わけを聞いても分からない
いったいなんで?
俺は周囲に疑問符をまき散らしながら火かき棒を振り回そうとするセレス嬢を見ていた。
危ないのでレオナルドとルーファスが二人がかりで取り押さえ、火かき棒を取り上げる。
火かき棒が転がる際に石の床に甲高い音を立てていた。
現れるはずのないメアリアンとルナ嬢に俺は説明を求めることにした。明らかに俺より情報を持っているだろう。
「あたしも半信半疑だったんだけど」
メアリアンが困ったように眉を寄せた。
「お姉様がデイビッドを狙っているって言われて」
「だからなんで、シュナウザー家の人間が俺の命を狙うメリットって何?」
貴族社会ではちょっとはみ出し者ではあるが一応俺は侯爵家の次男坊、それが変死体になろうものなら一騒動起きて当然だ。
それを押して実行するだけのどんなメリットがシュナウザー家にあるっていうんだろう。
「貴方のお兄様、マクシミリアン様に確実にグレイハウンド家を継いでもらうためよ」
男二人に抑え込まれたセレス嬢が低い声で言った。
「なんで?」
兄に家を継いでもらうのは俺としても望むところなので、ますます理由がわからない。
メアリアンがため息をつく。
「あんたのお母様はそれを望んでいないわよね」
「だから俺も望んでいないってことか?」
俺は母親の意思を忠実にトレースしていると思っているものは数多いが、案外人の噂というのはあてにならない。俺は母親の望みの逆を常に望んでいる。
「そうですわ、もしマキシミリアン様がグレイハウンド家を継げばあの忌々しい姉もグレイハウンド家に嫁ぐことになりますもの、そうすればシュナウザー家の家督は私のものですわ」
セレスはそう言って俺を睨み据える
「それなのに、母親の力を借りて次男坊がグレイハウンド家を継いでしまったらマキシミリアン様は我がシュナウザー家に婿に入ってしまうではありませんか」
セレス嬢の腕はレオナルドとルーファスの二人に抑えられている。しかしこのままでは振り払われそうなくらいセレス嬢の腕に力が入っているのが見えた。
「だからどうしても私はマキシミリアン様にグレイハウンド家を継いでもらいたかったんですわ」
俺たちは何も言えなかった。俺だけじゃない、レオナルドもルーファスもメアリアンも、そしてもしかしたらルナ嬢も目の前のセレス嬢に何と声をかけたものかと悩んでいた。




