ルーファス視点
我が家は男爵家だ。
単なる男爵家なら僕も学園で浮いたりしなかったのだろうけれど、我が家は普通の男爵家ではなかった。
実は下手な伯爵家より資産家な男爵家だった。
我が家が男爵家になったのは僕の祖父の世代だ。商売で頭角を現し、国でも屈指の資産家に上り詰めた祖父が最後に獲得したのが爵位だったわけだ。
この国では男爵位までなら金で買える。それ以上の爵位は王家の管轄となる。
そんなわけで僕は大財閥のお坊ちゃんという立場で学園入りしたわけだ。
そんな感じで入った学園は僕にとって甘い場所ではなかった。
祖父の代まで一般庶民、たとえ大商人でも代々続く貴族の家系に生まれたものにとっては一般庶民にすぎないというわけ。
そんなわけで僕はあっという間につまはじきになったわけだ。
だけどつまはじきになるのは僕だけじゃない。どういう状況でそうなったのかは忘却の彼方、いつの間にかというよりほかないが、僕には友達ができた。
侯爵家のデイビッドと公爵家のレオナルドだ。
他の男爵家や子爵家にすら仲間外れにされている僕がなぜこんな高位貴族とと疑問に思うものもいるだろう。
だが答えは簡単、その二人も高位貴族の中でつまはじきになった半端ものだったからだ。
そして周囲を観察してみればそうしたコミュニティは学年ごとに複数存在した。
そしてそうしたコミュニティ間のつながりや交友もあったりした。
僕の貴族生活はそうした裏街道をひた走ることから始まった。
しかし、たとえ裏側に位置していたとしても僕とその仲間たちはそれなりにまじめな学生として学業に励み。時々ちょっと怪しげな人たちと交友するというアンバランスながら順調なものだった。
とはいえ、問題が起きないわけではない。
哀れなことにデイビッドは家庭に大変な問題を抱えていた。
腹違いの兄弟の確執、これは多少裕福なら平民でもたまに起きることだが、デイビッドは争いごとが嫌いな善良な男だ。
だから自分が引いてもと思い詰めていた。
そんな彼に追い打ちをかける形になったのが今回の騒動だ。
デイビッドはすっかり落ち込んでしまっていた。
「双子ってことは同母姉妹のはずなのに」
どこまでも自分を基準としているこの愛すべき馬鹿は争いごとが異母兄弟や異父兄弟の中でだけ起こると思っているのだろうか。
残念ながら違う。財産や地位への欲望は肉親への情より何倍も強い。
僕は利害関係の問題で親兄弟を見捨てたり陥れたりした人間を両手両足の指の数より多く知っている。
まあ、僕としては余禄がなかったわけじゃない。
シュナウザー家の姉妹の相剋は上手くすれば何かの役に立つかもしれない。
僕は学園の裏側を生きていく過程でこの手の役に立ちそうな気がする情報をいくつも集めた。将来僕が家を継いだ時には大いに役立てさせてもらう。
まあお人よしのデイビッドには永遠にわからないかもしれないけれど。
セレス嬢のことも最後まで分からない顔をしていたし。
人は自分を基準にして考える。あの二人が分かりあえる日は永遠に来ないだろう。




