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覚醒してください、勇者(魔王)。  作者: 安泰
覚醒しない勇者と魔王。
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1-12-3

 自警団の編制を行う権限を手に入れたオリマは、オーガの一族にその旨を伝えた。オグガを始めとしたオーガ達の大半はその報告を喜ばしく受け取っていた。オーガは力こそ強いが不器用な一族でもある。鎧や武器などは簡易的な物しか作れず、建築作業なども粗が多い。今後オリマの下で働くにあたり、自分達の能力を十分に活かせる自警団は好条件と言ってもいいわけだしね。


「でもオーガの統率なんて取れるの?」

「細かい指揮などは無理でしょうね。オーガ自体物覚えが悪いし、戦闘になれば直ぐに熱くなるような連中です。ただ大まかな指揮はできますよ。水の流れを調整するようなイメージと一緒です。一方通行に流れる勢いを、道や壁を作って操る。そのくらいに大雑把な方がオーガとしても戦い易いでしょうからね」


 ただオーガ達の訓練については全てオグガに一任することになっている。オリマの方はというとそのオーガ部隊の隊長となる新たな魔物怪人の創造の準備をしている。今度は戦線に出れるような主力級を創るらしいのだけれど、ちょっと期待したくなるわね。


「オリマ様!素材に私めの血や角などは如何でしょうか?そうすれば新しく生まれる子は間違いなく私とオリマ様の血を受け継ぐ子孫……!」

「ありがとうケーラ。だけど半端にドラゴンの要素を加えるとリザードマンとかになりそうなんだよね。知性は十分だけど、それじゃあちょっとね。ああでも魔力は少し貰おうかな、頼めるかい?」

「もちろんですわ!私の魔力を全て吸い尽くしてくださいまし!」


 ライライムやメンメンマはオリマの仕事の手伝いとかしていたけど、ケーラは何も手伝わない。本人はやる気満々なのだけど、オリマが何もさせないのよね。まあ最強クラスのドラゴニュートの力でこの辺の機材を触ればうっかり壊しそうだし……。


「配合率も大事だからね。君からすれば微々たる量しか貰わないよ。それじゃあちょっと腕を貸してもらえるかな?」

「はい!斬って落とせばよろしいですの!?」

「再生できるとは思うけど、そこまでしなくていいよ。君の魔力を少しだけ吸い取らせてもらうね」


 オリマはケーラが差し出した手にそっと手を重ね、何やら魔法のようなものを行使した。ケーラの方はご満悦の顔、幸せそうでなによりね。


「メンメンマのように魔力を吸い取れるの?ってヴァンパイアもサキュバスも吸い取る能力は一級品だったわね」

「僕自身そこまで多くの魔力を保持できないので、ケーラの魔力の一割も奪えませんけどね。それにケーラの魔力の味はちょっと濃ゆいので」

「あ、そう言えば私ケーラの魔力って味見したことないわね。ねぇケーラ、ちょっと私も貰っていいかしら?」

「……え、あ、はい。大丈夫ですわよ!」


 この子、意識がどこか遠くに行っていたわね。オリマの魔力を味わうならまだしも、吸われるだけで満足できるのってなかなかいないわよ。

 ケーラはもう片方の手で私に触れ、魔力を流し込んでくる。おお、これはかなり濃厚な……あ、うん。


「も、もういいわよ」

「少ししか与えていませんけど、よろしいのです?」

「オリマの言っていた意味が分かったわ。貴方の魔力って凄い脂の乗ったステーキみたいな味がするのよね」


 ドラゴンのステーキを食べたことはないのだが、きっとこんな味がするんだろうなって感じがした。ただこれは間違いなく胸焼けになる。夕食に数口食べるくらいでいいレベルね。いや、美味しいことには違いないのだけれど。


「でもちょっと羨ましいですわ。オリマ様の魔力を与えてもらうだけでなく、その味まで堪能できるなんて……やはりとても美味なのでしょう?」

「ええ、表現に困るくらいに美味しいわよ。こればかり貰っていたら身を滅ぼしそうになるかもってくらい危険な味ね」


 うぷっ、この体で食べ過ぎとか感じたことは一度もなかったけど、ケーラの魔力は少量でも満腹感があるわね。ちょっとキュルスタインかライライムの魔力が欲しくなったわ。なんて思っていると地上に繋がっている魔法陣の穴からキュルスタインが浮遊魔法のようなものを使ってふわふわと降りてきた。


「オリマ様、ここに居られましたか」

「あら、ちょうどよかったわ。水が飲みたかったのよ」

「どうかしたのかい?」

「ライライムとメンメンマが帰還しました」


 キュルスタインがそう言うと、金ダライに入ったライライムを持ったメンメンマが飛び降りてきた。あら、随分とライライムから感じる魔力が弱いわね。


「――ふむ、よくやったねメンメンマ。それじゃあ詳しい事情を聞こうか」

「そのことについてはライライムが話すスラ。一連のことを全て経験しているのはライライムスラ」


 ライライムの口――はないけど、この場合は口でいいわよね。ライライムの口からはとんでもない話が飛び出してきた。

 まずライライムは逃亡したオーガ達を追って、人間界へと侵入した。そこでオーガを狩っていたところ、なんと勇者と遭遇したっていうじゃない。


「あの姉、魔界と人間界の争いに関して私達は干渉しないっていう暗黙の了解があるってのに!」

「それ物凄くブーメランを投げてないスラ?」

「……き、気のせいよ!」


 勇者はオリマと同じでその力を完全に身につけていないらしい。でも絶妙な指示でライライムを容易く撃破、捕獲して尋問をしてきた。そこを目撃したメンメンマは色々あって上手いこと脱出してきたと。


「――と言った感じスラ。匂いで追跡される可能性を考慮して、キュルスタイン様のところを訪ね、一通りの追跡妨害の手段をとってもらったスラ」

「その判断は正しいね。それでキュルスタイン、何か引っかかるようなものはあった?」

「いえ、念の為この集落の周囲まで確認しましたが追跡者などはおりませんでした」

「そうか。ひとまずは見逃されたか、泳がされたかってところだね」

「申し訳ないスラ……。オリマ様の名や情報をある程度漏らしてしまったスラ……」


 確かに今勇者にオリマのことを知られるのは不味いわね。オリマの軍勢としての戦力はまだ未編成なまま、周囲への影響力もない。何より魔王であるオリマがその力を全く手にしていないことがバレたのは不味いわ。


「ライライム、君は本来ならどんな拷問を受けても口を割らない程に優れている。その君が情報を漏らしてしまうほどにその女神の因子が厄介だったって話だよ」

「でもそんな因果関係なんてあるのかしら?」

「あると思いますよ。話によればライライムは女神イリュシュアと接触している。僅かですが僕の体もそれを感じ取れています。ウルメシャスさんの力が反応しているのかもしれませんね」

「え、本当?」

「はい。貴方の力周りの感覚を強めてようやく感じ取れる程度ですが、多分直接接触すれば精神に影響が出るレベルかと思います」


 凄く冷静に分析しているけど、私とイリュシュアが喧嘩すると馬鹿になることが周りにも影響しちゃうってのを説明しているだけなのよね。なんか恥ずかしいのだけれど。オリマはメンメンマにも話をさせ、さらに細かい事情を把握していく。


「勇者に女神、さらに天使と謎の女ですか……オリマ様、どう思われます?」

「僕が考えたライライム対策を完璧に実行していることから、解析魔法が使えると考えられるね。メンメンマの能力を見抜いた話の流れも含めて、そのエルトって勇者は『女神の天啓』を習得しているんだろうね。それで最適な行動を導き出し、あらゆる魔法を使用できるイリュシュアに指示を出してライライムを完封した」

「お、おおう……詳しいわね……」


 オリマって魔族のことだけじゃなく、人間界のことに関する知識も相当にあるのね……。人間の一部しか持たないようなレアスキルなんて普通知らないわよ?ただ歴代の勇者でも苦戦くらいはするかもしれないって思ったライライムを、あっさり倒したという実力に関しては警戒せざるを得ないわね。


「天使はイリュシュアの部下なのだろうけど、イリュシュアを縛り上げても平然としていたというのが気になるかな。女神に強い忠誠を持たない天使、人間界での活動期間が長いのかな。そうなると勇者の成長を監視していた人材だろうね」

「村でなめし革を作っているようなことも言っていたスラ」

「どんな天使なのよ……」

「でも天使よりかはカムミュと言う女かな。人間でメンメンマの身体能力を容易く凌駕するような個体はそうはいない。口にしていた言葉や行動から考えるに、その女が『惨殺姫』なのかもしれないね」

「あれが……でもちょっと納得ですメン……」


 メンメンマはその時のことを思い出しているのか、青い顔で震えている。無表情でオーガを殺せるメンメンマがここまで怯えるって、それこそケーラとかと同格だったりするわけ?


「話に聞く人間の村は魔界にも近い場所にありますからね。可能性は高いでしょう」

「勇者と女神と天使、そして惨殺姫。勇者サイドもいい人材が揃っているようだね」

「それで、いかがなさいますか?ご命令でしたら私が始末しに向かいますが」


 キュルスタインは何時も通りの顔で進言する。ライライムやメンメンマを圧倒できる相手が敵だというのに、やっぱり底がわからないわねこの悪魔。


「いいですわね!将来オリマ様の敵となる勇者ならば、早めに潰しておくのも悪くないですわ!」

「――キュルスタイン、ケーラ。それを本気で言っているのなら怒るけど、撤回する気はある?」

「ッ!?」


 オリマがいつもと違う声色でポツリと言った言葉に、ケーラとメンメンマの顔がとても怯えているかのような表情になった。ライライムは顔がないからわからないけど、多分同じように動揺しているっぽい。ただキュルスタインだけは照れたように笑いながら頭を下げた。


「もちろん冗談ですとも。撤回させていただきますよ」

「え、あ、そ、そうですわ!?」

「おや、ケーラは本気で言っていると思ったのですが」

「そ、そそ、そんなことないですわ!」


 いや、本気で言っていたと思うわよ?凄いやる気に満ち溢れていたし。それにしても今のオリマ、ちょっと本物の魔王っぽかったわね。本物といえば本物なんだけど。


「なら必要はないと思うけど。確認を兼ねて状況を説明するよ。勇者は解析魔法、そして自分に可能な最適解を瞬時に導き出せる『女神の天啓』を保持している。そしてその傍には魔力量こそ少ないが、この世界に存在する全ての魔法を習得している女神イリュシュアがいる」


 丁寧な説明をされると、現在の勇者がどれほど厄介なのかよく分かるわね。それに天使や惨殺姫もいるのよね。てかイリュシュアの存在がずるくない?私なんて魔力を食べる腕輪でしかないのに、なんで勇者の仲間になっているのよ!?


「あ、あう……」

「ケーラ達に分かりやすく言うなら、全ての魔法を習得している僕と思ってもらえばいい。そこにドラゴンを仕留められる純然たる戦力の惨殺姫と、勇者の監視を命じられる程の役職を与えられた天使だ。力押しのケーラは論外として、キュルスタイン。君と勇者の相性は最悪のはずだ」

「そうですね。我々は限られた魔法しか使えないオリマ様にすら屈した身。生きて帰ることは可能でも、勝つことは難しいでしょう」


 え、オリマってこの二人に勝ってるの!?オリマってライライムやメンメンマ、はてはオーガよりも弱いはずよね!?こっちの力関係本当によく分からないんだけど!?


「仲間が安直な判断で自殺紛いの行動を取るのなら、僕は怒ってでも窘めなくてはならない。それが君達を束ねる者としての役割だからね」

「申し訳ありませんですわ、軽率な言葉だったと反省しますわ……」


 ケーラはオリマが自分に対して言っていることに観念したのだろう。深々と頭を下げて謝罪した。


「はっはっはっ、ケーラはまだまだ若いですからね」

「も、元はと言えば貴方が最初に言い出したのでしょう!?」

「でもそうよね、よくよく考えればキュルスタインの上位互換のようなものだし」

「基礎的な点で見ればそうですね。ですが私の強みは他にありますので」


 そりゃそうでしょうね。そうでもなければケーラに勝てるとは微塵も思えないわけだし。

 勇者個人の戦闘能力は低くても、その周囲の環境がとても厄介で安易に仕掛けるべきではないのは分かった。ただ勇者が力に目覚めていないことは事実なのよねー。


「ウルメシャスさんの言いたいことも分かりますけどね。こちらが万全でない状態で挑むことは自滅を招くことになるだけですよ」

「頭の中で思ってたことを分かられるのはちょっと怖いわよ?まあそれだけ当たり前のことを考えていたわけでもあるんだけど……」

「これは確証がないのですが、多分勇者は僕と似た状況のはずです」

「似た状況?」

「勇者の力が目覚めていない、その理由が勇者個人にあるといった感じですね。ですからイリュシュアはウルメシャスさんと同じように勇者の元へ降り立った。つまるところ下手に刺激すれば勇者個人が容易に強力な力を得るかもしれないということです」


 そっか。イリュシュアがどんな風に勇者に力を与えたかは分からないけど、今の勇者は力を与えたイリュシュア本人が傍にいるのに力に目覚めていない。それって原因が掴めていないのか、イリュシュアが残って解決しなきゃいけない問題があるってことよね。

 仮に勇者がオリマと似たように力を欲することで力に目覚める場合、キュルスタインやケーラは相手を追い詰めるのにうってつけの当て馬になるかもしれない。そりゃあ目覚める前に仕留められたらそれに越したことはないけど、イリュシュアや惨殺姫、天使まで傍にいるんだから確実性に欠ける。


「じゃあどうするの?遠い未来には敵になることは確実よ?」

「確実に勝てるまで戦力を増やすだけですよ。油断せず、慢心せず、最後まで徹底することができれば必ず勝てます」

「凄い自信ね。でも勇者がこっちに攻めてくる可能性もあるんじゃない?」


 勇者が力に目覚めていないとはいえ、こちらの魔王も似た状況であることはバレているんだし。ならと先んじてオリマを倒しにやってこないとも言い切れないわよね。


「ないと言い切れますよ」

「え、もしかして私の心って読まれてない!?」

「そんなことはありませんよ。ライライムから四魔将の単語を聞き出した以上、その影は付きまといます。賢い勇者なら僕のこともある程度想像できているに違いありません。『魔王は自分と似た境遇、そして周囲に優秀な仲間が多数いる』と」

「……そうよね。こっちも人材は優秀よね!」


 私が魔物怪人や四魔将に対して思った感想に偽りはない。オリマの周囲に存在するのは過去の魔王の誰と比べても見劣りのしない強者なのだ。


「ええ。二人ほど欠けていますが四魔将の皆は強いですから」

「やっぱり不安になってきたわ……。というかなんでまだ姿を見せないのよ」

「そろそろ三人目は顔を出してくると思うんですけどね。四人目は……」

「そうですね……彼は……」

「酷い事件でしたわね……」

「だから本当に何があったの!?」




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