第7話 手裏剣の歩(しゅりけんのふ) 2枚落ち編
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このようなニッチな拙作にも6日でPVが200を越えました。こいつぁ、すげぇ!
興味を持っていただき、重ねて、お礼を申し上げます。
手裏剣の歩を意識できれば有段者間違いなし!
手裏剣の歩
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相手陣から数えて、相手の駒が三~五段目にある筋で二~四段目に打つ歩のこと。
要は「相手に駒の裏に歩を垂らして攻める」ことであり、そのような歩を打たれることを「手裏剣が飛んでくる」と言う場合もある。
次に、価値の高い「と金」を作って確実に攻めていくことも狙いだが、その駒を取らせて相手陣のバランスを崩したり、相手に攻めを焦らせたりする狙いもある。
(引用:「将棋ドットコム」https://将棋講座.com/手筋/手裏剣の歩.html)
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敵に勝つ。
負けるのはミス(緩手)をするからだ。
これは前回に述べたとおりである。
じゃあ、ミスに気付くにはどうするか。
これは人間の人生ときっと同じだろう。
はやいのは、たくさん負けて、負けた原因のミスに気づくことである。
つまり、「失敗を体験する」ことである。
この体験は相手がいて、その相手に「教えてもらう」のだ。
負けて悔しい思いを体で覚えて強くなる。
この方法で強くなった人を「努力型」という。
時間はかかるが、成功すれば一気に成長する方法もある。
相手よりも多く「手数を読む」ことである。
これは何パターンも対局中にその将棋の場面の進行をイメージする。
その中には、たくさん失敗する道もあっただろう。
何パターンも読むうちにひとつ「失敗ではない道」を選択し、指す。
考えれば考えるほど、脳も筋肉のように強くなる。
この方法で強くなった人を「天才型」という。
無論、人は皆「努力型」であり、「天才型」であろう。
たくさん負けて、定跡を覚えるし、相手の手数を読んで最高の一手を紡ぎだす。
将棋の細かい戦術なんて覚えている人はほんの一握りだ。
ただ、人の得意の型は違いがある。
違いがあれども、将棋の初段は遠くない。
子どもなら1年、大人でも仕事をしながらでも2年取り組めばなれる。
人生でもそうだろう。
お金持ちになりたい。
でも、方法がわからない。
まわりの成功者の真似をしてみる。
うまくいかない。
でも、成功者はうまくやり取りしている。
さぁ、この違いはなんだろう。
例え、自分がイメージしている通りにうまくいかなくても、一生懸命に、成功者と同じ時間を費やしているのは変わりない。
しかし、「見えない」絶対的な経験の差が成功者とそれ以外とを分けるのだ。
こんなことを考えていても、私は歩。
私は駒であるから、人生は関係ない。
ただ、形ある限り、大将の指令を守るのみ。
大将が楽しんで将棋を指してくれたならば、それで十分なのだ。
さて、今日も戦場にいる。
私はいつもの通り、角将軍の前に布陣して敵陣を睨む。
今までとの大きな違いは、相手陣内に飛車と角がいない。
つまり、2枚落ちである。
日本にはたくさんの将棋道場、教室があって、さまざまなルールがある。
すべての道場、教室に人が十分にいれば問題ないのだが、そうは問屋がおろさない。
お金を出してまで、将棋を習おうとする人は残念ながら減少中だ。
少ない人の中、強さもバラバラだけどなんとか互いに本気の勝負がしたい。
そんな条件で生まれたルールが「駒落ち」である。
2枚落ちでの基準はだいたい6・7級差と定めているところが多い。
イメージとしては、「ものすごく強さが違う」のだ。
さぁ、開戦だ。
駒が少ない方が先手(上手)となる。
6二銀と指した。
駒落ち戦は、駒落ち戦の戦い方がある。
これをまるまる覚えてしまえば、だいたい2級くらいの実力はあるだろう。
我が大将は後手(下手)だが、7六歩と角道を開ける。
駒組みが進んでいく。
上手は守備陣形、下手は攻め陣形。
これはなかなか熱い戦いになりそうだ。
下手はもともと駒が多い分、ゆっくりと隙を作らぬよう攻めれば負けることはない。
無理攻め。ダメ、絶対。
上手は数手先を読んでうまく罠に嵌めれば勝つ。
下手の攻撃した先の一手を見つけるのだ。
下手が飛車を中央に寄せる。
上手は中央の守りを手厚くするため、銀と玉で守る。
金は攻める係、他の銀金は他の地点を守らねばならない。
玉も自陣の最前線である3段目まで上がって、守備に大活躍だ。
下手が中央の歩を突きだす。
上手は同歩と応じる。
下手は同飛車とし、同歩に飛車を戻す。
歩の交換だ。
序盤の最後はこうやって、歩を持ち駒にすると中盤以降に有利に働くことが多い。
上手は守備が十分、金と桂で私のところをめがけて前進してくる。
上手の歩兵が私の目の前にやってきた。
これは捕えねばならないだろう。
指令もその通りに来た。
私は一歩前進し、その歩兵を捕える。
そしてすぐに相手の金大佐に捕らわれた。
「ふぅぅ」
と、相手の駒台に着いて一息つき、戦況を眺める。
下手の弱点はどうしても角の前になってしまう。
角は前に進められないからだ。
つまり私が真っ先に狙われるのである。
いつものことだと、この事については特に気には留めない。
ただ、大将の鞍変えにはいつも戸惑うのだ。
角頭の攻防戦が、上手の金が引いたことで落ち着き、攻め手が下手に入れ替わる。
これを将棋用語で「手番を握る」という。
手番を握れば攻め続けられる。
将棋は基本的に攻め切れば勝つ。
攻めと守りはターン制ではないので、この手番をどのようにして確保するか、これも将棋の楽しさの一つである。
さて、下手は手番を握ったとはいえ、相手の陣形は表面上固い。
持ち駒は歩1枚のみ。
下手は準備していたとばかり、7筋の歩を突いた。
相手の桂馬の頭を攻めるつもりだ。
上手は同歩と対応する。
そして、下手は歩に指令を出した。
桂馬の頭かと思われたが、指令の場所は「7二歩」。
敵陣の玉の斜め後ろの空いているスペースに滑り込ませたのだ。
同玉でとれば、下手に飛車の居る中央が潰れてしまう。
見逃せば、“と”になる。
もともと、上手は攻めあぐねているのだ。
“と”はまさに退散不能の悪魔に等しい。
この7二歩。
まさに手裏剣、忍法影縫いである。
「かっこいい」
私は思わず声に出してしまった。
これまでもなかなかな活躍な舞台を用意していただいたが、今回の彼の働きもなかなか素晴らしい。
この手を見て上手の大将は満足そうな表情をしていた。
「強くなったな」
実際、良い手を指されると負けるかもという悔しさよりも、自分が見つけられなかった手を知ることができて、感動することが多い。
とはいっても、上手は強い。
一本入っただけですぐ勝ちには繋がらない。
下手もそれをわかってか、集中を切らせることはしなかった。
・・・今回の主役はどうやら私ではなかったのだ。
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