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覚醒してください、勇者(魔王)。  作者: 安泰
覚醒しない勇者と魔王。
18/44

1-13-2

「さて、何はともあれ戦力の増強をしなくてはなりませんね!」


 オリマのテンションが分かりやすく上がっているのがわかる。この子新しい魔物怪人絡みになると凄くいきいきするのよね。


「今度は戦いに送り出すような魔物怪人を創るのよね?てことはライライムやメンメンマより更に強い個体ってこと?」

「うーんちょっと違いますね。確かに戦場における圧倒的な戦力を誇る個の存在は大きな影響を与えますが、そういうのは四魔将で間に合っていますし」

「えへん、ですわ!」

「四人しかいないんだから、足りないとは思うのだけれどね……」


 ケーラの強さは言うまでもなく、キュルスタインもオーガの群れを一人で圧倒してみせた実力者。しかし個が強いだけで全てがどうにかなるほど世界は甘くない。例えば敵が複数方向から攻めてきたら?守らなきゃいけない拠点が複数あったら?ケーラやキュルスタインという駒は強力無比でも、一箇所ずつにしか配置できないのだ。


「まあ実際に成功してから説明しましょう。よし、準備完了!全員サングラス着用!」

「了解スラ」

「了解です」

「了解ですメン」

「ちょっとオリマ!私のことを忘れないでよね!?」


 以前は魔物怪人が誕生する際に発生した光によって暫く気を失ってしまったのよね。だけど今回は違うわ。オリマが外出用にと用意したこのカバーはちょっと操作するだけで光をシャットアウトすることができるのよ!


「もちろん忘れていませんよ」

「ほっ」

「これで皆様準備万端ですわね!……あら?私のサングラスは何処に――」


 装置から研究所を飲み込むまばゆい光が放たれる。その衝撃はカバー越しですら伝わってくるのだから恐ろしい。あと何か不穏な言葉が聞こえてきたんだけど、まあ大丈夫でしょ。

 暫くしてオリマがカバーを緩め、私の視界が戻ってくる。装置の中央には何やら白いゴーレムのような魔物が一体、ポツンと立っている。あとやっぱり視界の端で倒れているケーラがいた。


「ドラゴニュートを失神させるほどって……この光って、兵器運用できるんじゃない?」

「兵全てにサングラスを配布するのは難しいでしょうし、局所の少数戦用の武器としては使えるかもしれませんね。それよりも魔物怪人の創造に成功しましたよ!」

「何の魔物かしら……あ、せっかくだからちょっと考えさせて!」


 私も少しはビシっと魔物を生み出した女神としての威厳を見せなきゃね。この魔物はどちらかと言えばライライム寄りな感じ。見た目が人間っぽいメンメンマに比べれば明らかに魔物っぽいし、何かしらの要素が外見に現れているってことでいいのよね。

 見た感じ人の形ではあるけど、全身余すところなく真っ白で髪や眉も生えていない。白いゴーレムとしか表現のしようがない。それは生まれたてで自我が芽生えきっていないのか、全く動かないままこちらの様子を伺っている。


「今回は戦闘向けの魔物怪人なのよね?」

「ええ。思い通りの能力が備わっているのであれば、きっと優秀な戦闘員となります」

「なるほどなるほど。……うん、まるでわからないわね!ヒントちょうだい!戦場で見るものなの?」

「はい。あれば助かるものですね」


 助かるもの。この時点で通常の魔物というわけではないってことよね。となると砥石とか?白いものもあったわよね。


「私もその戯れに混ざるとしましょうか。こちらであっていますか?」


 キュルスタインはオリマの手のひらに何やら文字を書いている模様。よく見えないけど短い言葉っぽいわね。


「うん。流石はキュルスタイン、聡明だね」

「いえいえ、それほどでも」

「一発で正解!?そんなにシンプルな答えなの!?」

「そうですね。シンプルと言えばシンプルです。見た目から連想もしやすいですし」

「んー……砥石?」

「違いますね。色に着目することは間違っていませんよ」

「他に白い物と言っても……白旗?」

「違いますね。頭の形とかが関連付けしやすいでしょうか」


 むむむ?白いゴーレムらしき魔物怪人の頭はやや流線型、後頭部がやや尖っているように見える。左右非対称で……あ、この形って……!


「篭手!?」

「いえ、違います」


 そ、そうよね……形はそうだけど白い篭手ってそうあるものじゃないし……。


「ああもう!降参でいいわ!答えを教えて!」

「米粒です」

「米粒っ!?……あ、本当だ、頭の形が米粒によく似ているわね……って戦闘向けって話は何処にいったのよ!?」

「その辺は能力を確かめるついでに説明していきましょうか」


 オリマが新しく生まれた魔物怪人の方へと歩み寄ると、その魔物怪人はオリマの方へと顔を動かした。意識はあるのだろうが、視線などが全く読み取れないからちょっと不気味なのよね。


「言葉はもう分かるよね?」

「――はい、問題ないです」

「あれ、もう喋れるの?学習装置で一晩置いておくとかしなきゃダメなんじゃなかったっけ?」

「創造する段階である程度の知識を封入できないかと思いまして。上手くいったようです」


 魔法で知識を魔物に埋め込む……それがどれだけ複雑なことなのかは、そんな発想を考えたこともない私には一生理解できないのだろう。


「つくづく凄いわね」

「この場所が襲われ窮地に追い込まれる中、ギリギリで魔物怪人を生み出した時に生まれたてのメンメンマのような状態ですと戦力になりませんからね」

「ああ、生まれたてのメンメンマは可愛かったわね」

「な、なんだか恥ずかしいですメン……」


 そんな可愛い日々が一日で変わるってのはちょっと寂しいわよね。いっそのこと最初からある程度のコミュニケーションが取れた方がそういった感情が沸かないだろうし、ありかも。


「それじゃあまずは名前だけど……キュルスタイン、頼めるかな?」

「そうですね……コメ……ライス……ライライスというのはどうでしょう?」

「ライライムと一文字しか変わってないじゃない!?」

「流石にそれは困るスラ!?」


 三人の魔物怪人のうち二人がライライしていたらメンメンマが寂しいどころじゃないわ。自分で思っててツッコムけど、ライライって何よ。知らないわよ。


「困りましたね。万策尽きました」

「一つしか尽きてないわよね!?レパートリー少なすぎるでしょ!」

「このキュルスタイン、この歳になって新たな欠点を知ることができました。いい経験です」

「もっと早く気づけたと思うわよ!?ああもう、もうちょっと頑張りなさい!」


 キュルスタインは暫く考え込んだあと、何か閃いたのかポンと手を叩いた。いちいち動作がわざとらしくてちょっと苛つくわね。


「では……ハククマイと言うのはどうでしょう」

「それだけ考えておきながら捻りがないわね……」

「でも悪くないと思いますよ。それじゃあ今から君はハククマイだ」

「ハククマイ……了解ですマイ」

「あ、そのアイデンティティは自然に身についてるのね」


 ケーラを起こし、地下の研究所から外の訓練場へと移動する。ハククマイの戦闘能力をテストするらしいけど、ぱっと見た感じだとそこまで強そうには感じないのよね。内在する魔力はライライムやメンメンマよりも少なく、強者特有のオーラとかも感じない。


「うう、まだ目がチカチカしますわ……」

「わかるわ。あれ意識飛ぶものね」

「それじゃあ……いきますマイ!」


 ハククマイが両腕を地面へと突き立てる。米も植物なんだし、それっぽい魔法でも使うのかしら?そう思いながら見ている間にも、ハククマイは大きな穴を掘っていく。その大きさはハククマイ一人がすっぽりと入るほどだ。


「植物系だし、それっぽい技でもあるのかしら?」

「ええ、そんな感じです」


 ハククマイは穴の中へと潜り込み、掻き出した土を被って土の中へと完全に隠れた。すると地面から巨体な芽が出現し、みるみる成長していく。


「え、これって、え?」


 成長した植物は徐々に姿を変え、周囲を影で覆い隠すほどの巨大な稲穂へと変化していった。なかなかの圧巻。というか稲穂に実っている籾らしきものの大きさが、さっき地面に潜ったハククマイくらいの大きさなんだけど……まさか……。


「超……実り!」

「な、何よこれ!?」


 稲穂に実っていた籾の殻を破り、ハククマイが姿を現した。稲穂に実っていた籾の粒はおよそ百粒、その全てから同時にだ。


「ハククマイの能力、それは自らを種として短期間で成長し、その個体数を増やすというものです。戦場における勝利の鉄則は数、それを補う能力というわけです」

「増殖する魔物はそれなりにいるけど、この大きさでこの増殖数って……」


 全てのハククマイからは同等の魔力を感知することができる。つまりハククマイは短期間で劣化せず百体近く増えたということになる。


「とうっ!」


 ハククマイの一人が稲穂から飛び降り、オリマ達の前に着地する。他のハククマイは稲穂の上で待機しており、私達を静かに見下ろしている。


「あれ?この個体だけちょっと他より魔力が多い?」

「それぞれが同じ意思を持つと困るから、増殖した個体のうち一体がリーダーとなるようにしたんですよ。ただこの個体が死んだ場合、他の個体のいずれかが新たなリーダーとなります」

「……なんというか無茶苦茶ね。これってさらに増殖できるのよね?」


 一人が百人になったということは、この百人が同じことをすれば次は一万ということになる。


「はい。ただ土壌の魔力を大量に吸い取りますので、同じ場所から連続して数を増やすことはできません。ですが移動先で増殖し続けられるので、移動しながら兵を爆発的に増加させることができます」

「げ、限界とかはあるの?」

「リーダーとなる個体の制御能力に左右されるはずです。ハククマイ、あとどれくらいいけるかな?」

「そうだな……十万くらいなら問題なくいけるマイ」


 この魔物一体で十万に相当する兵力……凄いわね。ってあれ?なんだか違和感が……。


「ハククマイ!オリマ様に向かってその口の聞き方、どういうつもりだスラ!」

「どういうつもり?おいおい、ライライム先輩。確かにこのハククマイ、創り出された魔物怪人であることには違いマイ。だが創り出されたことと、個としての強さに関係はないマイ?」


 ハククマイは悠々とした仕草で語っている。その様子にライライムやメンメンマ、ケーラが怒りの表情を浮かべている。……まあライライムの顔は分からないけど。


「……ねぇ、オリマ。これってどういうこと?」

「うーん。自分の能力の有用性を正しく理解したせいで、自分がこの場にいる誰よりも優れた存在だと思っているようですね」

「その通りだマイ。このハククマイを生み出してくれたことには感謝するが、ハククマイの能力は個にして軍!圧倒的力を持つハククマイが何故誰かの下につかなければならないマイ?」


 あーうん。百倍に成長する能力のせいで百倍くらい増長してるってことなのね。気持ちは分からないでもないけど……ってそれよりも大丈夫なのこの展開!?


「いかがなさいますか、オリマ様。処分致しますか?」

「せっかく成功したんだから、そんな勿体無いことはしないよ。でも数で勝っているという立場がある以上、言葉での説得は無理だろうね」

「ではそのように致しましょう」

「キュルスタイン、君はまだ自制できるだろう?数を減らす作業は抑えきれそうにない彼女に頼むよ。君の好きにしていいよ、ケーラ」


 オリマがその名を口にするのと同時に、目の前に立っていたハククマイの頭部が弾けた。魔法でも技でもない。ただケーラが目に止まらぬ早さで、ハククマイの頭部を掴み、握り潰したのだ。


「ほほう、大した身のこなしだマイ。偉そうにするだけのことはあるマイな」


 稲穂にぶら下がり、待機していたハククマイの一体が口を開いた。リーダー個体が瞬殺されたことで、新たなリーダーへと切り替わったのだろう。


「おかしいですわね……。私の魔力を使いオリマ様の手によって誕生した魔物が、このような傲慢な性格を有しているだなんて……理を知らぬ生まれたての赤子が喚いているだけなのでしょう。ええ、きっとそうですわ。泣き喚くのならあやしてあげるのが母の役目。おいたをするのであれば……お仕置きをしなくてはなりませんわね」

「お仕置きって……頭を握り潰してる……なんでもないスラ……」


 ケーラは手についたハククマイの頭部の残骸を舐める。あれって米の糊みたいなものなのかしらね?でもこれはいい機会ね、ケーラの実力を見てみたいと思っていたし。


「キュルスタイン、オリマ様と他二人の護りは頼みましたわよ?」

「ご安心を、貴方がどれだけ暴れようとも傷一つ付けさせませんよ。ただオリマ様の家や研究所に被害が及ばないようにはしてくださいね?」

「ふん。貴様らはたった今、穏便にハククマイに服従するというチャンスを失ったマイ!圧倒的物量に押し潰される恐怖、味わうがいいマイ!」


 稲穂から全てのハククマイが放たれ、降り注いでくる。戦闘能力はオーガと同じくらいかしら?でも肉体的損害や自分の命を消費するだけのものとして扱える分、その躊躇のなさは遥かに恐ろしい。意思を持つアンデッドの集団よりも厄介――


「私、米はしっかりと噛んで味わう主義ですの。一噛みで終わらないでくださいまし?」

「――ッ!?」


 真っ赤な口が現れた。それはケーラの手から伸びている炎、手の形を模した炎がまるでドラゴンの頭部のようにハククマイ達を飲み込んだのだ。


「うわぁ、一網打尽ね……。って全滅させちゃダメでしょ!?」

「問題ありませんわ。まだそこら中に潜んでいますもの」

「その通りだマイ!」


 訓練場の周囲を崩しながら巨大な稲穂があちこちから出現する。ひょっとしてさっきの会話の隙に稲穂から降りて地面に隠れていた個体がいたの!?


「オリマ様、庭への被害が甚大ですね」

「うん。ちょっと悲しいかな」

「そういう問題じゃないでしょ!?」

「郵便でーす。あ、オリマ様サインください」

「物凄いタイミングで来たわね!?」


 え、なに、この状況ってそんなに驚くことじゃないの!?郵便のお兄さん普通にしてるけど、今まさに上空に無数の魔物が出現しているんだけど!?


「ああ、久しぶりだね。サインはここでいいのかな?」

「ええ。それにしても今日は賑やかですね」

「賑やかってレベルじゃないわよっ!?」

「……うわっ!?腕輪が喋ってる!?」

「私よりも驚くところあるでしょ!?」


 なんて郵便のお兄さんにツッコミを入れている間にも、新たに増殖したハククマイはケーラの方へと降り注いでいる。先の一撃を見て学習しているのか、直接降り注ぐ個体は僅かで周囲に散らばりながら突撃を行っている。これ範囲が広がれば広がるほど数が増えるのよね!?


「広大!膨大!雄大!視界を埋め尽くす無尽蔵!個の強大さなど簡単に飲み込んでやるマイ!」

「……狭いですわね。その程度で無尽蔵だなんて、お話になりませんわ」

「なんっ!?」


 ケーラから放たれる炎が広がっていく。全方位から突撃してくるハククマイを次々と灰へと焼き尽くしながら、異様な動きで視界を紅一色に染めていく。オリマの家には奇跡的に燃え移っていないけど、近所の家とか大丈夫なのかしら、これ。


「残り個体数十二、また増えますの?別に構いませんわよ?あら、一体これでもかと逃げようとしていますわね?」

「っ、馬鹿なっ!」


 広域に展開して増え続けるハククマイは凄いけど、やっぱり魔界最強のドラゴンの一族は桁違いね。


「さ、流石ケーラ様ですメン……」

「ウルメスティアドラゴンの感知能力は非常に高い。特に戦闘の際の空間把握能力は群を抜いている。自分の攻撃が届く範囲なら全て、懐に飛び込んでいるのと変りなく把握できるほどです」

「ああ、やっぱりこの炎って完全に操作されているのね。凄く歪に動いているなって思ったけど」

「炎の先にハククマイの個体が隠れていると思いますよ。増えたところで直ぐに魔力波長から居場所を特定されますからね。片っ端から消しているので脳への負荷もそこまでないでしょうし」


 何が恐ろしいって、ドラゴンは本来小洒落た魔法を使う必要はないのよね。ケーラは炎魔法だけでハククマイを蹴散らしていて、まだブレスを放っていないのだ。


「でも余熱であちこち焦げ付いているわ、早く終わらせないとオリマの家が不味いわよ?」

「そうですね。ケーラはあえてハククマイに増殖させ、勝ち目がないことを悟らせようとしているみたいですが……僕の家にこれ以上年季が入るのは避けたいですね」

「大変ですねぇオリマ様も。あ、キュルスタインさん。貴方にもお手紙がありますので、今のうち渡しておきますね」

「貴方は貴方で呑気ねっ!?」


 ケーラの戦いは誰が見ても魔界上位の魔族のそれ。生半可な魔族ならライライムやメンメンマのように圧倒され、震えるほどなのだ。それなのにこの郵便のお兄さんは呑気にカバンから手紙を探している。巻き込まれたら命がないのに、少しは危機感とかないの!?


「くっ、まだまだ数が足りマイ!かくなる上はさらに展開して……!」

「あまり広い範囲に逃げられると魔法では追いつかなくなりますわ。今の数は七百十八……一度綺麗にしてしまった方がよろしいですわね」


 ケーラが大きく息を吸い込む。あ、ブレスを吐く気だ。ブレスって炎魔法より小回り効くのかしら?あの圧縮されている馬鹿みたいな魔力、どう考えても近隣住民ごと巻き込むわよね!?


「ブレスは不味いかな。ご近所さんの家まで燃やしたら弁償で資金難になりそうだし」

「はっはっはっ、オリマ様。そもそもご近所さんが燃え死にますので弁償する必要はないと思いますよ」

「温度差ぁっ!?ていうかキュルスタイン、貴方ケーラのブレスを防げるの!?これ私達も巻き込まれるわよね!?」

「巻き込まれるでしょうね。まあなんとかしますよ」

「少しも安心できないっ!?」


 キュルスタインの保有する魔力量なんて、今そこらで燃え残っているケーラの炎魔法にすら及ばないのだ。これ下手をしたらオリマだって……!


「うーん。意外とハククマイも強情だな。仕方ない、頼めるかいサッチャヤン?」

「いいですよ」

「へ?」


 オリマに応えた郵便のお兄さんが、カバンから人型を模した小さな紙を二枚取り出した。あれって確か呪いとかを掛ける時に使う奴よね?


「さぁ、ハククマイ。悪いことをしたのなら謝ろう。ケーラ、ちょっと苦しいけどそのブレスは飲み込んでね」


 郵便のお兄さんはそれぞれ片手で人型の紙を器用に操り、片方に土下座、もう片方に口を抑えるかのようなポーズを取らせた。


「ッ!?」

「モグッ!?」


 その動作に呼応するかのように全てのハククマイがその場で土下座をし、ブレスを吐こうとしたケーラは自らの口を抑えてボフンと煙が吹き上がった。これ、確か相手を呪って操る魔法よね?個体としてそこまで強くないとは言え、全ての数のハククマイを同時に呪って、しかもケーラまで!?


「げほっ、ごほっ、ちょ、ちょっといきなりなんですの!?あら、サッチャヤン。戻っていらしたの?」

「ごめんね、ケーラ。あとでのど飴あげるから」

「か、体が動かないマイ!?呪い!?俺の個体全員同時に!?」

「だって君達は全てがハククマイなんだろう?じゃあオイラがハククマイという個人に呪いを掛ければ、それはこの場にいる全てのハククマイが受けることになるよ」


 サッチャヤンと呼ばれたお兄さんが土下座をさせた紙の右足を握り潰すと、ハククマイ全ての個体の右足が歪な形でへし折れていった。


「がああっ!?」

「ケーラが一度に薙ぎ払おうとした時、キュルスタインさんは一体だけ攻撃から逃れられるようにしようとしたけど、オイラの呪いはこの周辺にいるハククマイという名を持つもの全てに降り注ぐ。この首を捩じ切れば全ての個体の首が捻じ切れる。それはキュルスタインさんでも防げないんだけど、どうする?」

「ッ、わ、わかったマイ!降参、降参するマイ!」


 ハククマイは震えながら命乞いをした。無限に増え続けるといっても、その全てが同時に殺されてしまえばそこでハククマイという存在は終わってしまう。名前に対する攻撃なのだろうけど、随分と高度な呪いよね。今はもう効いていないっぽいけど、ケーラさえ動きを封じれていたほどだし……。


「ねぇオリマ。ひょっとしてこの郵便のお兄さんって……」

「ええ、彼は四魔将の一人。サッチャヤン、サッチャヤン=カースギブ。死と呪いを届けるカースアンデッドです」

「名前からして呪われてそうな魔族ね。ていうかそんな魔族が郵便のお兄さんをやってるって……」

「死と呪いを届けるのが得意だったから、普通の荷物を届けることも天職にならないかなと思ったんだよ」

「解釈が大分違うと思うけどっ!?」


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