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見え始めた真実



「その女、魔物だろ」


 そんな言葉に、私の口からは間の抜けた声が漏れた。


「……ラルフの知り合いは冗談が好き、なの?」

「…………」

「ラルフ……?」


 目の前のラルフにそう声をかけても、彼は何故か困ったような顔をして私を見つめるばかりで、返事はない。


 予想外のその反応に、嫌な予感がしてしまう。


「へえ、ちゃんと喋れるんだな。人間の姿をした魔物は初めて見たわ。ラルフに魅了かなんか使ってんのか?」

「だから、私は魔物なんかじゃ──」

「とぼけんな、お前から濃い魔物の気配がするんだよ」

「……えっ?」


 そう言った男は、嘘をついているとは思えないくらい真剣な表情をしていた。心臓が、嫌な音を立てていく。


「彼女は、魔物じゃない」


 やがてラルフがはっきりとそう言ってくれたことで、私はほっと胸を撫で下ろしたけれど。


「お前、マジで平和ボケしたわけ? このレベルの気配を感知できないとか、勇者失格だろ」

「……確かに彼女から魔物の気配はするが、彼女自体は魔物じゃない。俺が保証する」

「え」


 ──私から、魔物の気配がする?


 訳もわからずラルフを見上げれば、彼は今にも泣き出しそうな表情を浮かべていて。


 笑えない嘘や冗談だと思いたいのに、そんな顔をされてしまってはもう、無理だった。


「すみません、リゼット様。もう少し落ち着いた後に、話をしようと思っていたんです」

「ほ、本当に私から、魔物の気配が……?」

「はい。申し訳ありません」

「……うそ、でしょう」


 動揺を隠せずにいる私に対して、ラルフは再び「申し訳ありません」と呟いた。間違いなく彼が謝る必要はないのだけれど、私はもうそれどころじゃなかった。


 私の身に、一体何が起きているのだろう。


 何度も魔物に食われては転生していることに、関係しているのだろうか。自分が自分ではないような気さえして、気分が悪くなってくる。


「ちなみにあの男は、魔王討伐の際に一緒にパーティを組んでいた、この国一番の魔道士です」

「……そんな」

「それでも僕の方が強いので、安心してください」


 そんなラルフの言葉に、メルヴィンという男は「うっざ」と舌打ちをした。否定しないあたり、事実らしい。

 

 ラルフは私を完全に背中に隠すと、男に向き直った。


「ビヴァリーがこの国へ戻ってきたら、彼女を見てもらう約束をしている。お前は手を出すな」

「へえ? それまでにお前、殺されたりしてな」

「それ以上言うなら、まずは右手を切り落とす」

「おー、こわ。ま、俺は忠告したからな」

 

 それだけ言うと、メルヴィンと呼ばれた男はこちらへと背を向け、ひらひらと片手を振って去って行った。


 姿が見えなくなり、一気に緊張が解けたことでへたり込みそうになった私を、慌ててラルフが支えてくれる。


 彼はやはり泣きそうな顔をして、私を見つめていた。


「……本当に、すみません」

「なんでラルフが謝るの? 助けてくれたのに」

「僕は貴女に隠し事をしていたんです。その上、こんな形で知らせてしまうことになったんですから」


 「幻滅しましたか」「嫌いになりましたか」と不安そうな顔をして尋ねてくるラルフを、責められるはずなんてない。


「ラルフは私を想って、黙ってくれていたんでしょう? 謝る必要なんてないよ。ありがとう」


 そう告げると彼はやはり謝罪の言葉を口にして、長い睫毛を伏せた。


「とにかく、話を聞いてもいい?」

「はい、もちろんです」


 すぐに頷いてくれたラルフと共に、私は近くに待たせていた馬車に乗り込み、侯爵家に戻ることにした。


 こうしてラルフとの初めてのお出掛けは、散々なものになってしまったのだった。



 ◇◇◇



 候爵家へと戻ってきた後、ラルフの部屋で私達は向かい合って座っていた。


 彼の部屋に入るのは初めてだったけれど、私の大きな絵が一枚飾られている以外は普通の部屋だった。


 リラックス効果があるという温かいお茶を一口飲むと、ほんの少しだけ気分が落ち着いていく気がする。


「……リゼット様から魔物の気配がすることには、再会した時に気付いていました。いつお話しようか悩んでいたのですが、倒れられた直後は避けようと思っていて」


 もちろん信じたくはなかったけれど、再会した時のラルフの様子にも納得がいく。


 魔物の気配に気付いたからこそ、彼は敵意や殺意を含む視線をこちらへ向けていたのだろう。


 初めて会った子供の頃には、まだ勇者としての力が目覚めていなかった為、気付かなかったのだという。


「魔物の気配がするっていうのは、どういう……?」

「僕も感じるだけで、詳しくはわからないんです。元パーティメンバーでもある聖女に、リゼット様を見てもらうよう頼んでおきました。近々隣国から戻ってくるようなので、会いに行きましょう」

「聖女様に……? ありがとう、お願いします」

「はい、お任せください。彼女の目は特別ですから、色々と分かることもあると思います」


 聖女様に見てもらうなんて、ラルフがいなければ絶対に無理だっただろう。いくらお金を積んだところで、会えるような方ではない。


 私が過去数度の人生を掛けても分からなかった真実に、少しずつ近づいていくような気がした。一方で、真実を知るのが怖いと思ってしまった自分がいる。


 そんな気持ちを見透かしたように、ラルフは「リゼット様」とひどく優しい声色で、私の名を読んだ。


「大丈夫ですよ、僕がついています」

「ありがとう」


 知り合って間もないような彼の言葉に、こんなにも救われた気持ちになってしまうのは何故だろう。


 やはり彼が勇者だから、なのだろうか。戸惑う私の手を取ると、ラルフは柔らかな笑みを浮かべた。



「──今世こそは絶対に、貴女を守りますから」


 

これにて一章は終わりになります、二章もどうぞよろしくお願いいたします。

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