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3. 友達になろう

 月が淡い光を落とす夜の森。


 蝙蝠の異魔獣を倒した華芽とピョンナ。驚きを隠せないレッツとイセラナ。そんな一同に、不気味な声が笑いかけた。何もないところから化け物が現れたのだ。


「フフフ、まさか異訪人が現れるとは。まあいい。このクアメリオスが相手をしてやろう」


 まるで大きなカメレオンのようだった。レッツが華芽に叫ぶ。


「アレって異魔人ってやつだ。ヤベェぞ。おい、そこの異訪人、気をつけろ」

「それって、どのくらいヤバいの?」

「異魔獣に比べて頭が良くて強い!」


 異魔人クアメリオスは「お誉めに預かり光栄」と言うと周囲に自らの姿を溶け込ませた。まるで透明になったかのようだ。


 姿の見えない敵にピョンナは苦戦を強いられた。どんどん傷ついていく。ピョンナが倒れると、華芽は尻もちをついてしまった。レッツ達は心配する。


「どうしたんだよ異訪人。さっきの勢いはどこへやった?」

「それが……ピョンナが疲れると、私も疲れるみたい」


 次の瞬間、見えない腕で華芽とレッツ、イセラナは殴られて倒れこんでしまった。


「なんと脆い。これが異訪人か。この程度か守護獣は。ハハハハ」


 姿なき声に3人は恐怖する。


 そんなとき一台の馬車が戦場の脇を通りぬける。一瞬だけ、目があった。馬車のキャビンの窓から心配そうに華芽を見るアイリーンの姿があった。今にも泣き出しそうな、宝物が奪い取られてしまう子供のような顔だった。


クアメリオスは姿無きまま馬車に迫るとキャビンを横転させた。御者や衛兵、メイドたちは混乱した。


「一体なにが」「姫様、ご無事ですか」「敵に備えろ」


 華芽は馬車のキャビンから這い出てくるアイリーンを見つけた。クアメリオスは姿をあらわし自己紹介をした。


「我が名は異魔人のクアメリオス。そちらに倒れている御嬢さんはアイリーン姫とお見受けする。ここで出会えたのも何かの縁。どうぞ殺させてくれないだろうか」


 迫るクアメリオスに衛兵が立ちふさがるが「姿をくらますに及ばず!」と長い尻尾で振り払われてしまう。


 そのあいだに、華芽はふらつきながらもアイリーンの側に駆けつけた。


「大丈夫? いま助けるからね」

「そんなことより華芽さんは怪我をしています。私に構わず逃げて、お願い」

「やっぱり愛梨、じゃなかった。アイリーンは優しいや」


 涙ながらに訴えるアイリーンに、華芽はなんだか嬉しくなった。ああ、こんなにいい子なんだって。


 これまでの疲れが一気に出たのか、華芽の目は虚ろ、息も上がり、膝をつき、思考はぼんやりしてきた。だからかもしれない。こんな大胆なお願いをしてしまったのは。


「アイリ……もし、あの化け物を、倒せたら、私のことは、華芽って呼んで」

「はい」

「あとさ、もし私が明日も、生きていたらさ、友達に、なって、くれる?」

「私たちは、もう友達ですよ」

「よかったぁ」


 華芽はおもむろに立ち上がった。クアメリオスが悠然と歩いてくる。


「こっちは姫を殺すのに忙しいのだ。邪魔をするな異訪人」

「異訪人? 私の名前は花岡華芽。アイリの友達だ。私の友達に……手を出すなー!」


 華芽の叫びの応えるように先ほどまで倒れていたピョンナが光に包まれた。そしてみるみるうちに顔は肉食獣のように変貌し、手足は太く、爪と牙は鋭く、身の丈3メートルはあろうかという巨体に進化した。長い耳のおかげでかろうじてウサギっぽさが残っているくらいだ。


 巨大守護獣化したピョンナはひとっ飛びにクアメリオスの前に降りたった。鋭い爪がクアメリオスの身体を引き裂く。


「グハァっ……これほどとは。撤退だ」


 クアメリオスは姿を夜に溶け込ませた。


「逃がさない! そこの女の子! さっきの光る壁を出して! 早く!」

「は……はいっ」


 イセラナは立ち上がり呪文を唱える。周囲に規則性なく幾枚の光の壁が出現した。光が辺りを照らす。さらに光の壁の一枚が月光を受けて、殊更明るい光を夜の森にもたらした。


光に照らされた惨状の中で、影だけが蠢いている。


「影は透明にはなれないようね! いけピョンナ」

「おのれ異訪人。ならば光の届かない茂みまで逃げ込むのみ」

「もう遅いわ。だいたいの方向が分かれば!」


 ピョンナは跳躍し茂み一帯を着地の衝撃で吹き飛ばした。舞い散る土煙、木片、木の葉の中から、ある一点めがけて爪をつきたてた。華芽が叫ぶ。


「方向が分かれば、あとは耳を澄ませて居場所を暴くだけ。オマエの心音、すでにピョンナの耳には届いていたのよ!」

「ぐぎゃああああ」


 ピョンナの鋼鉄の爪には、姿をあらわしたクアメリオスが突き刺さっていた。クアメリオスは朽ち果て、灰と化す。


「ふぅ、やったぁ」


 華芽はその場で目を閉じて倒れこんでしまった。




「ここは……」


 華芽はベッドの上だった。ここは昨晩の客室だ。窓から陽の光が差してくるので夜は明けたのだろう。知らないうちに手足には包帯が巻かれていた。夢ではなかったんだ。異世界に来ていたんだと再認識する。そして室内を見渡す。


「やっぱりいるんだ」


 ピョンナは二等身の姿に戻り、毛布にくるまって床で寝ていた。


「華芽さん、起きてますか」


 様子を見に来たのはイセラナだった。二人はお互い自己紹介をした。


「昨晩は助けていただきありがとうございます。あの、すごく強いんですね」

「う~ん、私というよりもピョンナが強いのかな」


 ピョンナがあそこまで強いとは意外だった。巨大化もしていた。それにピョンナを疲れさせると自分も疲れる。まだまだ異訪人と守護獣については知らない事だらけだ。華芽はイセラナに知っていることがあったら教えてほしいと頼んだ。すると


「異訪人が回復すれば守護獣も回復すると聞いています。それと守護獣は心の中にしまうことができたそうです」

「心の中? ピョンナ、私の中に入ってみて」


 すると眠っていたピョンナはボンっと消え、華芽の胸はじんわりと温かくなった。


 ほかにもイセラナは、ここが寄宿舎であること、王都から歩いて1時間ほどの場所で、以前は多くの剣士見習いや魔法使い見習いが国中から集まり、王都の修練場に通うためにこの場所で寝泊まりしていたものの、今や管理人のミューラとイセラナとレッツしか住んでいない事を教えてくれた。


「ところでアイリは?」

「アイリーン様のことですね。ご無事ですよ。あのあと王国の執事さんや騎士様が大勢迎えにいらっしゃいました。アイリーン様、華芽さんが目覚めるまで側にいたいとおっしゃっていましたが、執事さんに説得されてお帰りになりました。しばらく会えなくなるけど、必ずお礼をしたいとの伝言を預かっています」


 そうか、しばらくアイリとは会えないのかと思うと落胆する華芽だった。


「ありがとうイセラナ。私のことは華芽って呼んで」

「そんな、命の恩人を呼び捨てだなんて」

「いいからいいから」

「では、時間をください。華芽……さん」


 ポッと顔を赤くするイセラナのことを、華芽はなんだか可愛いと思った。


「そうそう、朝ごはんが出来てるんですよ。食堂へ行きましょう」


 朝ごはんか。異世界のゴハンはどんなものなのだろうと期待すると、ボンっとピョンナが出現した。


「呼んでもないのに!」


 ピョンナはクンクンと鼻をならすと、廊下を駆けていった。


 ピョンナのあとをついていくと、そこは食堂だった。レッツは既にパンにかぶりついていて、ミューラはスープを用意していた。ピョンナは当然のように席につくとパンにかじりついた。


 ミューラは華芽を見るとひとしきりにお礼の言葉を伝えた。


 華芽とイセラナも席について朝ごはんを頂いた。


 レッツが華芽に言う。


「たしかにオマエの守護獣は強いけど、ヘルズゲートが現れたら逃げろよな。多分この世界に数体しかいないだろうから出くわすことはないだろうけどな」

「それは何?」

「異魔獣の中でも特にでかくて凶暴なヤツだ。竜のような外観をしてる。コイツは呪いをまき散らす。呪われた人間は衰弱して長くは生きられないんだ。最悪、死んじまう」

「レッツくん、ここで呪いのお話は……」


 イセラナが止めに入る。ここでミューラがなだめた。


「いいんだよ。ヘルズゲートと呪いのことはこの世界で生きていくからには知っておかなくちゃいけないことなんだ。私も昔に呪いを受けてしまってね。これでも少しずつ蝕まれてるよ。姫様は呪いの感染者を不憫に思って、私みたいな人間のもとに慰問に来てくれるのさ」

「治す手段はないんですか。魔法があるんなら回復魔法とか」

「ははは。そんな便利なもの、この世界にはないさ。華芽の世界にはあったのかい?」


 あるはずない。そもそも魔法すら空想の産物だ。ミューラは続ける。


「呪いの濃さにもよるけど、呪いをもろに浴びてしまったら即死してしまうこともある。私の場合、あと二十年は生きられるだろうけどね。レッツの言うとおり、ヘルズゲートが現れたら一目散に逃げるんだよ。逃げたところで誰も責めはしないさ」


 話からするとミューラさんは長生きが出来ないってことだ。事情を知っていたであろうレッツやイセラナも表情を硬くする。ミューラさんは笑い飛ばした。


「さぁ、つまらない話はやめだ。そこのウサギちゃんみたいにたくさん食べな。今日は大会の受付に行くのだろう」

「大会?」


 華芽が首を傾げるとレッツが口を開いた。


「王国騎士・魔法士選抜大会だ。騎士や魔法士はふつう、貴族や強豪道場出身の達人しかなれないんだけど、大会で優勝、もしくは上位に残れば庶民でも騎士や魔法士になることができるんだ。去年優勝したザイオンは今や第一王都守護騎士団の騎士なんだぞ」

「ふうん」


 大会は勝ち抜き戦で最後の一人になるまで続けられる。つまりトーナメント戦だ。終わるまで数日間を要するという。イセラナが言う。


「華芽……さんは強いから大会に出てみたらどうですか」

「私が?」

「そりゃいいね。この寄宿舎から騎士が出れば私も鼻が高いってもんだわ。街の観光ついでに受付に行けばいいよ」とミューラさん。


 こうして華芽はレッツ、イセラナとともに王都に行くことになった。


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