に文句たらたらになる。まあ俺も焜炉の使い方が分からなくて最初は困ったもんだが。
だけど今となってはあの家を出て自立する訓練と思っている。
そして思い出すのはセレスのことだ。
セレスはずっとディアナのことが嫌いだったらしい。
ディアナのものを取り上げたかった。それが家督。
家督なんてもらっても面倒くさいだけじゃないかと思うんだが、家督を継いだ際に義務付けられている書類の数を考えると俺なんか怖気をふるうが。
お茶を啜りながら俺はあの家の姉妹のことを考えていた。
ルナが泣きそうになりながら俺たちに謝っていたのが実に気の毒だった。
どういう立ち位置なのか大体見当がついてしまったから。
取り敢えずあのことは無かったことになった。
俺は話さない、だから君も話すなとそれだけをルナと約束した。
その間セレスは泣きわめきディアナを呪う言葉を吐きまくって話にならなかったのだ。
『お姉様、これ以上となるとお父様に話さなければならなくなりますよ』
ルナがそう脅したが、あれは絶対こりていない。
あのありさまで家督を継いでどうするつもりなんだろう。
家督を継ぐということはその家に仕える人間すべてに責任を持つということなんじゃないかと俺は思う。
家の使用人だけではなく地方の領地に住まう貴族に税金を払ってくれる領民のことも。侯爵家となれば数千人ぐらいは抱えているはずだ。
その面倒を多分何十年も見るって並大抵のことじゃない。俺はとてもじゃないができる気がしない。最低限の生活を領民におくらせるためだけでも精一杯、領地を繁栄に導くアイデアなんぞ逆さに振っても出る気がしない。
そのことをわかっているのか。
まあ女だから最低旦那に任せればいいと思っているのかも。
俺は軽く頭を振ってあの姉妹のことを振り払った。
お茶を一杯飲むと俺は身支度を整え食堂に向かう。
俺の専用スペースはこの部屋一つだが、日常生活は学園が雇った使用人がすべてを整える。
俺が学舎にいる間に掃除は済ませてあり、洗濯物は専用袋に入れておけばその時に回収して次の掃除のときたたんでベッドに置いてある。
見られてまずいものはクローゼットの中に入れておけばいい。
この生活も十分贅沢なんだなと働き始めて初めて実感した。




