2-2-1
「テ、テナンスぅ!?」
先日のコックンさんと同じように、地面へと叩きつけられたテナンスさん。ハニーミさんの悲しい叫びが村に響きます。
シレミリアさんが魔王の話をする為に一度戻ったので、一緒に帰っていたと思っていたテナンスさん達ですが普通に村に残っていました。彼らの目的はカムミュさんを仲間に引き入れることなのですから、当然と言えば当然なのですが……それでもテナンスさんのくじけなさは凄いと思います。
「何度こられても答えはこうよ。大体仲間になって何をするつもりなの?魔界にでも冒険に行くの?その程度の実力じゃ帰ってこれないわよ?」
「こ、これでも私達上級冒険者なのよ!?」
「上級下級、どうでもいいわよ。こんなに弱い男についていくわけないじゃない」
「そ、そちらの人もそこまで強くないと思いますけど!?」
エルトの直接的な実力は下級冒険者くらいでしょうか。ただエルトには高精度の解析魔法と女神の天啓があります。戦闘役ではなく、知略担当ならば上級でも十分通用すると思うのですが……。
「私はエルトの腕っぷしに惚れているわけじゃないの。剣の腕だけが評価される世界なら私はとっくにエルトに求婚されていなければならないわ」
「凄い自信ですっ!?」
「そんな世界でもしないだろうがな」
エルトはカムミュさん達の諍いに興味ないのか、ナイフで何か彫刻のような物を掘っています。コックンさんも同じようにしているのですが、一体何をしているのでしょうか?
「きょ、今日のところは引き上げるわ!でもテナンスは一度決めたことは決して曲げない強い男なのよ!」
「聞こえのいい言い方をしても、やってることは強引な勧誘なのよね……いっそここでトドメを刺しておいた方が楽かしら?」
「ひぃっ!?これで終わりだと思わないことね!」
ハニーミさんは気を失っているテナンスさんを引きずりながら去っていきました。圧倒的な力の差を見せつけられても諦めない姿勢は、流石上級冒険者だけありますよね。
「そいつは逆だぜイリシュちゃん。これだけの力の差を見せつけられたからこそ、諦めきれねぇんじゃねぇのかな?」
「そう言うものですか……ってコックンさん!?心の声を読んでませんか!?」
「はっはっはっ、顔を見れば大体わかるぜ?特にイリシュちゃんは表情に出やすいからな」
私ってそこまでわかりやすい顔をしていたのでしょうか……。いえ、きっと聖人適正のあるコックンさんの洞察力が優れているだけですよね、きっと!
「あの、ところで何を掘っているのですか?」
「見れば分かるだろう?ミュルポッヘチョクチョンだ」
「ミュルポッヘ……なんです?」
「ミュルポッヘチョクチョン。もしかして知らないのか?」
「知りませんよ!?」
えっ、カムミュさんまで『そんなことも知らないの?』って顔してませんか!?私そんなもの見たことも聞いたこと……あれ、どこかで聞いた記憶はあるような。
「マクベタスアのミュルポッヘチョクチョンは結構人気なんだけどなぁ……。数少ない名産の一つ何だぜ?」
「そ、そうなのですか?この村に滞在してそれなりですが、初めて知りました……。二人とも同じものを?」
「ミュルポッヘチョクチョンは掘る人間によって差が出るからな。エルトの掘る奴なんてかなりミュルポッてるぜ?」
「んん?」
私には何が何なのかさっぱり分からないのですが……エルトの方が良いのでしょうか?……分かりません。
「流れ者の伝道師が伝えたとされる工芸品でな。知っているものの形を取らず、漠然としたイメージだけをこうして形にするんだ。そしてそこから感じられる漠然さを楽しむといった感じだ」
「あ、曖昧なのですね……」
「本来ミュポッヘチョクチョンとは概念のようなものらしくてな。決まった形を持たないことに意味があるとかなんとかで、それがこうしてちょっとした民族儀式のような形で伝統になったんだ」
正直ミュルポッヘチョクチョンなる言葉がこの世界で流行った話なんて、聞いたことないのですが……。天使達なら知っているのでしょうか?今度クルルクエルに聞いてみましょう。
「でもそんなものが名産品になるのですか?」
「好事家にはミュルポッヘチョクチョン愛好家が結構いるのよ。辺鄙な田舎で造られたミュルポッヘチョクチョンの方が漠然さを感じるらしくて、ここはど田舎でしょう?」
「り、理由とかあるのですかね?」
「さぁ、どうなんだエルト?お前のミュルポッヘチョクチョンって結構人気高いよな?」
「簡単な話だ。漠然としたイメージの中にはどうしても日常的に視界に映るものの形が反映されやすい。都会には多くの人工物があり、田舎にあるのは不定形な自然ばかり、漠然さを追い求めやすい環境ってわけだ」
な、なるほど。前提がそもそも謎なのはさておきとして、理に適っているのですね。
「適当に掘るだけじゃダメなのですよね?」
「そりゃあな。大事なのは掘る人物がどれだけ漠然としたイメージができるのか、そしてそのイメージを正確に形として表現する技術があるのかってことだ。その一致性が高いことをミュルポッてるって表すのさ。素人にゃ分かりづらいだろうが、エルトの掘るミュルポッヘチョクチョンはイメージの漠然さ、その表現率がかなりすげーんだぜ?」
エルトの掘っているミュルポッヘチョクチョンを再度細かく観察してみますが……。確かに何かに似ていると言ったイメージが湧きませんね。コックンさんのは……どこか卑猥さを感じると言いますか……。
「コックンのは色欲が滲み出ているのよね。それはそれで下衆な好事家にウケがいいのだけれど」
「へへ、ぐうの音もでねぇな。ま、工芸品とか芸術作品ってのは何かを伝えるもんだ。こういうのも悪かねぇのさ。それを言ったらカムミュちゃんの掘るミュルポッヘチョクチョンだって、狂気とか純愛とか色々分かりやすい感情が見え隠れしてんだろ?」
「無心になるくらいならエルトのことを考えていた方が建設的でしょ?」
なんと言いますか、すっかりと会話に取り残されているような感じがします。私も挑戦してみた方が良いのでしょうか、ミュルポッヘチョクチョン……。なんだか口ずさむと癖になりそうなのが怖いですよね。
「ハニーミがテナンスを引きずっていたので、もしやと思ったが、ここにいたのか」
「あ、シレミリアさん」
そこには大聖堂へと報告しに帰っていたシレミリアさんの姿がありました。
「お、ミュルポッヘチョクチョンか?よくもまあこんな日中に掘れるものだな」
「シレミリアさんも知っているのですね……」
「まぁな。私はこう見えてもミュルポッヘチョクチョンには少しうるさい……待て、エルト、お前のミュルポッヘチョクチョン、少し見せてくれないか!?」
うわあ、凄く食いついていますね。……あれ、シレミリアさんって元は大聖堂に所属する聖騎士でしたよね?そのシレミリアさんが知っていると言うことは人間界全体に知れ渡っていると言うことなのですか!?
「へえ、この聖騎士さんエルトのミュルポッぷりが分かるのか。やるじゃねぇの」
「これは……ここまでのミュルポッヘ職人がこの村にいたとは……!よもや勇者が勇者以上の天職を持っているとは……!」
「そこは勇者であってください!?」
ミュルポッヘ職人ってなんですか!?これ以上謎の概念を広げないでください!?
「はっ、いかん。取り乱してしまったな。すまない。今日は大事な話をしに来たのだった」
「そんなことどうでもいいから、あの二人組を引き取りなさいよ」
「ああ、まだいたのか。すっかり忘れていた」
「忘れていたって……」
「そのことも踏まえての話だがな、今後は暫く私もこの村に住むこととなった」
「えっ」
背後でカムミュさんが舌打ちしたのが聞こえましたけど、それはさておき。シレミリアさんがこの村に住むことに?
「魔界での一件を報告したわけなのだが、魔王オリマの存在を魔王として認定するかどうかは今の所保留と言う形になった」
「そう……ですか……」
「だが本物である可能性、自称だとしても要注意魔族として今後の方針として様子を探ることとなったのだ。聖地に現れたアンデッド、サッチャヤンがオリマの部下と言う事実が 決め手だったな」
サッチャヤン、聖騎士達が魔界の調査先で遭遇したとされる存在。聖騎士達では全く刃が立たず、さらにはシレミリアさんを追いかけ人間界の聖地にまで姿を現したとされるアンデッド。私やエルトは会っていませんが、魔王オリマの配下である四魔将キュルスタインと繋がりがあることは判明しています。
「妥当だな。聖騎士でも手に負えなかった魔族を従えている奴だ。魔王じゃなくとも今後人間にとって大きな脅威になることは明白だからな」
「なぁなぁ、ちょっと聞きたいんだがいいか?」
「ん?構わないが……誰だ?」
そう言えばコックンさんとシレミリアさんって今日が初対面でしたね。最初にシレミリアさんがこの村に来た時はクルルクエルと上空から魔界の様子を観察しに行っていましたし、魔界に向かう時には……クルルクエルに空から突き落とされていて……。
「俺の名はコックン、コックン=サンデスだ」
「そうかコックン……コックン?コックンッ!?」
シレミリアさんは驚愕した表情でコックンさんを指差します。ああ、シレミリアさんは大聖堂に所属する聖騎士なのですから、聖人の試練に挑んでいたコックンさんのことを知っていても不思議ではありませんよね。
「何度も名前を呼ぶなよ、俺でも照れるぜ?」
「ま、まさか……『聖人崩れ』のコックン=サンデスか!?」
「いや、その二つ名は初めて聞いたけどな?ところで敵意は抑えてくれないか?俺は平気なんだが、すげー敏感な子がいてな?」
シレミリアさんは一瞬カムミュさんの方に視線を移したあと、重くため息を吐きました。
「……そうだな。話が通じる相手のようだし、まずは事実の確認からすべきだろう。コックン、お前には魔族を神殿へと誘導した容疑が掛けられている」
「えっ」
「えっ!?」
コックンさんが魔族を神殿に!?なんでそんなことを!?
「コックンならやりそうね」
「否定できないな」
「へへ、信頼が厚くて嬉しいぜ」
「信頼の意味合いが違いませんか!?」
どうして皆さん平然としているのでしょうか……。コックンさんにいたっては頬を染めて喜んでいますし……。
「シレミリアちゃんだっけか、もう少し詳しい話を頼めるか?」
「ちゃん……まあいい。サッチャヤンと名乗るアンデッドが神殿に現れる前夜、近くの村の酒場でお前と内通していたとの目撃情報があった。奴が単身で平然と神殿へと乗り込めた理由にはお前の差金があったのではとされている」
「あーそう言うことね。把握できたぜ」
「コ、コックンさん?どう言うことですか?」
「いや、俺が聖人認定される日に破門された話はしただろ?その前日に会ってどんちゃん騒ぎした相手がサっちゃん、いやサッチャヤンだったってことだろ」
そう言えばそんなことを話していましたね。あだ名と思っていたら名前の覚え間違いだったのですね……。
「事実を認めると言うことか?」
「いや、別に誘導はしてねぇよ?ただサっちゃんは『惚れた女を追いかけて来たんだ』って言ってたから、応援はしただけだぜ?『お前さんの恋路に祝福を』ってな」
「そうなのか……いや待て、何と言った?祝福したのか?」
「そりゃあ気のあった奴の恋路なんだから祝福するだろ?」
「……私の聖剣が通用しなかったのはそれが原因か!?サッチャヤンは聖人の加護を受けていたのか!?」
ああ、二人の話を別々に聞いていましたけど、今の話で色々と繋がってしまいました……。コックンさんは純粋にサッチャヤンと意気投合、恋路を応援する際に祝福を授けてしまったのですね。聖人の祝福を受けた状態ならば結界が張り巡らされている神殿への侵入や、聖剣の一撃を受けても無事でいられるはずです。聖剣は祝福を受けた者には危害を加えない武器ですから……。
「ん?ああ、ひょっとしてお前がサっちゃんの惚れてる女なのか!いやー奇遇だな!」
「奇遇で片付けるな!?いや、だが……恋路を応援する言葉だけで聖剣の一撃を防ぐ加護を与えられるのか……?」
「言葉だけって言うけどな、俺の言葉は常に全力で感情を込めているんだぜ?別に祝福を与えていたとしても不思議じゃねぇよ」
「祝福を与えられるのは選ばれた聖人だけが可能な奇跡なんだぞ!?」
シレミリアさんが頭を抱えています。コックンさんは聖人に認められる一歩手前まで上り詰めたそうですから、実際に聖人としての力を持っていても不思議じゃないのですが……酒場で恋路を応援するだけで祝福が与えられるのは……聖人の中でも相当だと思います。
「コックン、その容疑を掛けられたことを今知ったんだよな?なら破門の件はどんな流れだったんだ?」
「サっちゃんと肩を組んで飲んでたからな。体に魔族の魔力残滓がついてたんだよ。そのことを問われたんで素直に答えたら『この忙しい時に何をしとんじゃ!?』って破門食らったんだわ」
「なるほどな。その日のうちにサッチャヤンが神殿に乗り込み、ドタバタしている間に出た話だったから関連付けられなかったのか。いや、関連付けたくなかっただけかもしれないが。それで後日冷静になってコックンの話を思い出した奴が容疑を掛けたってわけだな」
「えぇ……」
そんなことって……でもまさか神殿に乗り込んできた魔族がシレミリアさんに告白する為だけに現れて、しかも前日に聖人として認められる予定だったコックンさんと仲良くどんちゃん騒ぎをしていたなんて……言われても受け入れなれないかもしれませんね……。
「その時はピンときてなかったが、サっちゃんが神殿に乗り込んでたんだな。やるぅ!」
「やるぅ!ではない!お前の祝福のせいでどれだけ私達が苦労したと思っている!?ええい、責任を取れ!祝福を取り消せ!」
「いや、与えた祝福を撤回って、できるわけねーだろ」
「そうだよなぁ!くそぅ!」
コックンさんの胸ぐらを掴みながら、とても感情豊かに叫ぶシレミリアさん。祝福とは、与えられた奇跡。物ではないのですから、撤回しようとしてできるものではありません。
「ただ俺が与えた祝福はサっちゃんの恋路に対してだ。サっちゃんが恋の為に頑張る分には祝福の効果はあるかもしれねーけど、それだけだぜ?」
「そうね。魔界でやり合った時は普通に殺す一歩手前だったわ」
「だろ?って殺すとこだったのカムミュちゃん!?」
「邪魔なら殺すしかないじゃない。何を言っているの?」
「へへ、俺もまだ普通なんだなって思うぜ……」
「お前ら全員おかしいんだよ」
「私も含まれてますっ!?」
会話にほとんど参加していないはずなのに、エルトに変人認定されました!?カムミュさんやコックンさんと比べれば物凄く常識人だと思うのですが!?
「物凄く常識人って発想がそもそもおかしいってことに気づけ」
「うう……ってまた心が読まれてます!?ニュアンスだけでなく単語単位で!?」
「まあ、神殿に迷惑を掛けたことは置いといてだ。シレミリアちゃんはサっちゃんの告白を受けてどうするつもりなんだ?」
「んなっ!?」
「置いていい話じゃないんだがな」
「サっちゃんの想いは本物だ。サっちゃんからシレミリアちゃんへの熱い想いを聞かされ、それに感銘を受けて祝福しちまったくらいにな。この片思いを終わらせるにはシレミリアちゃん、君の決断が不可欠なんだぜ?」
サッチャヤンが本気でシレミリアさんに恋をしているのであれば、またシレミリアさんの前に現れることになるでしょう。サッチャヤンがシレミリアさんの居場所を探せば、再び大聖堂の神殿を訪れる可能性は大いにあります。
「け、決断と言われても……奴は魔族で、私はそれを打ち倒す聖騎士であってだな……。いや、別に奴そのものが気に入らないとか、そんなことはなくてだな……」
「脈アリなのか」
「脈アリね」
「ち、違う!そんなことはない!」
これは私が見ても脈アリだと思うのですが……シレミリアさん。顔を真っ赤にして否定しても何一つ説得力が……。
「シレミリアちゃん、別に焦る必要はないぜ。聖騎士としての人生で色恋沙汰と縁がなく、そろそろ恋人を見つけないと婚期を逃すかもしれないって言う焦りと、突然告白されたことで戸惑っているだけの可能性だってあるわけだからな」
「それは……って私はまだ二十三だぞ!?」
「婚期はさておき、その歳で色恋沙汰未経験なら告白に免疫はなさそうね」
「んっぐっ!」
聖人になる試練もそうですが、聖騎士になる為の過程もなかなか大変だと聞きますからね。
「その辺はおいおい考えておくんだな。それでこの村に住む事になった理由は、オリマの監視が目的か?」
「あ、ああ。介入等は避け、その様子を可能な範囲で報告するようにと言われた。奴の拠点はこの村からが最も近いからな」
「魔王の拠点から一番近い人間の村が勇者の出身村ってのも酷い話だよな」
「全くだ」
「し、仕方ないじゃないですか!私だってこんな近くに魔王が誕生するなんて分かるわけないじゃないですか!?」
窮地に陥ることで覚醒する勇者の力の特性上、魔物が流れて来やすい魔界に近い場所を選んだだけであって、勇者を魔王の近くに誕生させようなんてつもりは全くありませんでしたとも!
「正直な話、単身で調査したら速攻で捕まると思うぞ。サッチャヤンとやらに嫁入りしたいなら止めはしないがな」
「す、するかっ!大事な話をしに来たと言っただろう。報告にはエルトやイリュシュアさ――」
「あ、イリシュで構いませんよ。様とかを付けられると村人の方々に変に思われますので」
「そ、そうか。コホン、エルトやイリシュのことは伏せて報告したのだが……この村の者に協力してもらったことだけは伝えたのだ。そうでないとサッチャヤンの討伐の依頼を受けたテナンス達を置いて単身で魔界に突入したことになるのでな」
「何を血迷ってるんだって話になりそうだな」
「大まかな内容としてはこの村にいる狩人から魔界の不穏な動きの情報を聞きつけ、案内してもらったと言った感じだな」
何でも屋のエルトは狩人業もしているので嘘ではないのですよね。勇者よりも堂に入っているのが悲しいところですけど。
「現地の者に協力を仰いで監視を続けろってことか」
「まあ、そんなところだ。テナンス達には少々荷が重いかもしれないとのことで、彼らには暫くヨルドムスト王国の王都を拠点として冒険者業を続けてもらうことになる。監視任務を手伝わせてもいいのだが――」
「邪魔にしかならないだろ」
「酷いッ!?」
「言い方もあるが、概ねその通りだ。あの二人は戦闘要員としてなら悪くないが、斥候としてのスキルはないからな」
これは悪い話ではないですよね。人間界側としては魔王オリマの動向を確認できるわけですから、今後の対応も取りやすくなるはずです。シレミリアさん一人では大変な任務でも、クルルクエルに手伝ってもらえれば空から安全に様子を探ることもできますし……。
「別に好きにやればいいんじゃないのか?イリシュを介せばクルルクエルの協力も簡単に得られるから空からの監視もできるだろう」
「……あの、私ってそこまで顔に出てます?」
「うむ。天使の力添えがあれば申し分ないな。今後共よろしく頼む!」
「は、はい。よろしくお願い致します!」
シレミリアさんはなんだかんだで常識のある人ですから、色々と相談に乗ってくれるかもしれません。エルトの周りの方々って、どうも癖が強すぎると言いますか……。
「じゃあまずは住む場所を探すことだな」
「えっ」
「宿屋とかはないからな。一晩くらいなら泊めてくれる村人はいるだろうが、住むとなれば別だ。居候を迎えられるほど余裕のある家はないぞ」
「……け、警護の仕事とかで……その対価を……」
「それは俺の仕事だ。間に合ってる」
ああ、この流れちょっと懐かしいですね。私はどうにかこうにかエルトの家に居候できましたが……。
「き、君の家に――冗談だ」
「冗談でも手は出るのだから、注意することね?」
私がいるだけでもカムミュさんは不機嫌ですからね……。これ以上女性がエルトの家に増えたらと思うと……シレミリアさん、ごめんなさいっ!




