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第5話 底歩(そこふ) 恋愛編

ご覧いただきありがとうございます。

私以外の方がご覧になっている事実、震えるくらい嬉しいというのは本当なのですね。

しかも、日に日にPVが増えています。興味を持っていただき、重ねて、お礼を申し上げます。

底歩そこふ

――――


対局者から見て一番手前の段に打った歩のこと。あるいはそのような歩を打つこと。

特に、歩に対して、自分の他の駒の利きがある場合に使われる。

横からの飛車の攻めに対して有効な受けとなる場合が多く、金の下に打つ最下段の歩は「金底の歩、岩よりも堅し」という格言もあるくらい効果的である。但し、相手の持ち駒に香がある場合には、「底歩」を打った筋に香を打たれることで、合駒に困ることにはなる。


――――


恋愛相談をする。

だいたい相談する時点で自分の中の好きが溢れて止まらない。

告白までは待ったなし。

好かれている方はフリーだったら受け入れたらいいじゃないかと私なら思うのだが、そう簡単に事が済むなら、こんなに「なろう」が流行っていない。


片思いは相手が自分のことを好きであってくれるのか、その不安も同様に溢れて止まらない。

両思いは相談される側としてはたまったものでない。

好き同士、どうして互いに絶妙な間合いを維持し続けたくなるものか。

された方はその時だいたいこういうフレーズが脳裏をかすむ。


「リア充、死すべし」と。


ところがどっこい、私は歩。


そのような乙女の柔肌のように繊細な感覚は持ち合わせていない。

もし、夫婦のような関係になったとしても、駒から駒は生まれてこない。

もし、生まれることがあったとしても、それはルール違反になり、我が大将を困らせることになる。


なぜ、私がこんなことを考えているのかと申すと・・・


私は今、もちろん、戦場にいる。

今回の戦場は学生の男の子と女の子が教室で将棋を指しているところなのだ。


私は将棋に思いを乗せて指していただきたいと思っている。

しかし、此度の両大将は互いのことを意識しすぎて、相手を愛したいがために将棋を指している。

確かに我々はゲームだから、どう扱われようが構わない。

むしろ、数あるゲームの中で将棋を選択していただけたことは至極光栄なことである。

けれども、しびれる将棋をしてほしい。


そこから理解しあえることもあるだろう。


さて、今回の勝負だが、当人同士の恋愛と同様に序盤がなかなか終わらない。

お互いに近づく距離感を計っているのだ。


歩を突きだし、歩を取り込み、飛車を進めて、飛車を止めるためにまた歩を打つ。

序盤のよくある駆け引きだ。

少しでも自分に有利になるような駆け引き。

とても大切だ。


しかし、4度も5度もやられたらたまらない。

しかも、取り込まれ、打たれる歩の一つが私なのだ。


捕まり、新しい君主ができたと思えば、また捕まり元の君主に戻る。

この一戦ほど大将に弓を引いた経験はなかなかないだろう。

これはこれで貴重な経験ではある。

一方で、私は駒として指令は絶対で捕まるまで大将に忠誠を誓っているのは本心である。

そして、やはり勝って終わりたいのだ。


勝つために4度5度なら喜んで受け入れよう。

私には、告白するためのタイミングを探りあっているようにしか感じられない。


おっと、戦況が動いた。

緊張のあまりか、男の子のミスで飛車がただで取られたようだ。

動かす駒はどうしても隙ができやすい。

大駒ならば、なおさらだ。

これは、男の子の圧倒的不利といっていいだろう。

私は今、男の子大将の駒台にいる。


駒台から大将を見る。


顔が紅潮していて、これはミスの焦りなのか、対面に座っている女の子を意識しすぎて緊張しているのかわからない。

少なくとも、パニックをおこしているのはわかる。


女の子の方はクスクスと笑っている。じっとみると、彼女もほんのに顔に熱を帯びているように感じる。

その笑顔はまるで男の子がかわいい、と思っているようだ。


そんな可憐な表情ももちながら、勝機とみるなり彼女の攻めは怒涛を極める。

彼も怒涛の攻めを受けて、ようやく冷静さを取り戻したか、なんとか争点をずらして彼女の攻めをさばいている。


そこで彼女の渾身の一撃。

彼の陣内に飛車を下したのだ。

下した先は彼の陣内の一番下段。

飛車が横向きに金の下を潜り、その先の銀を狙っている。

銀の先にはもちろん、玉がいる。


これは厳しい。


戦況はお互いに終盤戦。

持ち駒は両者、十分にある。

お互い攻め合い、早く攻め切ったほうが勝つ。

いわゆる、熱戦である。


彼は少々長考した。

彼女は彼のその集中している顔をまじまじと眺めている。


そこで私に指令が届いた。

金の下に布陣せよ、とのことだ。


なるほど、これは固い。

飛車で強引に攻めようにも手に入れられるのはすぐに活用が難しい私である。

攻略するには私の前に布陣している金大佐を攻めるしかない。

すぐに金大佐を捕えることはできないので、少なくとも2手かかる。


つまり、私の布陣が敵の攻めを少なくとも2手遅らせることに成功したのだ。

終盤において、この2手はかなり重要である。

2手あれば、玉の頭に歩を打って次に取れるのだから。


女の子の口が引き締まる。

甘いムードの序盤からは考えられない、両者の目の鋭さ。

勝負はまさにインファイト。二人の距離感は一気に縮む。

どちらが先に相手の心(玉)を掴むのか。


これだ、私はこれを待っていた。

他の駒たちの士気も否応なしに上がっていく。


盤上に打たれる駒の音も高く響いていく。

力強い。


それ以上に私の守りは固い。

男の子がだんだんと優勢になっていく。

女の子も不利を悟りながら必死に攻めていく。


ふと、男の子が顔を上げた。

しばらく、女の子の表情を眺めていた。

私は大将の顔を見た。

そこにはヒリヒリした表情はなく、必死になって盤上を見ている女の子を優しい眼差しで眺めていた。

彼女が強引に攻めていく。

攻めきれず、飛車で私を捕えた。

バシッと駒音は高いが、あまりの無理攻め。

金大佐が飛車を捕えれば、男の子の必勝である。


しかし、男の子はその飛車を無視して、詰ませにかかった。

やわらかい手つきで。


その音に彼の駒たちは一瞬動揺を見せたが、大将の真意を悟ったようで、今一度士気を上げて向かっていった。


彼の詰ませにかかった攻めは失敗に終わり、逆に彼の玉が詰んだ。


「参りました。好きです。つきあってください」

駒が恋愛相談に応じることもあるのです。

ご覧いただきありがとうございます。

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