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覚醒してください、勇者(魔王)。  作者: 安泰
動き出す勇者と魔王。

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2-5-1

 どうして魔王の配下が村長さんと一緒に釣りを……。いえ、そんなことよりもこのタイミングで敵と接触というのは不味いと思うのですが!?ここは一度様子を見ながら――


「何やってんだお前ら」

「躊躇なく!?エルトッ!?」

「はっ!貴様は勇者!ここであったが……何日目だったスラ?」

「知るか」

「せ、先輩!気をつけるメン!きっとどこかにあの女が……!」


 もう一人の……確かメンメンマでしたね。メンメンマは周囲を警戒している様子。カムミュさんのことが相当なトラウマになっているようですね。

 ですがカムミュさんが潜伏していると勘違いしてくださっているのならば、これはチャンスです。いつ奇襲を受けるのか分からない状態では下手な手出しはしてこないでしょうし……。


「カムミュなら今いないぞ。知ってるだろうに」

「躊躇いなく!?エルトッ!?」

「そう言えばそうだったメン。あの殺戮姫が魔界に現れたと聞いたから、その間にということだったメン。ということはチャンスメン!?先輩、今なら勇者を仕留められるメン!」

「確かに、チャンススラ!以前は不意を突かれて敗れたスラが、今回はそうはいかないスラ!覚悟スラ!」


 トントン拍子で襲い掛かることになった二体の魔物怪人。この二体はそれぞれがオーガよりも優れた戦闘能力を保有している……。あ、でも冷静に考えるとこちらの方が戦力的に有利なのでは?


「っ!?体が動かっ!?何スラ!?何が起こっているスラッ!?」

「先輩大丈夫で――メンッ!?」


 驚愕の表情を浮かべながら二体の動きが止まっています。足元には魔法陣が浮かんで……ってこれ拘束魔法ですね。しかも結構高難易度の……。


「へぇ、喋るスライムたぁ驚きだ。発声器官とかどうなってんだ?」

「お、お前の仕業スラッ!?」

「おうよ、コックン=サンデス。聖人崩れの一般市民だ。お前らの上司のサっちゃんの友達だ」

「サっちゃん?……サッチャヤン様スラッ!?」

「それそれ。よろしく言っといてくれよ」


 ゆるい顔で笑っているコックンさんですが、今物凄いことをしています。この拘束魔法はその構築難易度から事前に仕掛けておく罠として使われているのが主な用途のもので、今のようにとっさに展開することは並の聖職者にはできません。それに私、コックンさんが魔法を展開している気配は少しも感じられませんでした。


「なんで逃がす前提で話を進めてるんだコックン。こいつらは敵だぞ」

「ヒィッ!?」

「そうなのか?爺ちゃんと一緒に釣りとかしてたし、てっきり友好的な相手かなと」

「そ、そうスラッ!ライライム達はこのお爺ちゃんと自然に溶け込む術を学んでいたスラッ!」

「ふぉっふぉっふぉ」


 何故かVサインをする村長さん。話の流れについてこれていないだけのような気もしますが、流石はコックンさんの血筋ですね……。


「どうせ魔王に俺の村の周辺調査をしろとか言われて、近辺の人間を利用して情報を得ようとしたんだろう。その過程で川にきて釣りをしている村長と出会って、意気投合してたとか、そんな感じだろ」

「ま、まるで見ていたかのような解説スラね……。ってこのお爺ちゃん、おたくの村の村長スラ!?」

「ふぉっふぉっふぉ。マクベタスア村の村長は仮の姿……その正体は世を捨てた仙人なのじゃ」

「爺ちゃん、逆ぎゃく。村長が本業だろ」

「村長の仕事放り捨てて釣りしている時点で、どっちでも変わらないけどな」

「ふぉっふぉっふぉ」


 どうして魔王の配下が村長さんと釣りをしていたのか、その理由は分かりましたが……って、メンメンマはともかく、ライライムのような見た目が魔物にしか見えない相手と釣りを楽しむのはどうなのでしょうか。


「あ、爺ちゃん。そこの二人が村の滞在許可欲しいってさ」

「ふぉっふぉっふぉ。ええよ」

「あ、ありがとうございます。って軽いですね!?」

「ラ、ライライム達も滞在許可欲しいスラ」

「ふぉっふぉっふぉ。ええよ」

「それは良くないと思いますよ!?」

「エルト、この二人とは一緒に釣りをしたが、心のそこから純粋じゃよ。目的の違いによって敵対することになる可能性はあるとは言え、そう邪険に扱わんでも良かろう。ほれ、コックン。結界を解いておやり」


 あれ、急に真面目なオーラが。やっぱり聖人になる才能を持ったコックンさんのお爺さんだけあって、威厳とか色々ありますね……。コックンさんは笑いながら結界を解除します。


「いきなり襲い掛かる真似をしなけりゃ、別に拘束なんてするつもりもなかったさ」

「ふぉっふぉっふぉ。積もる話は村に戻ってからするかの。折角釣った魚じゃ、一緒に食べようではないか」

「お、お爺ちゃん……なんて慈悲深いスラッ!」

「食事を共にすれば、それはもう家族と変わらん。食事の準備を共にしたお前さんらはもうわしの家族と一緒じゃよ」

「お爺ちゃん……!」


 あれ、なんか変な方向に進んでません?気の所為じゃないですよね?


「良いわけないだろ、ボケ爺」

「エルトッ!?」

「躊躇わずに川に蹴り落としたメンッ!?」

「ふぉっふぉっふぉ」

「笑いながら流れていっているスラ……って!助けるスラッ!」


 川に流される村長さんを救うため、川に飛び込んだライライムとメンメンマ。ずぶ濡れになりながらも村長さんを助け出し、戻ってきました。なんか立場がおかしくありませんか!?


「はぁ……はぁ……。これが勇者のやることメンッ!?」

「村に魔物を入り込ませようとする馬鹿を、川に突き落として頭を冷やさせる行為だが?」

「ふぉっふぉっふぉ、ぐぅの音もでないのぅ……」

「爺さん、そいつらは魔王の手下だ。ついでに言えば俺の命を狙っている。中身がどうであれ、自分が狙われている以上は邪険に扱うぞ」

「ならば仕方ないのう。釣った魚はここで焼くとするかのう。ほれ、エルト。山菜の下ごしらえを頼む」

「……ちっ」


 山菜が入った籠を投げられたエルト。てっきりまた村長さんを川に突き落とすかと思ったのですが、今度は無言で山菜の下ごしらえに入りました。これは一体何事なのでしょうか……。


「ふぉっふぉっふぉ、わしはこの者達を村に連れて行くことを諦めた。だからエルトはわしの要望を一つ聞いてくれた。ただそれだけのことじゃよ」

「そ、そうなのですか……。でもその……こんな時に食事と言うのも……」

「釣りたての魚はまた美味いからの。お前さんも美味しい食べ物は好きじゃろ?」

「ええ、まあ……」


 私も村長さんに流され、気づいたら一緒に焼いた魚を食べていました。目の前に敵がいるのに、良いのでしょうか……美味しいですけど……。


「美味しいメンッ!」

「いやぁ、自分で釣った魚は格別スラね」

「これ食ったら帰れよ、お前ら」

「美味しい食事中に空気読めない奴ですメン」

「実に冷たいスラ。同じ釜の飯をなんたらの仲スラに」

「仲良くするつもりがないのは事実だが、今お前らを始末する気分でもないからな。優しさで言ってるんだ。もう暫くすれば魔界からカムミュが帰ってくるだろうからな」

「今日はこの辺にして撤退しましょう、先輩」

「そうスラね。少なくとも村に詳しい人物とのコネは作れたスラ」


 魔王によって創り出された魔物だと言うのに、本当に人間っぽい感じがしますね。これほどの高い知能を持つ生命体を創り出せる魔王オリマ……できることなら力を蓄える前にどうにかしたいところではあります。


「ところで殺戮姫はどうして魔界にいるメン?オリマ様の所に向かっているわけでもないようですしメン」

「聞くまでもないだろ。狩りだよ、狩り。未知の食材目当てで魔界の魔物をハントしてるんだ」

「それ、魔界の住人からすると洒落にならない怖さスラね……」


 人間の立場で言えば、強力な魔物が人間を狩りに現れているようなものですし……確かに怖いですよね。


「できれば魔族、知性のある魔物は避けて欲しいですメン」

「ま、知能がある魔物は大抵不味いからな。あと人型も食卓に出されるとちょっと抵抗感あるな」

「ちょっとで済むあたり、相当野蛮な村スラね」

「文句なら人間界にちょっかいを出す無能な魔物共に言え。そいつらのせいで動物がちょくちょく逃げて、肉が少ないんだ。……そう言えばスライムを食ったことはなかったな」

「ラ、ライライムは美味しくないスラ!」

「そ、そうですメン!ウルメシャス様は先輩の魔力がラムネの味がするって言ってたし、先輩を齧ったケーラ様も以外と美味だって言ってたとしても、人間の口には合わないメン!」

「メンメンマッ!?退路を断ってないスラッ!?」


 これって私がいるせいで余計な口が回る症状でしょうか。ラムネの味……ちょっと美味しそうかもしれませんね。


「この被害者女もライライムのことを食べ物として見てないかスラッ!?メ、メンメンマに至ってはメンマスラよ!元々食用スラッ!食べるならそっちスラ!」

「先輩っ!?」

「いや、人型はちょっとな」

「そうだな。意味合いの違う食べるなら、どっちでもいけるんだがな」

「この聖職者は何を言ってるスラッ!?」

「だってよ、二人共可愛い女の子じゃん。どっちの子も普通に抱けるぜ?」

「えっ」


 全員が沈黙する中、首を傾げるコックンさん。今この人なんて言いましたっけ?いえ、抱けるとかではなく……ライライムも女の子と……。


「せ、先輩雌だったメンッ!?そもそもスライムに性別あったメンッ!?」

「ラ、ライライムは魔物『怪人』スラ……。生殖機能はないにしても、人格的な性別は設定されているスラ……。でもどうして分かったスラ?」

「え、普通わかるじゃん。立ち振る舞いに匂い、魔力の質に心の揺らぎ方、全部女だし」

「……なんか気持ち悪いスラッ!?」

「多分味もそうだよな。ちょっと体の一部舐めても良いか?」

「良くないスラッ!?近づくなスラッ!」


 スライムの性別すら見分けられるなんて……やっぱりコックンさんもカムミュさんのようにどこか突き抜けた人なのでしょうか……方向性が少し距離を取りたくなるものですが……。


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