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誕生日パーティー 1



 そしてあっという間に、ラルフの誕生日パーティー当日がやって来てしまった。


「ああ……美の女神ですら嫉妬するお美しさです……!」

「大袈裟だよ」


 一体いくらするのかと考えるだけで具合の悪くなるドレスと、美しい豪華なアクセサリーを身に付け、丁寧に化粧を施された私を見てナディアは両手を組み、涙を流していた。


 どう考えても、しっかりと着飾られた彼女の方が何倍も綺麗だ。美しい銀髪を一纏めにし、丁寧に化粧を施された彼女は、とても16歳とは思えない色気を醸し出している。


 せっかくの化粧が崩れてしまうから、と必死にナディアを宥めていると、私達のいた控え室にノック音が響いた。


 「どうぞ」と声を掛ければ、本日の主役であるラルフが入ってきて、何気なくその姿を見た私は思わず息を呑んだ。


「…………」


 完璧に正装を着こなした彼は、誰がどう見たって王子様そのものだった。つい見惚れてしまい、その場に立ち尽くしてしまったくらいだ。


 流石のメイド達も顔を赤く染め、彼を見つめている。いつの間にか泣き止んでいたナディアだけが唯一「あら、その色素敵ですわね」と冷静に服装を褒めていた。


 そんな中、やがてラルフは片手で口元を覆って。その顔は耳まで赤くなっているように見える。


「……リゼット様、本当にお綺麗です」

「あ、ありがとう」

「貴女の隣に婚約者として立てるなんて、夢のようです」

 

 そう言った彼は、仮だというのに本当に幸せそうに顔を綻ばせているものだから、どきりと心臓が跳ねた。


「行きましょうか」

「……うん」


 そうして私は、彼の手を取り歩き出したのだった。




◇◇◇




「お誕生日おめでとうございます、ラルフ様。そしてご婚約も。お相手の方も、とても素敵な方ですね」

「ありがとう」


 あれからずっと、私はラルフの隣に立ちひたすらに笑顔を浮かべている。次々と人がやってきては挨拶だけをして入れ替わるため、私のボロが出る間もないのが救いだった。


 ……あれから彼と腕を組み会場へと入ると、広い豪華なホールや数え切れないほどの招待客の数に目眩がした。その上、全ての人の視線が私へと向けられていたのだ。


 それは値踏みするようなものであったり、嫉妬にまみれたものだったりと様々で。主役であるラルフよりも、彼の婚約者の座に突然収まった私に、皆注目しているようだった。


「リゼット様、大丈夫ですか?」

「……うん。頑張るね」


 この1ヶ月弱、頑張って身に付けたものが吹っ飛んでいきそうになったけれど、しっかりしなければと気合を入れる。


「お姉様、少し私とお話しましょう?」


 それからしばらくして、ナディアによって連れ出された私は、ラルフの側から離れ休憩することができた。彼女に手渡されたグラスに口をつけると、ほっと安堵の溜息が漏れる。


「ありがとう、気を遣わせてごめんね」

「いいえ、久しぶりの社交の場は疲れるでしょうから。それもあれだけ注目されては、息もしづらいかと」


 ナディアに再びお礼を言い、少し離れた場所にいるラルフへと視線を向ける。


「ラルフ様、おめでとうございます」

「ありがとう」


 彼を前にした若い女性達は皆、頬を薔薇色に染め、乙女のような表情を浮かべていた。


 一方、ラルフはというと失礼にはあたらないものの、それでも素っ気なさを隠しきれない対応をしている。


「ラルフって、いつもあんな感じなの?」

「いいえ。今日は自身が招待する側ですし、リゼット様の前なせいか、かなり愛想がいい方ですよ」

「あれで……!?」

「はい。あれで、です」


 ラルフはいつも柔らかな笑顔を浮かべており、誰よりも愛想がいいと思っていた私は、驚いてしまった。


「リゼットお姉様だけが、特別なんですよ」


 そんな彼女の言葉に、悪い気はしなかった。むしろ少しだけ嬉しいと思ってしまった私は、久しぶりの社交の場で緊張し過ぎて、どうかしてしまっているんだと思う。


「……アシュバートン家の、リゼット様ですよね?」

「あっ、はい」

「実は子供の頃、ご挨拶させていただいたことがあって」


 そう声をかけてきたのは、どうやら私を知っているらしい見知らぬ男性だった。歳は同じくらいだろうか。


 ちなみに義母と義姉には既に、余計なことをしないよう話はつけてあるらしい。詳しくは教えて貰えなかったけれど。


「リゼット様」


 家の話題になると困るなと思っていると、不意に腰を抱き寄せられ、顔を上げるとそこにはラルフの姿があった。


 ついさっきまで招待客の相手をしていたはずなのに、いつの間に。私の隣にいたナディアが、くすくすと笑う。


「あら、お早いこと。頭にも目がついているんですか?」

「ついていない」


 そして私に声をかけた男性はラルフの姿を見るなり、あっという間にその場から去って行った。


「大丈夫でしたか?」

「えっ? うん、特に何もないけど」


 ただ普通に話しかけられただけだというのに、ラルフは過保護すぎる気がする。そしてそれからは再び彼の側にいることになったけれど、なんだか先ほどよりも距離が近い。


「なんか、近くない……?」

「嫌ですか?」

「い、嫌ではないけど」

「良かった。大好きです、リゼット様」


 そんなラルフの言葉に、辺りが一気にざわつく。「あのラルフ様が……」「ベタ惚れというのは本当だったのか」なんて声が聞こえてきて、私は顔が熱くなるのを感じていた。


 彼は尚も、蕩けそうな甘い笑みを向けてくる。不意に先程ナディアから聞いた「特別」という言葉が頭を過ぎり、心臓が早鐘を打っていくのには気付かないふりをした。


「ラルフ、少しいいか。急いで来て欲しい」

「……わかりました。リゼット様、すぐにナディアを呼びますのでここから動かないでくださいね」

「うん、わかった」


 ナディアも先ほど侯爵夫人に呼ばれ挨拶回りに行っているというのに、私が至らないせいで二人にかなり気を遣わせてしまい、申し訳ない気持ちになる。


 侯爵様に呼ばれたラルフを見送りナディアを待ちながら、近くにあったグラスを手に取った時だった。


「ねえ、貴女。少しいいかしら?」

「……はい?」


 そんな声に振り向けば、数人の貴族令嬢達が睨みつけるようにして、私を見つめていた。



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