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覚醒してください、勇者(魔王)。  作者: 安泰
覚醒しない勇者と魔王。

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1-17-2

 ケーラとカムミュの戦いのレベルはとても高かった。そりゃあ魔王の幹部と勇者の仲間との戦いなのだから、当然と言えば当然なのだけれど。

 ケーラは周囲にいる私達を巻き込まないようにしているせいか、ブレスを吐くことができないでいる。まあ簡単な炎魔法は使っているし、ハククマイ達が次々灰になっているんだけどね。


「本当に邪魔でしかないわね。力を振り回すしか能がないの?」

「煩いですわっ!ぬるぬると気持ち悪い動きをして、ナメクジの親戚か何かですの!?」


 ケーラの攻撃はまともに命中すればそれだけで相手を即死させるだけの威力を持っているはずなのだけれど、ただの一発としてまともに当たっていない。完全に技量の差で負けているのよね。それにしたってあの女強すぎない?勇者を除いたら過去最強クラスなんだけど。


「この歩法も知らないでよく魔王の幹部なんてやっているわね?過去の勇者の仲間が使ってた技なんだけど。まあいいわ、そろそろ貴方の魔力の癖も覚えたし、終わらせましょう?」

「覚えた?何を言って――ッ!?」


 空振り続きだったけど、常に攻撃を行っていたケーラが回避行動を取った。無造作に繰り出された包丁の一線を全力で回避したっぽいけど、カムミュが何かしたのかしら?……うん?なんか地面に落ちてるわね、あれってもしかしてケーラの……爪!?


「あら、防御がダメだと分かったら回避に切り替えるなんて。思ったよりも判断力があるのね?ま、本能が強いだけでしょうけど」

「私の爪を……!形を整えるのにどれだけ時間を使っていると思っていますの!?」

「知らないわよ。爪を伸ばして切らないなんて不衛生もいいところだわ」


 ケーラの爪は現在その魔力によって地面さえ溶かす超高温の武器になっている。それを魔力強化で補強しているからといって鉄製の包丁で切断するって、ありえないわよ!?


「魔力の癖ですか。厄介ですね」

「オリマ、何か知っているの?」

「魔力には個人差があります。そして他人の魔力より自分の魔力の方が扱いやすいのです。それが魔力の癖を把握しているかどうかの違いです。カムミュはケーラの魔力の癖を覚えたと言った。つまり彼女はケーラに触れた箇所の魔力を操作できる可能性があります」


 言っていることの意味は分かるけど、さっきのやりとりって一瞬も一瞬だったわよね?包丁が爪と接触した瞬間に、爪に施されている魔力強化を弱めて切断したってこと?それじゃああの包丁を防ぐ手段がないんじゃない!?なんてことを思っていると、カムミュがこっちの方にぬるりと視線を向けてきた。あれ人間が放っていい殺気じゃないわよ!?


「……そう。エルトが厄介だと言うだけはあるのね。確かに危険ね、早めに殺しておくに限るわ」

「オリマ、こっちに殺気を向けてるわよ!?」

「今の会話を全部聞かれていたようですね」

「戦いの最中に余所見だなんて、傲慢にも程がありましてよ!」


 ケーラがカムミュに向かって爪を振り下ろすも、返す包丁の一線で爪が切断されてしまった。魔力の癖から防御力を奪われただけじゃない、動きの癖まで覚えられてる!?


「もういいわよ。貴方は――」


 突如カムミュの周囲が爆発した。ケーラが炎系の魔法を使ったようだけど、発生位置がちょっとおかしくなかった?ケーラ側というよりカムミュの背後辺りが爆心地ぽかったけど……。でもカムミュは今完全に反応が遅れていたわよね、これならいいダメージが……!


「油断しましたわね!」

「するわけないじゃない」

「ッ!?」


 いつの間にかケーラの背後に回り込んでいたカムミュが、その包丁をケーラの尻尾へと突き立て、地面へと串刺しにした。ちょっと、まるで無傷なんだけど!?


「切り落とされることを覚悟で爪を爆弾のようにしていたのね。切った時に感じた魔力の量と硬度に違和感があったわよ」

「この――」


 尻尾を地面に固定され、動きの鈍ったケーラの顎にカムミュの膝蹴りが入った。その衝撃でケーラの尻尾が引き千切れ、ケーラの体は数回のバウンドをしながら地面へと転がった。


「硬い頭ね。卵のように潰せると思ったのに、少し痣になりそうだったわ」


 膝を軽く払い、カムミュは地面に突き刺した包丁を抜き取る。ケーラの方は……地面にうつ伏せになっており、僅かに体が痙攣している。生きてはいるみたいだけど、意識が飛ばされてる!?


「ケーラを正面から倒すとか、化物だなぁ」

「サ、サッチャヤン!」


 いつからいたのか、オリマの横にサッチャヤンが水筒に入ったお茶を飲んでいた。全身汗だくで、急いで駆けつけてくれたみたい。


「間に合って良かった。久々に全力で走ったよ」

「急いできたのはわかるけど、お茶なんて飲んでないでケーラを援護しなさいよ!?あの自由を奪う呪いとかあるでしょ!?」

「少しでも息を整えないと、あの化物相手は厳しいからね。それに呪いならとっくに使っているよ」

「使っているって、全然そうは見えないんだけど……」

「この前も言っただろ?四六時中気を張っていなければこの呪いを防ぐことはできないよって。あの化物、オイラが駆けつけた時から常にオイラの方にも気を張っていて、呪いにも常に抗っているんだよ」

「うそぉ……」


 サッチャヤンの体の自由を奪う呪いは特殊なもの。強い抵抗力を持っている者でも気を抜いたらサクっと自由を奪われてしまう。それが最初から通じないということは、あのカムミュという女はこの場に現れてから、常に全身に神経を集中させた状態を維持したまま戦っているということになる。肉体以上に心が化物ね。


「サッチャヤン、キュルスタインが来るまで時間は稼げるかい?」

「そこは倒せるかって聞いて欲しいな」

「僕を巻き込まない呪いのレパートリーでできるのかい?」

「よっし、時間稼ぐぞぉ!」


 サッチャヤンは腕まくりをしながら前に出る。今の話が本当ならサッチャヤンが本気になれば私達も巻き込むってことよね!?それは困るけど出し惜しみをして凌げる相手じゃないと思うわよ!?


「さっきから変な魔力の介入を感じていたけど、貴方だったのね?そこのドラゴンよりはマシな相手のようだけど、邪魔はほしくないのよ?」

「ごめんよ。オイラにとってオリマ様は恩人なんだ。義理を果たさないで目を背けるような真似はできないのさ」

「じゃあ殺すわね」

「うん、よろしく頼むよ」

「頼まれちゃダメでしょ!?」


 カムミュがだらりと腕を下ろし、まるで意識を失ったかのように前に倒れ込む。だけど体が地面に触れる寸前にその姿は消え、気づいた時にはサッチャヤンの懐まで飛び込んでいた。確かあれって暗殺者とかが使う歩法だったわよね!?


「――ッ!」


 サッチャヤンは少しも反応をしていなかったけど、カムミュの方が何かを感じたのか一気に距離を取った。サッチャヤンが何かしたんだろうけど、あの速度で飛び込んですぐに危険って判断して下がるってどんな反射神経しているのよ!?


「うわ、ビックリしたなぁ。やっぱり身体能力じゃ勝ち目はなさそうだ」

「面倒な呪いね。刺した傷をそのまま返す感じかしら?」

「よく見抜けたね。単純な耐久力はオイラの方が上、この呪いなら相打ち以上には持っていけるわけだよ」


 痛み返し、戦闘に使われる呪いの中では簡単な部類のものよね。ただ自分も傷つかないといけない分、その反射率や阻害耐性はひときわ高いはず。サッチャヤンならもう一つ二つ工夫をしているでしょうし、割と有効そうね!


「そうね。流石に私でも首を跳ね飛ばされるほどの傷を返されたら危ないわ。でもその呪いって核となる魔法の構築が貴方の体のどこかにあるはずよね?そこを一撃で突いて破壊すれば、呪いで攻撃が私に跳ね返ることもない」


 サッチャヤンは静かに笑い、そしてオリマの方へと顔を向ける。


「これ勝てませんよ、オリマ様」

「諦めるの早くない!?」

「諦めがいいわね。核の位置もわかったわ。左の肺、そこから嫌な臭いがするわ。これで――」


 カムミュは再度脱力からの飛び込みを行おうとしたが、今度は動き出すことなくその場で膝を突いた。


「勝つことは無理だけど、時間を稼ぐくらいはできるよ」

「え、何、何が起こったの?ってサッチャヤン、足が!?」


 サッチャヤンの姿勢が少し変わっていると思ったら、右足がくるぶしの場所から綺麗に切断されている!?攻撃じゃないわよね、自分で足を切ったの!?


「痛み返しの呪いで一番有効なのは相手に攻撃してもらうことだよ。だけど別にそれが必須条件ってわけでもないからね」

「……そう、呪いの質を下げたのね」

「ご明察。条件を緩和すれば返せる傷の程度も下がってしまうけど、足を切断するくらいの傷なら君の片足を制限するくらいの呪いを付与できる」


 カムミュの右足は切断されていないが、うっすらと痣のようなものが浮かんでいる。片足が不自由になったからさっきの歩法が使えずに転倒したのね。

 そのカムミュは包丁を杖のようにして、片足だけで器用に立ち上がって構えた。


「別に片足でも問題はないわよ」

「じゃあ両足といこう」


 そう言うとサッチャヤンは少しも躊躇わずに、手元に握っていた人型の紙の左足を千切った。同時にサッチャヤンの左足が切断され、サッチャヤンは尻もちを付くように地面に倒れる。呪いを受けているカムミュの方も立っていられなくなったのか、膝が崩れて再び転倒した。

 凄いわねサッチャヤン、自分を傷つけることにまるで躊躇いがないわ。足を切断しても少しも痛そうな顔してないし。


「凄いのねサッチャヤンって。胸に聖剣を突き立てられても生きているだけはあるわね」

「彼の戦い方は見ている方が痛々しくなりますけどね」


 でもこれでカムミュは両足が使えなくなった。サッチャヤンも満足に動けないとは思うけど、周囲にはハククマイ達が控えているのよ!いくら強くても回避行動が取れなくなってしまえば人間一人を圧殺するくら――


「……え?なんで立ってる……の?」


 カムミュの方に視線を戻すと、カムミュは何事もなかったかのように立ち上がっていた。そしてサッチャヤンの方へと静かに歩み寄っていく。どうして!?サッチャヤンの呪いで両足が使えなくなるくらいの傷を受けたんじゃないの!?


「……仕組みを聞いても?」

「簡単よ。両足の足首周りを魔力強化で固定してギプスの代わりにしただけよ。都度緩めたり固定したりを繰り返せば、歩く挙動に近い感じにもできるわ」


 動かない足首周りを魔力強化の強弱だけで無理やり可動させているって言うの!?なんて無茶苦茶な!?


「なるほど。人形を操るように自分の足を操っているわけだ。やるなぁ」

「いや、そんな悠長な!?」

「――今呪いの核の位置をずらしたわね。次は心臓の左上、貴方の魔力の癖ももう覚えたから咄嗟に動かしても無駄よ」

「……オリマ様、ちょっとこれ無理です」


 サッチャヤンは両手を上げて降参のポーズを取る。そんなもので止まる相手じゃないわよ!?


「オリマ、このままじゃサッチャヤンが!ああもう、時間もほとんど稼げていないじゃない!」


 こうなったらオリマには力を求めてもらって、魔王の力に覚醒してもらうしか……!そうすれば、ちょっとくらいは苦戦するかもだけど負けはしないわ!


「いえ、ケーラもサッチャヤンも十分に時間を稼いでくれましたよ。おまたせしましたオリマ様」

「キュ、キュルスタインッ!」


 さっきからどいつもこいつも気づいたらいるわね!?遠くから声を掛けながら走ってこられても、それはそれで雰囲気がぶち壊しだけどさ!


「また新手なの?さっきから本当に邪魔ばっかり――」


 カムミュから放たれている殺気が急激に濃さを増してきた。これ精神が弱い魔族ならショック死するレベルじゃないの!?


「随分と暴れてくれたようですね、殺戮姫。このように可愛らしいお嬢さんとは思いもしませんでしたよ」

「エルトの臭いがするわね。貴方さっきまでエルトに会っていたわね?」


 え、人間の嗅覚ってそんなことまでわかるものだっけ?でも犬とかを使役する獣使いとかもいるし……まあカムミュがおかしいだけよね?ね?


「ええ、勇者とイリュシュア様には向こうの山で少々。臭いで分かるのでしたら特に戦闘などは行っていないことはおわかりでしょう?」

「関係ないわよ。私がいない間にエルトに近寄ろうなんて虫は一匹残さず処理するわ」

「それは困ります。そうなれば全力で相手をする他ありませんが、やりますか?」


 なんかキュルスタインが凄く強者っぽい風格を出しているわね!でも見ている方としてはどう見ても勝ち目がないのだけれどね!?


「――エルトは魔王の首を取ってくれば褒めてくれると言ったわ。だけど生きて帰ってきたら、もっと褒めてくれるって」


 カムミュは振り上げていた包丁を下ろし、オリマの方へと視線を向ける。あれ、キュルスタインを強者として認めたってこと!?どのへんで感じ取れる要素があったの!?


「次の機会があれば必ず殺すわ。そこに転がっている虫もろともね」


 そう言ってカムミュは視界から消えた。どっちが魔王かわからないわね……。逃げたと思われる方向にいたハククマイ達が次々に倒れているけど、それはまあ気にしない。


「オリマ様、追いますか?」

「いや、まずはケーラとサッチャヤンの治療だ。特にケーラが負傷している姿をリドラード達に見られたくない」

「オイラ両足切断したんだけどなぁ……」

「君なら自力で修復できるだろ?」

「まあね」


 サッチャヤンは地面を這って、千切れた足を拾ってくっつけていく。治癒魔法のようにも見えるけど、あれって寄生虫とかを敵に蝕ませる類の奴よね……?アンデッドだから下手な治療魔法は逆効果なのは知っているけど、食欲が失せそうな光景よね。

 何にせよ、カムミュが逃げてくれて良かったわ。キュルスタインがどれだけ戦えるかわからないけど、最悪四魔将の三人が死ぬところだったわけだし。でもオリマが覚醒できたかもしれないと考えると……ちょっと勿体なかったかも?




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