0.2.ベネルク王国
〔--- 数日後 ---〕
ベネルク王国では王城で晩餐会が行われていた。
ヘルマン・ファン・グスターフ国王が発言する、その手には杯が握られている。
<183cm程度、紫黒色の髪を左右分け、ダークブラウンアイ、面長精悍な顔立ちに鋭い眼光 横に長い口髭と長い顎鬚、グレーと紺の軍服風の衣装に豪華な胸飾りと飾緒や勲章で飾っている>
国王「さあ皆の者、今宵は祝杯だ、この度、戦争中だったプロジャー帝国との停戦が纏まった、これから暫くは平和が訪れる事になるだろう、皆の者乾杯!」
「「「乾杯」」」
ランベルト・デア・ブレーケレが隣のベルンハルト・デア・コーニングスに語り掛けた。
ランベルト「おい、ベルンハルト聞いたか、フェルベーク卿が何か画策してるらしいぞ」
<178cm程度、御召茶色の髪、イエローブラウンアイ、おとなしそうな顔、あご先を小さく覆う髭、黒に銀の刺繍の入った貴族服、モントユヴェ領領主>
ベルンハルト「又、良からぬことをやるやらねば良いけどな」
<175cm程度、今様色の髪、グリーンアイ、優しい顔立ち、上唇全体を覆う口髭、紺に金の刺繍の入った貴族服、ヘーレンヴェ領領主>
二人は隣同士の領主という立場だけでなく、子供の時からの友人同士だった。
ランベルト「何やら遠くに砦を作ってるらしい」
イレーナ・デア・コーニングス「あら、私が聞いたのは村を作ってるって事でしたわ」
<163cm程度、梅紫色のセミロングヘア、ブルーアイ、ネイビードレスのカラフル花刺繍、甘め系あどけな顔>
アレッタ・デア・ブレーケレ「え、私は別荘だと聞きました」
<165cm程度、若緑色色のロングヘア、グリーンアイ、グリーンドレスにシルバーと濃い緑のライン刺繍、上部はグリーンにシルバーの花柄、爽やか系色っぽ顔>
ベルンハルト「何を作ってるか知らんが、前回の藪蛇みたいな事にならなければ良いけどな」
ランベルト「まったくその通りだな」
ベルンハルト「所で、ドランゴンはその後どうなんだ?」
ランベルト「最近は見かけないので平和そのものだ、そっちはどうなんだ?」
ベルンハルト「俺の所もドラゴンは来てない」
ランベルト「襲ってきたとしても、弓で追い返す事は出来るし」
ベルンハルト「それでも、魔法を打たれたら幾人かの死人は出るだろう」
ランベルト「そうだけど、まぁ何とかなってる」
ベルンハルト「そうか、俺の所もアーチャーをもっと育てないとな」
ランベルト「そうだな、例のフェルベーク卿が起こした事件で村を全滅させた魔物の名前はどうなった?」
イレーナ「あら、それは、巨大な目の玉の回りに触手がうようよ生えているのがゲイザーとか言うそうですわ」
ベルンハルト「イレーナ、俺にも言ってなかったなその話は」
イレーナ「あら、御免なさい、アレッタと一緒に先ほどお聞きしましたのですわ」
アレッタ「そうです、つい先ほどマデロンに聞いたのです」
ランベルト「王国最高の魔術師マデロン・デア・フーフェン卿か、それなら信頼出来る話だ」
アレッタ「私を疑ってるの?」
ランベルト「違う、話の出所が確かだって事を確認しただけだ」
ベルンハルト「おいおい、仲違いか」
ランベルト「違う、違う、変な事を言うな」
ベルンハルト「あっはっは」
アレッタ「コーニングス卿、からかわないで下さい」
ベルンハルト「悪い悪い」
ランベルト「村を滅ぼした方がゲイザーかな?、弱い方も居たらしいと聞いてるんだが」
イレーナ「あら、マデロンの話だと、そのゲイザーが沢山で何と第3位階の魔法を使って村を滅ぼしたらしいですわ」
アレッタ「弱い方はそのゲイザーと同じ大きな目玉に触手が2本だけって聞きました、そっちの名前は分かって無いらしいですし、マジックアローしか撃ってこなかったので簡単に仕留められたらしいです」
ベルンハルト「いつもお前たち二人の情報には感服するよ」
ランベルト「マデロン・デア・フーフェン卿の話だが、今回の戦争で凄い活躍だったな」
ベルンハルト「プロジャー帝国の砦を一人で全滅させたとか」
イレーナ「あら、マデロンの話だと、単にスライム燃料を空から落として火をつけただけって言ってましたわ」
アレッタ「そうそう、大した事してないって謙遜してました」
ベルンハルト「本人はそう言うけど、今回の停戦だって、そのお陰だと思う」
ランベルト「全くその通りだな」
〔--- 数日後 ---〕
ここ王城の謁見室でヘルマン・ファン・グスターフ国王とハネーゲル領領主アリエン・デア・フェルベーク卿、軍務大臣ヤスペル・デア・ネースケンス卿が話している。
国王「で、どうしても行くのか?」
アリエン・デア・フェルベーク卿「その為に今まで準備してきたのです」
<171cm程度、胡粉色の髪、ゴールドアイ、厳つい顔、口髭と短めのあご髭、紫に銀の刺繍の刺繍の入った貴族服、ハネーゲル領領主>
ヤスペル・デア・ネースケンス軍務大臣「国力増強には必要な事だと存じます」
<185cm程度、紺碧色の髪、アンバーアイ、豪快な顔立ち、あご髭と口髭で口の周りを囲む髭、ライトブルーに金色刺繍ラインの入った貴族服>
フェルベーク卿「村を再建する為にも今回の遠征は成功させなければ成らないのです、王も賛成したではないですか」
国王「そうなんだが、何故か嫌な予感がしてな」
軍務大臣「国費も投じて準備しておりますし」
国王「まぁ、それは良いとして、どの程度の兵力で行くのか?」
軍務大臣「今回はフェルベーク卿の兵が400名で軍としては100名を用意しています」
国王「その数で1国を攻め落とせるのか?」
フェルベーク卿「国王、相手は未だ国と呼べるほどの規模ではありませんので、ご安心を」
軍務大臣「向こうは軍を持っていない事が判明しております」
国王「相手はどの程度の魔法が使えるんだ?」
軍務大臣「はい、火魔法の第3位階を使える者を1名確認しています」
フェルベーク卿「こちらには弓の使い手も多数いますので、魔法使いの一人や二人何も問題になりません」
国王「ふむ、もう少し慎重でもいい気がするけど」
フェルベーク卿「アダマンタイトチームも同行する事になっております」
軍務大臣「出来ましたら、マデロン・デア・フーフェン卿にもご同行願えるように国王のお力添えをお願いしたいのです」
国王「いや、あやつからは、国の役職から解放してくれと頼まれているのでな、今回も無理だろう」
フェルベーク卿「アダマンタイトの赤い太陽神チームだけでも皆殺し出来ます」
軍務大臣「そうなんだが、王が慎重にとおっしゃっているので、フーフェン卿もと思ったんだが」
フェルベーク卿「あんな小娘必要ありませんとも」
軍務大臣「またその様な事を、性格はともかく、実力はこの国随一なんだ、余り毛嫌いすると足下を掬われるやも知れん」
フェルベーク卿「そうなったら、小生意気な小娘如き捻り潰してやるわい」
国王「フェルベーク卿!、宮廷魔導士の地位にいる者をそのうように言う事は許されん、慎みたまえ」
フェルベーク卿「も、申し訳ございません」
軍務大臣「フェルベーグ卿も反省しておりますしお許しを」
国王「それはそれで良いとして、あの赤い太陽神チームが行くのだし、誰が軍の指揮を取るのだ?」
軍務大臣「私は行けません、未だプロジャー帝国の脅威が無くなった分けでは有りませんし、備えておかなければいけない事も多々ありますので」
フェルベーク卿「え、え、あんなに乗り気だったのに、てっきり軍務大臣閣下が行ってくれるものと思っておりました」
軍務大臣「フェルベーク卿の兵の方が多いのだし、フェルベーク卿が行かれたらどうでしょうか」
フェルベーク卿「あ、いえ、私は村の再建とか領地の管理とか色々とありますし」
国王「未だ国になっていないとは言え、都市が幾つか有るのだろうそれを攻めるのだ、下の者に指揮を任せるわけにはいかない、フェルベーグ卿、指揮を取り行きたまえ」
軍務大臣「王の勅命だ、フェルベーク卿が指揮を取る」
フェルベーク卿「分かりました、慎んで御受け致します」
そう言うと、アリエン・デア・フェルベークは深々と頭を下げ、王城を後にし用意されていた馬車に乗り込み王都にある屋敷に向かう。
アリエン「くそ、くそ、くそ」
アリエン「ネースケンス軍務大臣が指揮を取るべきなんだ」
アリエン「なんで俺が行かなきゃならない、元々は軍務大臣が言い出した事ではないか」
アリエン「赤い太陽神チームだって、軍務大臣が手配したのだし」
アリエン「金ばかり俺に出させやがって、胸くそ悪い」
アリエン「ったく、これじゃ2ヵ月以上も留守にしなければならないじゃないか」
アリエン「折角、もう少しであの娘を絡め取って妾の一人にしようとしていたのに、大無しだ」
アリエン「くそ、あの娘をどうする?、やり方を考え直しだ」
アリエン・デア・フェルベークは馬車の中で頭を抱えていた。
一方、王城の謁見室では
軍務大臣「国王様、あんな感じで良かったのですか?」
国王「あやつを暫く領地から遠ざけたかったのであれで良い」
軍務大臣「どういう事でしょうか?」
国王「そうか、知らなんだか、あやつには良からぬ噂があってな、しかも若い女を難癖付けて無理やり妾にしてるという訴えもあったので調査することにしたのだ」
軍務大臣「なるほど、領地の住民を苦しめているとなれば調査は必要ですな」
国王「うむ、しばらく領地から遠ざけるには、今回の件は丁度よかった」
軍務大臣「そうでございますな」
国王「所で、今回の行軍は何日程度だと予想しているのか?」
軍務大臣「はい、早ければ40日、降伏するのに時間がかかればさらに12日、帰りの物資の調達に手間取ればさらに12日程度必要かと」
国王「ふむ、それだけ時間が有れば調査も終わるだろう」
軍務大臣「プロシャー帝国の動きなんですが、こちら側にさらに砦らしき物を作り始めています」
国王「またか、停戦したばかりだというのに次の戦の準備で強固な砦でも作るのだろう」
軍務大臣「停戦条件に抵触しないのですか?」
国王「村だと言い張れば停戦条件には当たらない」
軍務大臣「そんな見え見えの手を使うとは」
国王「見え透いた手だろうと何だろうと、それを使ってくるのが帝国だ」
軍務大臣「まぁ、そうですな~」
軍務大臣「此方の対策としてはどうしましょうか?」
国王「そうだな、帝国から奪った砦の改修と今まで進めていた長い壁作戦の続投、兵の強化推進程度だな、後は何か有るか?軍務大臣」
軍務大臣「はっ、特段何も思いつきません」
国王「そうか、では、その戦略でやってくれ」
軍務大臣「はっ、畏まりました」
軍務大臣のヤスペル・デア・ネースケンスは深々と頭を下げ、謁見室を後にした。
長い廊下を歩きその先にある魔法研究棟に足を踏み入れた。
宮廷魔導士魔法研究棟管理長ヴァウテル・デア・ドリーセン「これは軍務大臣、今日は何用ですかな」
<177cm程度、縹色の髪、ブルーアイ、真面目な丸顔、サイドを整えた短めのあご髭、シルバー刺繍ライン入り紺色のフード付き魔法士服>
軍務大臣「あ、いや、敬の作る魔法の巻物の進捗具合を聞きに来ただけなんだ、フーフェン卿もここに居たのか」
宮廷魔導士マデロン・デア・フーフェン「なによー、居ちゃ悪い?、私だって一応宮廷魔導士なんだから、ここの一員のはずだけどねー」
<158cm程度、菜の花色ベリーショートヘア、イエローアイ、黒い膝下迄のドレス、シースルー刺繍に金ライン刺繍、金糸雀色のマント、尖がり帽子、ほの甘系聡明顔>
軍務大臣「あ、いや、そういう事では無くて、先ほど国王との話で敬を推薦したのでな」
フーフェン卿「又、ろくでもない事をやらせようと思ったんでしょー、やらないわよ」
軍務大臣「あ、いや、国王に窘められたのでその件は気にしなくていい」
フーフェン卿「さっすがー、ヘルマンおじちゃん分かってらっしゃる」
軍務大臣「こら、ここは王宮内でも有るんだぞ、そのような呼び方は失礼にあたる、王宮内では国王とお呼びしなさい」
フーフェン卿「はーい」
と言いながら舌を出している。
軍務大臣「まったく」
あきれ顔をしている。
軍務大臣「ドリーセン卿、何か新しい発見とかはどうなのかな?」
ドリーセン卿「有るわけ無いじゃないですか、ここ数年何もありません、軍務大臣だってその事は知ってるはずですが」
軍務大臣「あ、いや、分かってはいるのだが、職務上一応聞かなければならないのでな」
ドリーセン卿「何か見つければ真っ先にお知らせします」
軍務大臣「まぁ、あれなんだが、メモライズの巻物を有る貴族のご子息が欲しがっていてな、1本でも良いので何とかならんか?」
ドリーセン卿「空の魔法の巻物が残り20本しか無いのです、これは新しい魔法が見つかった時の為の物で、メモライズ程度に使える物ではありません」
軍務大臣「そこを何とか出来ないか?」
ドリーセン卿「無理です、マジックアローでしたら有ります」
軍務大臣「それではダメなんだ・・・」
ドリーセン卿「でしたら早く素材のリーパーツリーが見つかる様に、そちらでも探索チームを増員して欲しいですな」
軍務大臣「それは勿論やっている」
ドリーセン卿「リーパーツリーが有れば空の魔法の巻物が作れるので、その時にメモライズを作りますのでそれまでお待ちして貰えますかな」
軍務大臣「仕方ないか・・、プロジャー帝国との戦闘で大活躍したフーフェン卿の空飛ぶ魔法をどうやって手に入れたかは聞いてないのだが」
フーフェン卿「え~~、皆知ってると思うけど」
ドリーセン卿「軍務大臣は知らないと思うので、教えたらどうです」
フーフェン卿「しょうがないなー、ドラゴンの巣の在処を調べようとして北のドラゴンの森を探索していたの」
フーフェン卿「そうしたらー、こんな感じで土に埋まっていた骨を見つけちゃった」
身振り手振りを多く織り交ぜて説明している。
フーフェン卿「それでー、調べようと掘りだしたら、骨の下に背嚢を見つけたの」
フーフェン卿「でー、背嚢の中を見たら、巻物が2本あったから広げて見たら」
フーフェン卿「その内のー、1本が知らない物だったから試しにメモライズで覚えてみた」
ドリーセン卿「だから、そこがおかしい、知らないのを見つけたら届け出る事になってるはず」
フーフェン卿「だって、だってー、無属性の第3位階ってのが分かったし、覚える事が出来るし、興味に勝てなかったんだもん」
ドリーセン卿「宮廷魔導士という地位にありながらそんな事でどうする」
フーフェン卿「それー、前にも言った」
ドリーセン卿「きちんとするまで何度でも言います」
フーフェン卿「だからー、この話するの嫌なんだよねー」
軍務大臣「うん、まあ、経緯は分かった」
ドリーセン卿「申し訳ありません、もしそのフライの魔法が量産出来ていたら戦争が楽になったのに」
軍務大臣「やってしまった事は仕方がない、次はその様な事をしないようにな」
フーフェン卿「はーい」
と言いながら小さく舌が出た。
軍務大臣「その戦争で大活躍したフーフェン卿に聞きたいのだが、燃料を空から落とすのは誰が考えたのか」
フーフェン卿「私ー、お肉を焼いてる時にこの燃えるスライム燃料を空からぶちまけたらどうなるのだろうって思って、ドリーセン卿に相談したの」
軍務大臣「そうでしたか、それはお手柄でした」
フーフェン卿「でもー、次は相手も同じ事やってくると思う」
軍務大臣「プロジャー帝国には空を飛べる人は居ないと思うので真似は出来無いはずでは?」
フーフェン卿「空からー、落とすのは出来なくても、小さいのを投げてくるんじゃないかな」
軍務大臣「なるほど、その場合の対処も必要ですな」
ドリーセン卿「投げるだけではなく、何らかの方法で燃料を使うと思います」
軍務大臣「ふむ、色んな場合を考えなければいけませんな」
軍務大臣「今日は色々と有意義でした、リーパーツリーの探索が課題だという事も、それでは私はこれで失礼する」
軍務大臣ヤスペル・デア・ネースケンスは魔法研究棟から出て行った。
フーフェン卿「さてー、私は何しようかな」
ドリーセン卿「何しようかなじゃないでしょ、リーパーツリーの探索をする事になってるじゃないですか、早く準備して、探索に行って下さい」
フーフェン卿「それはー、明日からだから、今日は未だ大丈夫」
ドリーセン卿「フーフェン卿の探査が一番早いんですから頑張ってもらわないと」
フーフェン卿「分かってるー」
ドリーセン卿「まったく、あのフライの巻物が有ればこんなに探査に・・・・」
宮廷魔導士マデロン・デア・フーフェンは管理長の愚痴がまた始まったかと思い、そろりそろりと魔法研究棟を抜け出した。