いわくつきの鐘楼
俺は一人であのいわくつきの鐘楼の近くに来ていた。
こっそりレオナルドとルーファスが後をつけいると言っていたが、俺の視界に二人の姿は見えない。
本当についてきているんだよな?
半端なく怖い。何にもなくてもこんなところに来るのはフルフルごめんだっていうのに、もしかしたら俺の命を狙ってるかもしれない奴の手の中に飛び込もうというんだ。
俺は軽く唇をなめた。手の中の小さなランプの灯りが心細く。そして、ランプの光で浮かび上がる半ば朽ちかけた建物の影がまるで最近はやっているという怪奇文学のようだ。
ついでに言えば俺は途中までで挫折した。あれ怖すぎる。
そして、俺は鐘楼の真下、呼び出し状に記された場所までたどり着いてしまった。
たどり着いた、たどり着いちゃったよお、できれば永遠にたどり着きたくなかったのに。
俺のバクバクなる心臓の音がやけに大きく響く。それこそ外まで聞こえるくらい。
そして、背後に人の気配がした。
振り返った時と、何やら棍棒のようなものが俺に振り下ろされるのはほぼ同時だった。
とっさに身体を転がしてそれを避ける。
「ちいっ」
そう舌打ちした声は女のものだった。
実に優秀なランプだ。あんなに転がったのにまだ灯りがともっている。
それをかざして襲撃者の顔を見た。
「ディアナ嬢?」
ディアナは荒い息を吐き手に火かき棒を持って俺を睨みつけていた。
「なんで?」
もしかしてとんでもない誤解が進行しているんだろうか、だけどなんで侯爵令嬢が俺を自ら手を下そうとするなんて。
やみくもに振りかぶり火かき棒を俺に向かって振り下ろすが、いや、一応騎士訓練の一環として最低限の剣術を身に着けているんでそれくらいかわせますが。
「ディアナ嬢、落ち着いてください、何か誤解が」
俺がそう言って何とか止めようとしたが。彼女は止まらない。
「お姉様、やめて」
か細い少女の声が聞こえた。
「デイビッド、大丈夫?」
聞こえたのは聞きなれたメアリアンの声。え、どうしてメアリアンが、レオナルドとルーファスはどうした?
「悪い悪い、ちょっと離れていたところから見守っていたら出遅れた」
レオナルドとルーファスが漸くやってきた。
「なんでディアナ嬢が?」
「違います」
メアリアンの背後から出てきた小柄な少女、こちらもディアナ嬢にそっくり、ただサイズがちょっと小さいので見分けがつく。
「姉様、もうやめてください」
なんでここにディアナ嬢の妹、ルナ嬢まで現れたんだろう。
「お姉様、こんなことをしてただで済むと思っているのですか」
ルナ嬢は震える声で姉を糾弾する。
「うるさいわね、負け犬に言われる筋合いはないわ」
はかなげな美人が台無しの顔をくしゃくしゃにゆがめて叫ぶ声。
「私はあなたと違ってお姉様に負けを認めたりしないのよ」
お姉様ってことはここにいるのはディアナ嬢のすぐ下の妹セレス嬢なのか?
さらに訳が分からなくなって俺は頭を抱えた。




