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ダグラディアス卿、そしてその部下達に自らの実力を示したオリマ達。これでダグラディアス卿の協力を得られるようになったのは大きいわね!
オリマ達はケーラの私室……もとい城で一泊することになった。ダグラディアス卿はニヤニヤ顔で送り出していたけど、貴方が期待しているようなことは起きないと思うわよ。
お風呂を済ませた後、応接間らしき場所でゆっくりと団欒タイム。ちなみに私はケーラと一緒に入った。長女級とは言わないけど、あれは凶器だったわね。
「オリマ様、お湯加減はいかがでしたかしら?」
「良かったよ。ただ広い湯船だと手足が少し不安になると言うか……」
「狭い浴室だと左右の壁に手足が簡単に届きますからね。私としては開放感あって良かったのですが」
話している内容がちょっと庶民臭いのは置いといて、湯上がり姿のオリマも悪くないわね。キュルスタインは常に執事服なんだけど、私服とかないのかしら?
「そうですわね……やっぱりオリマ様の家にあるお風呂くらいが……一緒に入った時に……ふふ、ふふふ……」
また自分一人の世界に……口や態度に出しているからむっつりと言うよりはオープン?正直ドン引きしそうになる時もあるんだけど、表情一つ変えないオリマは強かよね。
「これがなければ一途で良い感じだと思うのだけれどね……。オリマ的にはどなの?顔は良いし、許容範囲?」
「うーん、そもそもの話なんですけど、サキュバスやインキュバスの血を引く魔族ってあまり顔は重視しないんですよね」
「え、そなの?でもサキュバスとかのつがいって結構ビジュアル高めじゃない?」
「その辺は私が説明いたしましょう。サキュバスのような夢魔は元々顔の造りが良く、姿形での評価は低いのです。ですが性格は顔に現れると言いますか、耽美な顔をした魔族と言うものは大概性格も良いのです。心の余裕の現れなのでしょうな」
えー、顔が良いから性格も良いって、それちょっと悲しくない?まあでもオリマの性格が良いのは知ってるから、否定はできないんだけどさ。キュルスタインが説明した理由は……まあそうね、オリマが自分でこの話をすると自意識過剰っぽい感じになるものね。
「どちらかと言うと、容姿に気を使う必要が殆どないので、清潔さや気配りに余力を割くことができるって感じですかね」
「あー。ちょっとズルい気もするけど、確かに最初から持っているなら他の要素をプラスにしやすいものね」
さらに言えば、夢魔は夜の営みも……ゲフン。パートナーとして選ぶ分には普通に優良物件なのね。んで自分達はそのことを自覚しているから、ビジュアルの高いつがいが生まれると……なんだか悲しい視線を受けそうな話よね。
「容姿を気にしないことが、却って容姿に余裕のある者同士で惹かれ合う。世知辛い世の中です」
「その例が多いだけであって、性格の悪いサキュバスやインキュバスもいるにはいますけどね。ただ性格の悪さを補える容姿があるので、結局はと言った感じですね」
「わー、夢魔ずるーい。それでオリマはケーラの容姿は気にしないってことなのね」
「全く気にしないわけじゃないですけどね。やはりある程度自分達の種族の姿に似通っていないと、抵抗感などは生まれますので」
それもそうよね。獣人系や魚人系の組み合わせとかって滅多にみないし。
「単純にオリマ様の場合、色恋沙汰よりは研究の方が生きがいと言うだけではありますがね」
「それは否定しないかな。でもケーラのように一途な子は好きですよ。芯の強さは夢魔からすればとても魅力的に映る要素ですから」
あら、意外と素直に答えたわね。聞いたら一番喜びそうな本人は自分の世界から帰ってきてないけど。
「その割には態度がそっけないわよね」
「……夢魔の恐ろしさは夢魔自身が一番理解していますから。夢魔が本気で誰かと愛し合うと、その相手は二度と社会復帰できなくなりますので」
あ、うん。ちょっと想像できてゾッとした。ただでさえゾッコンなケーラが、オリマに溺愛されようものなら脳みそが常に蕩けて使い物にならなくなるわよね。いずれは受け入れてもらえるでしょうけど、今はダメね、うんうん。
「まるで見てきたような遠い目をしてるわね」
「父がそうでしたから……」
ああ、オリマの母親ってサキュバスだったわね……。十年以上二人仲良く旅行してるって聞いたけど、本当に社会から消えてしまったのかしら……。
「そういや話を変えるけど、ダグラディアス卿が魔王クラスって言葉を口にしてたわよね?私が言うのは自然な気もするけど、魔族が言うのはちょっと気になったのよ」
私の場合、魔王は自分の力を注いで生み出した存在。だから魔王を基準として比べることができるのだけれど、ダグラディアス卿は魔界の住人でしかない。魔王の力を正確に知らない魔族が魔王クラスと言う言葉を使うのはちょっと引っかかりがあったのよね。
「ウルメシャスさんが想像しているような正確な比較と言う訳ではないですよ。大抵は常軌を逸した特殊な力を持つ者に対して贈る賛辞のようなものです」
「へぇー。最大級の賛辞ではあるんでしょうけど、変わっているわね」
「ただその評価を与えられるのは、過去の歴史においてその実力が立証されている一族、その中でも選りすぐりの者だけに許された特権ですね。それ以外の者が言うと滑稽極まりないですから」
「そうね。人間が神レベルとか言っちゃうようなものよね」
当然と言えば当然なんだけど、魔王は魔族達に大きな影響を与えているのね。まあその辺の奴らを魔王クラスだの言われるのは気になっちゃうけど、キュルスタインくらいならまあ……うん。下手するとこいつ、歴代魔王の一人や二人くらい倒せそうだし……。
「私が魔王クラスかどうかはさておき、ダグラディアス卿と同等である魔族はこの魔界におよそ十数体はいますかね。その中には魔王を目指す者も出てくるでしょう」
「まあそうよね。それだけの力があれば自分こそが魔王だって思い込む輩もいるでしょうし」
本家本元の力を発揮した魔王には勝てなくとも、魔王を除いた中で最強ともなれば魔王と名乗ることに異議を唱える魔族はいないでしょうからね。私は常に異議るけど。
「魔界を統べるにはその魔王クラスの有力者を全て従える必要がありますから。流石に一筋縄ではいかないかなぁ……」
「ダグラディアス卿にキュルスタイン、既に二人味方に付けてるのに弱気ね?あ、サッチャヤンとかはどうなの?」
「サッチャヤンも十分に魔王クラスと呼ばれるに相応しい力を持っていますね。ケーラは……もう少し成長が必要かなぁ」
ケーラはキュルスタインに比べて未熟さを感じるし、仕方ないわよね。サッチャヤンの方は……早いところ納得できるだけの力を見せてほしいところだわ。
「もう一人の四魔将は?」
「間違いなく魔王クラスでしょうね。まあ……あんなことに巻き込まれていなければ……」
「そうだね……酷い事件だったよ……」
「ちなみにそれを話してくれる日はくるのかしら?」
「ところでオリマ様、ライライム達を人間界に送り込んだ件ですが」
あ、これでもかってくらいに話題を逸らされた。いや、思い出すのも辛そうなのはわかるんだけどね?でも面白半分で逸してない?
「ってまた送り込んだの?」
「今度は勇者の周辺調査、直接勇者が住む村には近寄らず、近辺の人間を利用して情報を集めさせる計画ですね。どうも殺戮姫が魔界の方に足を運んでいるようなので、ちょうど良い機会かなと」
「へぇ……ってあのカムミュって女が魔界に来てるの!?」
「ケーラの索敵が捉えています。特にこれと言った目的を感じない動きですので、おそらくは狩りにでもきているのかなと」
魔界に狩猟しにこないでよ……。いや、あの女ドラゴンすら倒しているそうだし、魔界の生き物も軒並み食べそうだけどさ……。
「いっそキュルスタインや他の四魔将を総動員して倒しちゃえばいいのに」
「可能だとは思うんですけどね。ただ下手に動いて勇者にまで行動されると、魔界を統べる計画に支障をきたすことになりかねませんから」
ほんと、力にも目覚めていない勇者相手に慎重過ぎないかしらね?まあでもキュルスタインが直接会って危険だって判断しているわけだし……。
「それでカムミュは今どこにいるの?よもや私達の家に強襲しに来てたりしてないわよね?」
「最寄りの集落ではありますから、可能性はあったんですけどね。ですがそれよりも北の方角ですね」
「え、それってこの辺ってこと!?」
「いえ、さらに北です。ダグラディアス卿の領土の隣を収めているグシャラストスドラゴン、ベルラハーラ卿の領土ですね」
グシャラストスドラゴン、確か悪魔の姿を模したドラゴンだったわよね。純粋な力ではウルメスティアドラゴンの方が上らしいけど、嫌らしさではドラゴンの中でもトップクラスとか。
「魔王クラスの実力を持つ強者で、ベルラハーラ卿はダグラディアス卿とは仲の悪い間柄。将来的にもオリマ様の敵になる可能性は高いでしょう」
「あら、そなの?ならいっそ暴れてくれた方がありがたいかもね」
「不確定要素を相手に期待することはしたくありませんが、何かしらの影響が出てくれると嬉しいことは事実ですね。……おや?」
話の最中にメイドの一人が応接間に飛び込んできた。血相を変えているけど、何か問題でも起こったのかしら?
「失礼しますっ!ケーラ様!大変ですっ!ベルラハーラ卿が何者かによって暗殺されたとっ!」
「……うっそぉ」




