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18. 暴れ化けガニ VS 全力人面ウサギ

 敵集団の中から、まずは蝙蝠の異魔獣が飛び出してきた。


「リシュテル!」

「お任せください姫殿下」


 リシュテルはどこからともなくバイオリンを取り出して、蝙蝠に向かって音色を奏でた。


 すると蝙蝠は息の根が止まったように地に落ちて、ピクリとも動かなくなった。


「何をしたんだよ?」


 蘭子の質問にリシュテルは


「私の魔力を音にのせて異魔獣にぶつけただけです」


 これを聞いたジャスティーナは驚愕した。


「それって、どれだけの魔力が必要ですの? 高位の魔法使いでないと出来ない芸当ですわよ。そもそも魔法使いができる技なのかどうか」

「何か、おかしなことでも?」

「う……今度は私の番ですわ」


 ジャスティーナはリシュテルの眼光に一瞬怯んだものの、気を取り直して、迫りくる犀型の異魔獣に挑んだ。


「氷結魔法! 氷の散歩道!」


 ジャスティーナから異魔獣に向かって、肩幅くらいの氷の道が何本も現れた。一同を中心に放射線状に氷の道が出来上がった。


 犀の異魔獣は、急にあらわれた氷の道に踏み込んでしまい、転倒する。


「それっ! 狙い撃ちですわ。我の御敵を貫け! 氷の矢!」


 立ち上がるも、また滑って転倒する犀の異魔獣を氷の矢が襲った。異魔獣は耐えきれずに爆散する。


 後続の犀の異魔獣は氷の道と氷の道の隙間から突進してくる。


「学習しませんわね。氷の上を通らないのなら、それはそれで動きが読めるってものですわ」


 再び氷の矢が放たれ、氷の道の隙間を走っていた異魔獣に直撃した。


 蘭子が感嘆の声を上げた。


「やるじゃねえか!」

「当然ですわ。ワタクシは将来、国の最高魔法士になる身。これくらい造作もありませんわ」

「おのれ人間ども! だがクレウセタは倒すことは不可能カ!」


 コウルオセスが上空で挑発する。周囲には蝙蝠の第二陣が襲撃の機会をうかがっていた。さらに一同に巨大なカニの異魔獣クレウセタが迫ろうとしている。


 リシュテルは言う。


「空にはまだ蝙蝠がいます。こちらの戦力を分断する気でいるのでしょう」

「じゃあカニのほうはアタシに任せな。リベンジしたいと思ってたんだ!」


 蘭子は叫ぶ。


「来い! ゲキトゥム!」


 後方に停めてあったバイクは側車と分離。変形したゲキトゥムは側車を器用に折り畳むと、こちらは盾に変形した。そして足の裏のジェット噴射でジャンプ、蘭子の前に降りたった。


「盾があれば防御は万全だ。くらえっ。ランチャーバズーカ!」


 両肩の大砲から放たれた火球がクレウセタに炸裂する。しかし硬い甲羅に阻まれてダメージは与えられない。


「カラララララ! 強度とて以前オマエと戦ったときとは大違い。今のクレウセタは完全体。無駄な抵抗はやめようカ!」

「どチクショウ。ケガしてると火力が落ちるのか」


 悔しがる蘭子。今度はジャスティーナが前に出る。


「情けないですわね。次はワタクシですわ!」


 しかし氷の道はクレウセタの巨体に踏みぬかれ、氷の矢も甲羅の前では非力だった。


 蘭子はジャスティーナを呼びとめた。


「なぁ、ジャス子」

「え? ちょっと、勝手にあだ名をつけないで下さる?」

「だってオメぇ、便利だし。(攻撃魔法の)品揃え良いし。いいなぁって思って」

「もしや羨望の眼差し? ふふん。庶民に慕われるのも貴族の務め。好きな言葉で崇めるがいいですわ。それで何の用ですの?」

「ちょっと耳を貸してくれよ……ごにょごにょ」

「なるほど。やってみる価値はありそうですわね!」


 蘭子とゲキトゥム、ジャスティーナはクレウセタに接近した。クレウセタは大きなハサミで威嚇してくる。


「ゲキトゥムのサーベルブレードは、この前の戦いで折れたままだ。やっぱりケガが全快しないと元に戻らないか」

「だったらワタクシがやりますわ。この魔法は大会で異訪人と戦うことを想定して編み出した新技。さぁ、驚きで震えあがりなさい!」


 ジャスティーナの前方に強烈な冷気が生まれる。氷が生成され、みるみるうちに、剣を前方に突き出した、大きな氷の騎士像になった。


「これは異訪人の守護獣対策でしたが、アイリーン様の身の安全のためなら披露することも惜しみません。さぁ、ワタクシの守護騎士よ。行ってらっしゃい!」


 騎士像の足下には、クレウセタに向かって氷の散歩道が続いていた。ジャスティーナは「ふんぬぅぅぅぅぅぅ」と騎士像の背中を押すと、騎士像はクレウセタに向かって、素早く滑り、接近した。


 クレウセタは衝突寸前で騎士像の氷の剣を、両のハサミで受け止める。


「ここからが本番ですわ」


 氷の剣はハサミを凍てつかせ、クレウセタの自由を奪ってしまった。


「すげぇなジャス子!」

「当然中の必然ですわ。さぁ貴女の作戦がどこまで功をなすか、試してみようじゃありませんの!」


 蘭子とゲキトゥムはクレウセタの右側にまわった。


「くらえランチャーバズーカ! 無限連射だ!」


 火球が幾つも放たれ、炎上する。


 一方、ジャスティーナはクレウセタの左側にまわった。


「邪悪なる者を凍てつかせたまえ! 氷気の旋風!」


 冷気がクレウセタの側面の熱を奪っていき、甲羅が凍りついていく。


「カララララ。チカラを合わせるかと思いきや、そんな方法では硬い甲羅を纏ったクレウセタは倒せない。無駄なあがきという言葉を知らないのカ!」


 コウルオセスが頭上で高笑いを始めた。そんなときだ。


 ピシッ、ピシピシ


「なんの音カ?」

「へへ、硬いから良いんじゃねぇか。片方を熱して片方を冷ましたら、どうなると思う」


 クレウセタの甲羅が音を立てながらヒビ割れていく。左右の温度差により硬い甲羅に歪みが生じ、ヒビが入りはじめたのだ。もしも柔らかい甲羅だったら、こんな事にはならなかっただろう。


「カラァ!?」

「エンジンだって熱くなってる時に冷水をかけたらヤバいことになる。そんなことも知らねーのかよ。さてと、出番だぞ。華芽!」

「行け! ピョンナ!」


 華芽は蘭子の考えを察し、ピョンナはハンマーを手にして走り出した。氷の騎士像の背中をよじ登り、跳躍。高度から急降下。クレウセタのひび割れた背中にハンマーを叩きこんだ。ヒビが一段と広がる。


 クレウセタはもがき苦しみ、ハサミを騎士像ごと振り回し、破壊してしまう。危険を感じた蘭子とジャスティーナは攻撃をやめ、距離を取った。


「氷の騎士が壊されましたわ。でもハサミだって損傷していますわね」

「あれじゃ使いもんになんねーな。華芽、いけるぞ!」

「うん。ピョンナ、私たちも本気だすよ!」


 ピョンナは光に包まれると巨大化。ウサギ型の巨大守護獣となった。


 巨大守護獣とカニ型異魔獣が激突する。巨大守護獣の腕力の前に、弱体化した甲羅は次々と破損していった。




「カララ! せめて姫の殺害だけでも成功させなければ」


 蝙蝠の第二陣の襲撃が始まった。リシュテルが応戦に出る。バイオリンの音に乗ったリシュテルの魔力が、蝙蝠を殲滅させる。ところが一体だけ撃ち逃してしまった。


 一体の蝙蝠は菜和美に迫った。しかし菜和美は動かない。


「直江さん!」


 アイリが注意を促すが、それでも菜和美は動かない。


「うおおおおおおおおおおおりゃああああああああああっ」


 走りこんできたレッツが剣で蝙蝠を切断した。


「お、アイツ追いついてきたか」と蘭子。


 レッツは菜和美に近づくと怒鳴りつけた。


「どうして逃げないんだよ。アンタに何かあったら、誰が怪我人を治すんだ!」

「私なんて、もうどうなってもいいのよ……」


 レッツの表情は怒りに満ちた。そこへイセラナも到着した。


「はぁ、はぁ……ふぅ、やっと追いつきました。あの、レッツくん」

「なんだよイセラナ」

「はぁ、はぁ、ふぅ、えっと……レッツくん、やっと活躍できて良かったですね」

「息を切らせてわざわざ言うセリフか!」


 アイリは両手で菜和美の手を包みこんだ。


「直江さん、貴女は少し前までの私にそっくりです」

「いきなり何言ってるの? 私とアナタではちっとも」

「いいえ、似ています。かつての私もきっと貴女と同じ目をしていたんだと思います。だから放っておけません。一緒に生きぬきましょう」


 菜和美はアイリの手を振りほどいた。


「似てないって言ってるでしょ。アナタは他人のために人生を賭けている人間。私は……」

「一人では出来なくても、仲間がいれば出来ることもあります」

「私は性格悪いし、アナタのことは嫌いだし、良いところなんて無いし」

「そんな友達も、私には必要かもしれません」


 菜和美は次の言葉を探すが、出てこない。アイリを直視できなくて視線を移すと、そこには華芽がいた。気付くとニコリと笑ってくれた。


 再びアイリを見た。ボロボロだ。顔やドレスは砂埃で汚れている。白くて細い手は傷だらけだ。


 ボンっと言う音とともにシュバルトがあらわれた。


「呼んでもないのに……」

「その守護獣も直江さんのことを心配そうにしています」


 アイリの言葉に菜和美は戸惑った。シュバルトが心配そうにしている? あの目は私を責めているのではなかったの? 菜和美はあらためてシュバルトを見た。まともに目を合わせたのは初めてだ。


 菜和美はため息をついた。


「友達になったって、良いことないわよ。きっと後悔する。証明してやるわ」




 クレウセタは泡を吐いて巨大守護獣の接近を拒む。


「これを使いな!」


 蘭子はゲキトゥムに指示し、盾を巨大ピョンナに投げ渡した。


 さらにピョンナの足下には、巨大な氷の剣が突き刺さった。


「守護獣が大きくなるなんて聞いていませんわよ」


 ジャスティーナは華芽に言う。


「このままでは貴女に美味しいところを持っていかれてしまいますわ。だからワタクシも勝利に噛ませてもらいます。ワタクシの氷の剣、今度こそ手にして頂けますわね」

「ありがとう!」


 華芽の意をくんだ巨大ピョンナは氷の剣を手にすると、泡を斬り払う。クレウセタの攻撃を盾で受け、さらにひび割れた背中に氷の剣を突き刺した。クレウセタは絶叫する。


 一同が勝利を確信した、そのとき、黒い羽根が舞い落ち、巨大ピョンナは爆発に飲みこまれた。


「カララララ! クレウセタはヘルズゲートとなる貴重な存在。ここで失うわけにはいかないのカ!」


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