第4話 叩きの歩(たたきのふ) 激励編
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初ブックマーク、初評価いただきました。
私以外の方がご覧になっている事実、震えるくらい嬉しいというのは本当なのですね。
重ねて、お礼を申し上げます。
叩きの歩
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持ち駒の歩を、相手の駒の1マス前に打つこと。
特に相手の駒が桂・角以外で、相手が取り返すことができる場合に使われることが多い。
ただで歩を取り返されることも多いが、それによって相手陣の駒が上ずって隙が生じたり、駒同士の連携がなくなって囲いが弱体化したりするメリットがある。また、歩を取らずに逃げられても、打った歩が攻めの拠点として残る。
手番を渡したり、駒損したりするリスクが比較的少ないので、自分の持ち駒に歩が多い場合は積極的に狙っていきたい手筋である。また、相手が手抜きづらい点に着目して、秒読みの対局などで指し手に困った時に、時間稼ぎを主な目的として指されることもある。
(引用:「将棋講座ドットコム」https://将棋講座.com/手筋/叩きの歩.html)
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今日は市内の区民センターでの戦だ。
何だか大会があるらしく、腕に覚えのある猛者たちが会議室内にひしめき合っている。
盤上から眺めるとほとんどが男性だ。
女性は砂浜にある貝殻のように、存在感はあるもののごく少数だ。
男たちはオシャレには興味はないのか、着古された物を身に包んでいる。
一方、女の子たちはさすがお洒落で清潔だ。
性別の違いで見た目がこんなにも変わるのは興味深い。
さて、机の上にはいくつもの盤があり、その上にそれぞれ駒が並べられている。
私も例に漏れず、各将軍の前に陣取っている。
定位置だ。
盤外からさまざな声が聞こえているかと思えば、一際大きな声の後、静寂がはしった。
そして、一つの声がマイクを通して何か言っている。
どうやら、ルール説明のようだ。
そして、また静寂の後、今度はガタガタと物が動く音がする。
大将たちが移動を始めたようだ。
私は歩。
いろいろな大将に様々に扱われる。
優しく盤上においてくれる気配りのきく方もいれば、バシッと力強く私たちを叩きつける方もいる。
どちらが良いかは一概には言えない。
駒である私の思いはただ、大切に扱ってほしいからだ。
将棋が好きすぎて私たちをこれでもかというくらい痛く叩きつける大将もいる。
その思いが私に伝われば、とても幸せに感じるのだ。
決して、Mというわけではない。
このことだけは強く申し上げておきたい。
さて、準備が整ったようだ。
お願いします、との一声で私たちは活動していく。
時間制限があるらしく、普段よりも指令が届く速度は速い。
どんなに急かされていても指令さえあれば、その指令は絶対に守る。
これは駒たちの不文律だ。
だんだんと目の前の敵が近づいてきた。
今日も相手は居飛車のようだ。
まずは相手の歩兵が目の前に来る。
兵らしく、囚われるのは覚悟の上のようだ。
私も指令通り、前に進み相手の歩兵を捕まえた。
もっとも、私自身もすぐに相手飛車に囚われ駒台に送られたのだが。
駒台に着いた時にいつも思う。
私はどちらかと言えば、義理に厚い方だと。
しかし、駒台に置かれた途端にあっさりと裏切ってしまう、この意識がどうも納得がいかない。
兵にはもったいない広いスペースのもてなしを受けたせいかもしれないが、本来ならば、この程度で屈する鍛え方はしてないつもりだ。
しっかりとしたプラスチックに機械で文字を削り、その上に黒く着色する。
確かに安い駒かもしれない。
しかし、たくさんの大将に愛されてきたのは事実だと強く主張したい。
今日は珍しく、私の出番がなかなか訪れず、たくさんの捕虜たちと戦況を見守る展開が続いた。
「駒台はいいにゃ」
と、丸くなり寝そべっている銀少佐は、言葉遣いもさることながら、すっかり猫になってしまったようだ。
「うちは、自由奔放に動くからにゃ。常に体は柔らかくしておくのにゃ」
と、どうやらボディケアをしているようだ。
「次の出番は、おそらく勝負所にゃ。うちがトドメをさしてやるにゃ」
かつての上司に反抗し、手柄をあげようとしているこの心意気やよいものの、駒として何か大事なものを失っていないか心配になる。
戦場がさらに激しくなっていく。
次々と駒台に捕虜たちが集まってくる。
大将に忠誠を誓った彼らでも駒台に置かれると必ず裏切るのだ。
皆、忠誠度は呂布のようになってしまう。
駒台ってすげぇ!
私は銀少佐をはじめとする捕虜たちと戦況を見守りつつ、今後どうなっていくのか、検討を始めた。
この検討は、大盤解説のようなものだ。
大勢はどうやら、こちらが不利らしい。
今一度、大将が敵陣を崩すべく何かを考えている。
逆転の一手を。
相手の囲いを眺めてみる。
金銀3枚でお互いに支え合っている。
銀を中心として、その両斜め後ろに金が控えている。
連結もよく固そうだ。
一見、すぐに打ち破れるものではない。
大将は限られた時間の中でも長考に入っていた。
ふと何か隙を見つけたのか。
駒台に指令が来た。
私の出番だ。
「がんばってくるにゃ」
「ありがとうございます」
銀少佐の期待に応えたい。
放り込まれた先はなんと銀の真前。
今回も捕まるのが前提なのだ。
前回といい、私の命は軽すぎないかと憤りを感じる。
しかし、これもきっと何か理由があるのだろう。
大将を信じよう。
敵の銀は私の出現でかなり驚いているものの、「何しにきたんだ、この無能が」という風な見下げた態度をとっている。
捕まるのは仕方ないとしても、何もしないよりはいいだろうと「お前を捕まえるぞ」という威嚇だけは忘れない。
ここで周囲は静かになった。
優勢だと思われる敵大将が長考に入ったのだ。
だいたい、長考するのは「崩しを考える」「詰みまでを読む」「不利な場合」が多い。
この場合は、「こちらの意図が掴めない」だろう。
そりゃそうだ。
指令に従った私でさえ、何故こんな無謀なことをさせるのかと憤りを感じているのに。
そして、当然のように銀がやってきた。
「おとなしくしなよ、なんで歩が単騎で僕の前に来たんだよ。僕らの絆はキミでは破れないよ」
私はなすすべもなく、再び捕虜になった。
新しい駒台の上で戦況を眺める。
私の後、銀少佐がでてきたようだ。
2枚の金の斜め後ろの真ん中に布陣した。
「なるほど、割り打ちの銀か」
銀少佐は遠くの私の方を見てニヤリと微笑んだ。
銀少佐は敵金大佐を捕らえた後、玉に捕まり私の元へとやってきた。
「やあ、また会ったにゃ。次はこっちの大将で活躍しようにゃ。一緒にね」
最後、普段とは違う言葉遣いに思わず動揺し目を見開いてしまった。
少佐はそんな私を察して、ケラケラと笑うのだった。
「尤も、キミとウチでトドメを刺したから向こうの勝ちは揺るがないだろうにゃ」
活躍して嬉しいのか、結果、今の大将で負けると聞いて悲しいのか、なんとも言えない感情が全身に伝わった。
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