ハートシューター
不定期更新です。
書けた時に更新します。
早く書けと言われたらスピードが上がるかもしれません。
実弾とレーザーの飛び交うメチャクチャな戦場にて、俺は1ミクロンも動いてやらぬと全身から力を抜いて寝転がっていた。
正確に言えば戦場のど真ん中での死んだふりではなく、激戦区全体が見える崖の上で目だけで戦況を見守り続けている。
こんな場所に陣取っている時点で俺が狙撃兵、スナイパーであることは明白だが、普通のスナイパーと違うところはバトルが始まってここに来てから1度も引き金を引いていないことだろうか。
熱感知阻害用マントを羽織りひたすらに好機を待つ。
シモ・ヘイヘという人も何日も動かず待ち続けたとかなんとか聞いた。シモ・ヘイヘもスナイパーだったらしい。
一撃必殺も狙える武器と聞いてかっこいいと思い親友から今の武器をもらった。
なんでも俺がこのゲームをやる直前のイベントの最終報酬らしいが、使える人が限られてくるせいで不人気らしい。
白い角ばったフォルムのSF映画にでも出てきそうなレーザー銃。
常に熱を放つために熱感知阻害用マントは必須、1試合で放てる弾の数はたったの3発、そのうえエネルギーの再充填に10分掛かる。
ひたすらに使いにくいネタ銃、ロマン砲とまで言われてしまったらしいこの子は、シューティングゲームをやったことが無い俺にはちょうど良かった。
ミリタリーに関しての知識が全くないわけではない。ただ、使用弾薬だとか歴史だとかを聞かれると何も答えられなくなってしまう。
『メテオ、聞こえるか?』
無線機に繋げたイヤホンから親友の声が聞こえてくる。しかし、俺はその言葉に答えない。
『よし、狙撃体勢ということだな。後方の計算によれば敵の残機がもう少ない。ジャガーノートが出てくる頃だ。頼んだよ』
ジャガーノートはとにかく防御力の高い敵だと教えてもらった。
なにやら負け越していると本拠点にその鎧が湧くのだとか。ポップする、発生するらしい。
そのジャガーノート装備がひたすらに硬くてみんなの使っている実弾銃では貫けないからレーザー銃である俺の銃で仕留めたいとのことだ。
『タイミングは任せる。射撃訓練で教えた通りに引き金を引けばいい。目標をセンターに入れてスイッチだよ、忘れないで。無線アウト』
ジジッと音が鳴り無線が切れる。親友は俺が一言も答えないのに不安になったりしないんだろうか。
そんなことを考えていると、敵陣後方にやたらふっくらとしたプレイヤーが現れた。
爆弾処理班とか消防士みたいな分厚い装備。
ジャガーノートのお出ましである。
のっそりと歩いていくジャガーノート。しかし、周りから撃たれようとその歩みは止まらずさらには腰に据えたマシンガンで前方にいる、俺の味方兵士たちを屠っていっているようだった。
だがまだ俺は動かない。ひたすらに目だけでその動きを見て機会を待つ。
減っていく仲間たち。ジリジリと歩み寄るジャガーノートがある地点を越えたところで初めて俺は体勢を変えた。
白いレーザー銃、ムーンシューターを立てスコープを覗き込み、大きく息を吸い込み止める。
ジャガーノートをスコープの十字線の中心に捉え引き金を引き絞る。
それと共に俺の体に紙やすりで軽く触れた時のような感覚が訪れた。
視界の端ではHPと書かれたゲージがどんどんと減っていく。
俺のキャラクターのレベルが低いのもあるが、これもムーンシューターがロマン砲と言われる由縁になる。
ゲージが削れるスピードは増していき、もう少しで0になってしまう、という寸前、ムーンシューターからは真っ赤に輝くレーザーが放たれた。
飛んでいく、というより発射と同時に銃口とジャガーノートを繋ぐ線を作り出したそれは、彼の頭部を貫いて灼き倒れさせる。
『ビューティフォー、メテオ。さぁ、最後の攻勢だ』
その無線と同時に俺たちの本拠点から花火が上がる。
すると、各拠点からプレイヤー、NPCごちゃ混ぜで大量に湧くと敵部隊への突撃を始めた。
それからは比較的すぐだった。
撃ったら逃げるように教えられていた俺がただ見ているだけで良かったくらいには圧倒的な勝利を納めることができた。
このゲームに誘われたのは2週間くらい前。
突然文芸部に来た彼女の第一声からだった。
ものすごい音と共に文芸部の部室の扉が開け放たれる。そこに仁王立ちしていたのは俺の親友だった。
「流星、一緒にゲームをやらないかい?」
「やらない」
「んなっ!回答が早いよ!もう少し考えてくれたっていいだろう?」
「お前が俺を誘うときは115%ろくでもない時だ」
「なぁ、そろそろ1人じゃつまんないんだよぉ。親友だろぉ?」
少し不貞腐れたような顔をする空前 愛。
とても整った顔だし騙されそうになるが、彼女は2年生に上がる時点で演劇部部長を勝ち取ったピエロである。
「愛ちゃん、流星君は2ヶ月後の大賞に応募する予定だから。ゲームしてる時間はあまり無いよ」
「ほら、部長もこう言ってるんだし諦めろ」
「えー、部長ちゃんも一緒でいいからさぁ」
「私は行かないよ」
たぶんこの学校で1番背の小さい先輩、小野寺小町文芸部長。実は彼女も小説でちょっとした賞をとったことのあるスーパー高校生だ。
部長はついに視線を手元に戻すと執筆作業へと戻っていった。
「ねー、いいだろー?少しだけでいいからさぁ」
「お前の少しは2ヶ月が優に消えるの!」
まるでタコのように絡んでくる愛を引き剥がして俺も執筆作業へと戻る。
「僕なら行けるよ、空前さん」
「うん、いらない」
学校生徒の7割を魅了する笑顔で我が部の仲間、佐藤健二が叩き潰された。
「そもそもなんのゲームだよ。ゲーセンは行かないぞ?金ないし」
「大丈夫だよ。家庭用だしソフトの方は渡すから」
「家庭用なんてタヌキに騙されて無人島で暮らすゲームしかやったことないぞ?」
「あー、あれ没入でやると面白いよね」
「否定はしないが、あれでもやるのは週一だぞ」
「人員不足だから手伝って欲しいんだけどなぁ?」
空前 愛は俺の隣に座るとキラキラとさせた目で上目遣いで懇願してくる。
上目遣いに負けたわけではないが、これをやられるとウザすぎて俺の根気が折れる。
「3日だ。3日やったら終わりだ。いいな?」
「やった、りゅーちゃん大好き!」
そう言って空前 愛は昔みたいに抱きついてきた。
「ちなみに、現実の3日はそのゲームで3週間になるよ」
「は?時間歪曲は禁止されたとかなんとか」
「禁止される前のゲームだもん」
「くそ、また脳みそが筋肉痛になる!」
空前 愛は得意げな顔で俺を見る。
これまで何度も見てきたが、俺の負けが決まった瞬間である。
覚えている限りで最初に負けたのは砂の城製作競争だ。5歳とかだったと思うが、この顔が衝撃的すぎて覚えている。
そして、悔しくもこの顔が可愛いというのは置いておいて、10年以上この顔を見続けているということだ。