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覚醒してください、勇者(魔王)。  作者: 安泰
覚醒しない勇者と魔王。
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1-12-1

 復活したライライムですが、完全に復活されては危険ですのでその体積が回復する少し前に壺の中へと移されました。そして念の為にとクルルクエルに生物としての動きを封じる結界を壺の周囲に張ってもらい、エルトの尋問が始まりました。


「さて、これからお前には色々と話してもらいたいんだが……」

「ふん、ライライムは仲間を売るようなスライムとは違うスラ!」

「そもそもスライム自体が仲間を売るようなことをしないと思うんだがな。あと聞きたいことの大半を既に口にしてもらっているから、正直何を聞いたものか」

「何を聞かれても、オリマ様に不利益なことは話さないスラよ!」


 こうして見ているとエルトが壺と会話しているようで、ちょっと面白いですね。いえいえ、これは魔王の配下からの情報を引き出すという大事なことなのですから、真面目に見守らなくては……!


「まあ自分を創り出した魔王様を裏切るような真似はできないよな」

「当然スラ!ライライムにとってオリマ様は生みの親でもあり、生きる意味そのものスラ!」

「なるほど。お前のような不思議なスライムを創っているのは魔王本人っと……」

「はっ!?凄まじい尋問スキルスラ!?」


 ただどうしてもシリアスな雰囲気とはかけ離れているのですよね……。私も口を開くとうっかり余計なことを喋ってしまいそうなので話すのを我慢しています。


「カマかけ一つで口を滑らすお前が凄まじいけどな。まあ直接聞かなくても状況だけで色々見えるものはある。例えばお前は創られた魔物の中では古参だよな。そんな奴を現場に単騎で送り出すってことは、お前のような特殊な魔物はそこまで数がいるわけじゃない」

「うん?確かにライライムは最初に創られた魔物怪人スラけど、どうしてそこまで分かるスラ?」

「そりゃあ試行錯誤を重ねた結果でお前みたいな口の軽い密偵しか創れないってことはないだろ」

「酷いスラっ!?」

「実力は問題なしでも、こういった場合に口をペラペラ開くような奴なら相方なり用意しておくだろうしな。こいつ一人で送り出すってことは密偵向きの魔物怪人?ってのははほとんどいないことになる」


 なるほど……。そして魔物怪人というのですね。なんと言いますか、ちょっと子供っぽいネーミングですね。


「ぐぬぬ……スラ」

「これまでの話も考慮して、オリマとかいう魔王が動き出したのは最近……というかまだ魔物怪人を創り始めて間もない時期なんだろうな。オーガの一件で魔物怪人の性能のテストをしている感じか」

「ですがエルト様。このスライム、純粋な戦闘力としてはかなり質が高いと思いますよ」

「魔王本人はそう考えてはいないと思うけどな。主戦力として見れるなら、迂闊に人間界に送り出すような真似はしないだろう」

「そうなのですか?」

「そりゃあ魔界すら支配していないのに、こっちに逃げてきたオーガの始末に主戦力を投入するような真似はしないだろ。人間界で目撃されて脅威と判断されれば備えられてしまうわけだからな」


 確かに……もしもこのライライムがオーガを殺すところを一般人が目撃すれば、きっと大きな騒ぎとなっていることでしょう。それこそ大きな国から名のある冒険者が姿を表す可能性だってあるわけですし……。


「ということはそのスライムは比較的雑魚ということなのでしょうか?」

「流石に雑魚扱いは傷つくスラ」

「まあ実際に強さはかなりのものだからな。それでいて主戦力でないってことはだ、後続の魔物怪人が遥かに強いのか、もしくは元々存在する魔王の部下が強いってところだろうな。可能性としては後者だ。少なくともこのライライムには多少なりとも自負がある。後続の魔物怪人が軒並みこいつ以上ならそんな自負は湧いてこないだろうからな」

「ライライムが喋らなくてもどんどん情報が明るみになってる気がするスラ……」


 ある意味では貴方が喋っているからこそ分かる情報なのですが……言わないでおきましょう。


「なに、心配するな。その魔王の主力となる連中の情報とか、知りたいことは色々とあるんだ。喋ることはたぁくさんあるぞ」

「しゃ、喋らないスラよ!?どんな責め苦に遭おうともこのライライム、四魔将のことは決して喋らないスラ!」

「四魔将っていうのか。続けてくれ」

「あああっ!?ど、どうしてスラ!?どうしてこんなにライライムは口が軽くなっているスラ!?」


 私も似たような感じでしたので、見ていて可哀想になりますね。ですが確かにここまでうっかりさんというのも不自然ですよね。


「ここまで口が軽いと、逆に怪しくなってきますね」

「とは言っても今の段階じゃ嘘らしい嘘もないんだよな。やっぱりイリシュがポンコツになってしまったのと同じ原因があるんだろうな」

「今は大丈夫ですよ!?……多分」

「イリシュ様のことは置いておいて、エルト様的に何か思うところはあるのですか?」

「置いておかれました!?」


 クルルクエルの質問にエルトは暫く考える仕草を取り、私の方を向いて尋ねてきました。


「イリシュ、女神ウルメシャスってどんな奴なんだ?」

「ウルメシャスですか?ええと……私の妹にあたる女神で少し口が悪いですね。あ、でも静かにしていればとても可愛い子なのですよ。って、こんな情報はいりませんよね……」

「喧嘩とかはよくしてたのか?」

「それはもう……姉とはそこまででしたが、私とは特に意見が合わなくて……。人間界と魔界を分けて創った理由も地上に住む者達の成長について意見が分かれたことが原因だったりします……」

「そのへんはおとぎ話でも有名だよな。他の世界の神にどちらが優れているのか――ってくだりもそうなのか?」

「はい……。あの子すぐにムキになってしまいますので……『魔族の方が優れているんだからー!』と、魔王を生み出して人間界に宣戦布告を行ったのです」


 それに対抗するために私は勇者を生み出し、現在まで続く熾烈な戦いを続けていたはずなのですが……。


「そのウルメシャスと喧嘩をする時なんだが、お前ら知能下がってたりしてないか?」

「どういう意味です!?」

「普段よりもずっと短絡的に罵り合うとか、そんな感じだ」

「な、ないですよ?」

「イリシュ様とウルメシャス様の喧嘩を覗いたことがある天使長が言っていましたね。真の神々の争いとはまるで幼子のわめきあいだと」

「クルルクエル!?」


 天使長ったらなんてことを天使に広めているのですか!?確かにウルメシャスと言い争う時はついつい短絡的な感じになってしまうこともありますけども!


「それだな。ライライムは魔王が創り出した存在だ。その魔王は女神ウルメシャスの力の大半を注がれているんだろ?つまり、このライライムにもウルメシャスの因子が含まれているんじゃないかと思う」

「……え?」

「要するにイリシュ、お前はこのライライムの中にあるウルメシャスの因子を感じることで、ウルメシャスを前にしているような錯覚を受けてしまうわけだ。そしてライライムは自分の中に流れるウルメシャスの因子が女神イリュシュアに反応して、こんなざまになっていると考えられる」


 う……言われてみれば、このライライムの魔力を感じているとなんだかあの子と言い争っている時と似た感じになっているのかもしれません。


「なるほど。でもそれ、ライライムからすればいい迷惑ですよね」

「本当スラ……ウルメシャス様の本能がライライムに乗り移って自爆させられるとか……あんまりだスラ……」

「……あの、エルト。そうなると私の力を全て注ぎ込んでいる貴方にも私の因子は含まれているのではないでしょうか?」

「ああ、気持ち程度だが俺も影響を受けているぞ。普通魔王の配下ならもっと真剣に対応すべきなんだが、割と雑にやりたくなっている」

「その程度!?」

「なんだかずるいスラッ!?」


 言われてみれば容赦のなさは変わらないですが、どこかエルトにやる気が感じられません。


「要約すると真面目な奴には効き難い、互いに特攻を持つ属性のようなものだろうな」

「私は真面目ですよっ!?」

「だがまあせっかくなので利用はさせてもらう。このまま色々と聞き出させてもらおう。ただしイリシュは余計なことを喋らないように。クルルクエル、そいつの口にさるぐつわでも噛ませとけ」

「ああ、名案ですね」

「少しも名案じゃないですよ!?んぐぐっ!?」


 この子、自分の主人である女神にさるぐつわをすることに少しも躊躇ないですよ!?あとなんでついでのように椅子に縛り付けられているのですか!?


「なんで椅子に縛り付けられているのですかって顔してるな。そりゃあさるぐつわをほどかれると困るからな」

「んーっ!(訳:流石にどうかと思いますよこれはっ!)」

「申し訳ありませんイリシュ様。これも穏便に情報収集をする為です。数時間ほど我慢していてください」

「んーっ!?(訳:数時間もこのままなんですかっ!?)」


 ああ、ダメです。この二人尋問することにしか意識が向いていません。うう、どうしてこんなことに……。


「ぐぬぬ……このままでは……はっ、そうだスラ!ライライムも発声機能を落とせばいいんだスラ!」

「あ、このスライム知恵を付けてきましたよ」

「さるぐつわを噛まされている同類を見て学んだか」

「んー!?(訳:私は女神なのですがっ!?)」


 ですが声を出さなければ余計なことを喋らずに済むというのは当然の理。ライライムはただの液体になったかのようにうんともすんとも話さなくなりました。


「反応なくなりましたね」

「まあこの反応が本来あって然るべき姿なんだよな」

「そうですね。ですがこれでは情報収集ができないのでは?」

「俺を誰だと思っている。何でも屋だぞ?口を割らない奴から情報を聞き出す仕事だって業務の内だ」

「んーっ!?(訳:そんなことをする何でも屋いませんよ!?)」


 エルトは小瓶をいくつも取り出して、ライライムの入れられている壺の前へと並べていきます。


「それは?」

「まあ色々な液体だな。スライムはコアから発生した体液で食料を包み込んで捕食する魔物だ。つまりだな、スライムの体内に物質を入れるってことは無理やり口を開いて物を流しこむってことになるんだ」


 そう言いながらエルトは瓶の一つを開け……う、凄く臭います……。中から黒くべっとりとした液体を小さじ一杯分ほど壺の中へと流し込みました。そして暫くすると、結界で動きを封じているはずの壺が小刻みに震え出しました。


「ちなみに今は何を入れたのですか?」

「ゴブリンの臓物を発酵させてすり潰したものだ。普通は獣の縄張りに撒いて、この悪臭で追い払う為に使う。どんな味がするかは知らんが、まず食べ物と呼べるものじゃないからな」

「新鮮でもゴブリンの臓物は臭いますからね」

「さてライライム。俺は一定間隔でこの瓶の中身をお前に食わせていく。喋りたくなったらいつでも喋っていいからな。ああ、でもできればいくつか感想も知りたいから五つ目の瓶までは空けて貰いたいな」

「んーっ!?(訳:やることが勇者のそれではありませんよっ!?)」






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