気が付いたら少女2
「女の子?」
そんな馬鹿な。
俺は確か30代後半の男だったはずだ。
少なくとも直前の記憶はそうだ。
冷静になって考えろ。
魔法の使い方は覚えていることは実証済みだ。
モンスターの名前や特性も問題なく覚えていた。
そういえば一つ違和感があったことを思い出す。
そうだ、[■■■]だ。自分の名前が思い出せない。
「ねぇ、大丈夫?もしかしてどこか怪我をしているの?」
深刻そうな顔をしていたのが見えて心配をされてしまったようだが、今はそれどころではなかった。
「鏡...鏡は持ってないか!?」
俺を抱きしめていたに女性はその勢い驚いていたが、小さな鏡なら持っていると言いこちらに差し出した。
貴重品だから気を付けて、と言うが早いか鏡を奪いとり自分の顔を確認する。
そこには少し痩せこけてはいるが、髪は金髪で長い、瞳は大きく、小さな鼻と口、まさに少女そのものが映っていた。
将来は美人に育つだろうと思わざるを得なかった。
「な、な、なんじゃこりゃぁー!」
...
ひとしきり喚いて落ち着いた後、3人組の冒険者達と町に向かって歩いていた。
名前が思い出せないことはともかく、今の見た目で30代後半の男だったことを話してもまず信じてはもらえないだろう。
とはいえ何もない場所にいても事態は進展しないので、少女のふり(完全に見た目は少女だが)を町まで連れて行ってもらうことにした。
冒険者は男が[ケイン]女性はそれぞれ[カサンドラ][ミロ]と名乗った。
ケインが前衛で敵を抑え、カサンドラが弓・ミロが魔法で援護するスタイルだそうだ。
討伐の依頼というのがトゥースナイフドッグだったらしいのだがどうしても見つけられず、食料が尽きそうになったため一度町に帰るところだった。
「もしかして、そのトゥースナイフドッグって3匹で狩りをしてたりすr...しますか?」
他にトゥースナイフドッグはいなかった。
多分、そういうことだろう。
「ああ、そうなんだ。もし見かけていたのならどの辺りにいたか教えてもらえると助かるんだけど。」
当たりだ。
肩に掛けていた毛皮の袋を下して地面に広げる。
「こちらになります。」
知らなかったとは言え、冒険者の討伐対象を横取りするのはご法度だったはずだ。
ギルドに報告するときには討伐対象とわかる体の一部か全体を提出すればよいのだが、魔獣というのは資源の宝庫だ。
肉はもちろん食べられるし、毛皮は服にも加工できる。
余すところなく再利用されるというわけだ。
今回は残った毛皮と肉で矛を収めてもらおうという魂胆だが、ちゃっかり魔石は隠している。
彼らは「まさかこんな少女が」といった顔だったが、実際に毛皮と肉が目の前にあるため信じざるを得なかった。
そして、倒したのが自分たちでなくてもギルドへの報告の義務があるので、報告の時に毛皮を貸してもらえれば後は好きにしていいと言ってくれた。
ただ、ギルド未登録の俺ではおそらく報酬は出ないだろうとのことであった。