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覚醒してください、勇者(魔王)。  作者: 安泰
覚醒しない勇者と魔王。
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1-11-2

 今日のオリマは仕事を休み、キュルスタインとケーラを連れてある公共の建物へと向かうことになった。私はというとオリマ特性の魔力探知阻害機能つきのカバーを装着され、オリマの胸元に掛けられている。カバーには少しだけ穴が空いており、隙間から外を覗けるようにと工夫が凝らされている。


「ウルメシャスさんのことを隠すのは気が引けますけど、どれだけの魔族が信じてくれるか分かりませんからね」

「そうね。私だったら信じないもの。でもこのカバーは悪くないわね」


 柔らかい素材で心地良いし、オリマの胸元に位置していても心音がそこまで届いてこない。意識すれば……まあ、うん。


「デザインも比較的男物に近い印象になりましたな。これならオリマ様自身が奇異の目で見られることもないでしょう」

「私としては複雑な気持ちだけどね」


 でも魔王が女物の、それもサキュバスが装備するような装飾品を装備しているのは私としてもどうかと思うし。


「オリマ様の容姿ならばもっとキラキラしたものでも似合いますわ!それこそ数多の雌を誘惑してしまえるような!」

「そういうのが好きじゃないから地味な格好をしているんだけどね」

「ところでオリマ。この三人でお出かけってのは聞いたけど、何しに行くの?」

「寄り合いです。この周囲に住む魔族達は定期的に情報交換を行い、問題が起きないように協力しあっていますので」


 オリマが住んでいる場所は多くの種類の魔族が集まる集落で、王政などは行われてはいないけどそれなりに有力な魔族達が争わずに協力して治安を守っている。この寄り合いにはそういった有力者や、治安の維持に協力的な魔族が顔を出すとのこと。オリマとキュルスタインは後者で、ケーラは前者ってことね。


「あれ、でもケーラってこの周囲に住んでいるわけじゃないのよね?」

「ダグラディアス卿の領土は少し離れた山にありますね。ですが有力な魔族が友好的に接してきてくれる以上、邪険に扱うわけにはいきませんからね」

「傍目から見れば遠方から凄い有力者が力添えしてくれるって形なのね」

「これも全てはオリマ様の為ですわ!」


 魔王の幹部にもなった実績のある有力者の一族が、よもや薬屋の息子に惚れ込んでいるとは普通考えないわよね。まあその男が魔王だってことの方がもっと考えないと思うけど。


「でもケーラ、寄り合いではきちんとダグラディアス家の代表として振る舞うんだよ?」

「承知致しましてのことですわ!」

「なんか変な言い方ね……でもわざわざ他人のフリをするの?」

「寄り合いに参加する魔族の中で最も発言力があるのがダグラディアス家ですからね。そのダグラディアス家に贔屓にされているような印象を受けると、今後協力関係を取り持つ上で手間が増えますので」


 そっか、実際にはダグラディアス家が純粋にオリマに協力しているって感じなんだけど、傍目から見ればオリマがダグラディアス家に取り入って威を借りているって風に見えちゃうのね。

 そんな理由も踏まえ、話し合いが行われる部屋に先にオリマとキュルスタインが向かい、ケーラは少し遅れて入ることになった。部屋の中は長机でぐるりと大きな円を作ってあり、椅子の上には様々な魔族が座っている。どうやら私達はほぼ最後のようね。


「オリマ=ドラクロアル、ただ今到着しました。遅れて申し訳ありません」

「キュルスタイン=ディアエル、同じく。早仕舞いはしたのですが、少々手間取ってしまいました」


 二人は周囲に会釈しながら空いている席へと向かう。二人共余裕を持って出発していたように見えたのに、遅刻してたのね。


「また遅刻か、ドラクロアル!話し合いが始まる十分前には集合するようにと言ったはずだぞ!」


 オリマに向かって怒鳴り声を上げるリザードマン。なんだか随分と偉そう。よく見ればこの場に用意されている椅子も三種類あって、リザードマンは二番目に高そうな椅子に座っているし。


「まあまあリドラードさん、そう目くじらを立てんでもよかでしょ?話し合いの前には間に合っとるわけですし」


 それを宥めるケンタウロス。どうやって椅子に座っているのかしらって、座布団の上に腰掛けているのね。四種類に訂正だわ。


「タクロウス、俺はこの話し合いを取りまとめる立場としてだな!」

「へいへい。あっしにまでそうカリカリせんでください」

「(ねぇ、オリマ。あのリザードマンって偉いの?)」

「(まあそうですね。彼はリドラード、この集落で最も勢力の大きい一族の代表です)」


 ふぅん、それで取りまとめる立場ねぇ?協力し合う関係とか言いながら力を誇示するってのはなんだか滑稽よね。しかもオリマと同じくらいに遅刻したキュルスタインにはあんまり文句言わないし、なんだか嫌い。

 オリマとキュルスタインが着席してから間もなくしてケーラが姿を現した。ケーラの登場と同時に周囲の魔族達の緊張が一斉に増したのを感じた。


「ケークシュトファフラ=ダグラディアス、只今。あら、皆様もうお揃いで……遅れてしまったようですわね?」

「い、いえ、これから話し合いを始めさせていただきますので……!ささ、こちらに!」


 リドラードは物凄く畏まった様子でケーラに椅子を勧める。ケーラの椅子が最も高価で、何故か一人だけ左右に魔族の席がない。椅子が高価じゃなければイジメかなって思いそうよね。ひそひそ声で『遅れていながら何という堂々とした……流石はダグラディアス家の姫君』とか、『何という威圧感……これは先程まで何者かを粛清していたに違いない……』とか聞こえる。さっきまでオリマ相手に頬を緩ませてたんだけどね、その子。


「えーおほん!それではこれより定例会を始める。それでは最初の議題だが、最近オーガの一族がこの集落へと勢力を伸ばし一部の者が被害に遭っているとのことだ」

「リドラードさん、それでしたらもう沈静化したようでっせ?なぁ、ドラクロアルさん?」


 タクロウスと言う名のケンタウロスがこちらを見てくる。昼間から乗り込んだとは言え、よく情報を掴んでいるわね。


「はい。その件でしたら既に解決させていただきました。オーガキングのオグガと交渉し、不当な暴力手段を自粛してもらい今後はこの集落の発展に協力してもらえるようになっています」

「あの物騒なオーガ、それもオーガキング相手に交渉とは!ドラクロアルさんはやり手ですなぁ!」

「……ふん。元々話が通じる相手だったということだろ」


 いや、これでもかってくらいに脳筋だったし。これでもかってくらいに力技で交渉したし。


「今は元々住み手のなかった土地で、この集落に馴染むための常識を学ばせています。占拠された土地とかは既に返却されているとは思いますが、懸念事項がある方はおっしゃってくださいね」

「ふむふむ。オーガの腕力は怖い反面、協力者としては非常にありがたいこと。走ることなら自信はあっても、あの腕力には魅力を感じるってもんです」

「ええ。見事な手並みですわ、オ――ドラクロアル」


 あのケーラ、ちょっと素が出ようとしてたわね。でも『あのダグラディアスの姫君が褒めただと……!?』とか『獲物を奪われてお怒りになられると思ったのだが……』と反応は相変わらずだけど。

 それはそうとオリマがオーガとの協力関係を結んだことには他の魔族達も感心しているみたい。オーガの被害って結構酷かったみたいね。


「ふん……ドラクロアル。貴様がオーガの面倒を見るというのであればこれまでオーガ達によって発生した損失の責任を貴様が取るということだな?」

「それはおいおいと労働力という形でこの集落に貢献させていく予定です」

「被害を被った者もいるのだぞ!そんなことで済むと思っているのか!?」

「お黙りなさいリドラード」

「はひっ!?」


 ケーラの一声でオリマに対して強い剣幕だったリドラードが、これでもかってくらいに情けない顔になる。周囲の声も『なんと恐ろしい……』、『少し漏れた……』と聞こえ――って汚いわね!?


「……オ、オーガ達がこの集落に住む者達に悪さをしたことも事実。ドラクロアル、貴方はオーガ達に労働力として贖罪させるだけで足りていると?」


 ケーラが難しそうなことを喋っているけど、あれ手元の紙を読んでいるわよね。周囲の声は『おお、やはりダグラディアス家もお怒りになっていたのか……』、『あれの紙は一体……きっと我らでは計り知れない仕事を抱えているに違いない。片手間とはいえ、我らの為に貴重な時間を……』と。凄く良いように捉えられているわね。


「見せしめとして主に暴れていた者達の大半を人間界の方へと追放させました。それで納得していただけないようでしたら、ダグラディアス家の方で処理してもらっても構いません」

「そうですか。では後日そのオーガは全て私自ら処理しておきましょう」


 もうライライムを処理に向かわせているのに、白々しい芝居ね。でも帰ってきていないのよね、ライライム。無事だといいんだけど。やっぱり心配なのよね、魔力の補給源としてラムネ味は貴重だし。


「ダ、ダグラディアス家の方々にそこまでしていただかなくても……」

「この土地は私の先祖の友であった魔族が流れ、発展させた集落ですわ。ドラゴン、ドラゴニュートは縁を重んじる一族、そこに傷を付けられた以上は貴方達だけの問題ではありませんわ」


 そういう設定にしているのね。それにしてもあのカンペ、どこまで書かれているのかしら?


「そ、そうですか……。ではオーガの件はこの辺で。次の議題だがそろそろ新たな魔王が世に現れ、魔界を統べようと活動を始める時期だ。そこで我々の集落は今後どのように立ち回るかを相談したい」


 ここにいるんだけどね、新しい魔王。勢力としても申し分ないし、いっそのこと名乗り出て活動しても良いと思うんだけど……本人はまだ表舞台に出たくないみたいなのよね。


「そうなぁ……あっしらもまるきり弱いって程じゃないにせよ、いずれかの勢力に属しておいた方が無難だと思いますかねぇ。可能ならダグラディアス家の傘下を熱望したいとこですが……」

「ダグラディアス家も来る日になれば取るべき行動を取りますわ。ですがまだその時ではありませんの。領土の拡大はもう暫く先の話となりますわね」


 ダグラディアス家が有力魔族として活動をするにしても、その領土は本丸を中心に広がることになる。そうなるとこの集落を取り込むまでに結構な時間が掛かることになるらしい。そんな遠方から毎日のように遊びに来るケーラもケーラよね。


「自分の尻は自分で拭けってことですかね。まあ十分に良くして頂いていますし、このままの関係を維持していただけるだけであっしらとしては満足です」

「だがいずれかの勢力の傘下に入るのであれば、その見極めを急がねばならない。敗れるだけの勢力に組みしても、見極めるのが遅れても、我々に待っているのは不遇な扱いを受ける余生となる」

「では少しよろしいでしょうか?」


 挙手をしたのはキュルスタイン、ってあんたもカンペ持ってない!?あんたならある程度の内容くらい暗記できるでしょ!?


「ええと……誰だ?」

「挨拶の際にも申しましたが、キュルスタイン=ディアエルでございます」

「ほう、あのキュルスタインか」


 あら、意外と名前が知られているのねこの悪魔。周囲の声も『あれが……男女問わずお昼時に通いたいカフェランキングトップの座を邁進している執事カフェのオーナー……!』、『女だろうと男だろうと、来店してしまえばまるで魔王の幹部にでもなったかのように尽くされるというあの……!』と……ってお店が人気なの!?ちょっと普通に行ってみたいわね。


「我々の集落には新たにオーガキングを含めたオーガの一族が加わりました。ならば周囲の有力魔族もそう気軽に攻め入るような真似はしてこないでしょう」

「つまり中立を維持すべきだと?しかしオーガの軍勢が加わったとしても、我々に待っているのは力をつけた勢力により蹂躙される未来だけだ」

「それこそダグラディアス家が領土の拡張を始めるまで待てば十分ではありませんか?ダグラディアス家が勢力の主軸となるにせよならないにせよ、その影響力は健在のままでしょうし」


 まあ魔界最強のドラゴンの一族の傘下なら、悪い立場になることはないわね。でもドラゴンって群れるのが下手だから勢力を自分から伸ばす行為ってほとんどしないのよね。


「それはそうですがねい……いくらオーガを迎え入れたからって、あっしらの戦力じゃそれまで持ちこたえられるかどうか……」

「それは一理ありますね。では……オーガとの連絡の取れるオ――ドラクロアルさん。何か良いアイディアはありますか?」


 こいつもオリマ様って言いかけたわね。でもこれはきっと予定されていた段取り、オリマはその答えを用意しているに違いないわ。


「ではオーガを主軸とした自警団を組織しましょう。ある程度の魔族を集め、鍛錬し、より明確に戦える力を身につければ、有力者の是非を見極めるまでの間生き残ることもできるでしょう」


 なるほど、そういうことね。オリマは既に結構な数のオーガ達を従えている。それを隠れ蓑に魔物怪人を含めた勢力を生み出して、実戦に備えるってわけね。小さな戦い程度ならオーガの軍勢が強いからで誤魔化しが効くし、魔物怪人の存在が知れ渡る危険性もぐっと減るわ。


「我々で軍を編制するというのか!?寝言は寝てから言え!」

「お黙りなさいリドラード。その口引き千切りますわよ?」

「はひぃっ!?」


 オリマの発言に熱を持ち始めた魔族達をケーラの一言で沈静化させる。話を運ぶのが上手いわねー。リドラードだけじゃなく、他の魔族達も大人しくなったわね。『何という眼光、魔物ならば死んでいる』、『普通に漏れたぜ……』とすっかり……ってだから大丈夫なの!?


「ええと……あ、このページですわね」


 そしてそこ!口に出てるわよ!演技力残念ってレベルじゃないわよ!?


「こほん。ドラクロアル、自警団を編制すると言いましたがそれは簡単なことではありませんわ。確かにオーガは腕力に優れ、比較的分かりやすい戦力なのは理解できますわ。ですが魔王の配下の地位を巡る争いは、力だけの軍勢で生き残れるほど甘くはありませんわ」


 まあそうよね。実際にキュルスタイン一人でオーガの一族は壊滅したわけだし。その辺の意識をしっかり持っていないといざって時に足元を掬われちゃうわ。


「そうだそうだ!しかも貴様のような奴に懐柔されるようなオーガ程度でどうにかなるはずもない!」

「お黙りなさいリドラード。殺しますわよ?」

「はひいいぃっ!?」


 なかなかの不条理よね、この流れ。でもこの流れでよくオリマに食いつけるわよね。その辺はちょっと評価高いわよ。他の魔族なんてケーラの殺意一つで縮み上がっているし。ひそひそ声も『あの方はやるといったらやる。それこそ一息で我々を殺し尽くせるだろう……』、『大きな方も……』と……ちょっとぉ!?


「生半可な抵抗は集落に住む魔族全員にとって、不利益を生みだす行為となりますわ。集落の存続を見届ける立場として、安易な賛同はできませんわよ?」

「ではこの集落からはオーガだけを、他所から都合の良さそうな魔族や魔物を引き入れて編制してみましょう。オーガは傭兵として雇ったということにしておけば、いざ敗れた時も投降しやすいでしょうし」

「それはこの集落の魔族の力を借りずに戦力を整えてみせると?」

「もちろん協力してくださる方がいれば心強いですが、無理強いしてしまうわけにもいきませんからね。他の皆さんはその間、周囲の勢力の情報を得ることに専念してもらえればと」

「……良いですわ。では思うようにやってみせなさい。ただし、ドラクロアルに協力したい者は私に了承を取ってからということにしましょう。抗う意志を見せる者はこちらで管理しておきますわ。もしもこの集落がいずれかの勢力に飲まれることになったとしても、そのときは私がドラクロアルに協力した者以外は抵抗する意思がなかったと、口添えして差し上げますわ」


 物凄く分かりやすい形になったわね。自警団を編制するにあたって、介入したり協力したりする為にはケーラに話を通さなきゃならない。でもそうすると負けた時にダグラディアス家の口添えがなくなるから、並大抵の魔族は協力しようとも思わないはず。


「僕としてもそれが良いと思います。戦力を高めつつ、保身にも走れる。皆さんはじっくりと考えていてくださいね」


 こうして話し合いは終わり、オリマは堂々と自分の集落で戦力を編制できるようになった。普通なら協力者がいないことはデメリットなんだけど、オリマからすれば魔物怪人の存在はなるべく明るみに出したくないはず……よね?ライライムとか普通に畑仕事してたけど。

 その帰り道、キュルスタインと一緒に帰宅しているとケーラが合流してきた。


「オリマ様!私、頑張りましたわ!」

「お疲れ様ケーラ。ほとんど噛まずに台本を読めたね」

「あぁ……お褒めの言葉ありがとうございますですわ!」


 ケーラはとても嬉しそうに悶えている。先程の威厳のあった雰囲気はどこに行ったのやら、すっかりと頭が悪そうな感じに戻っている。


「キュルスタインも、わざわざケーラと同じミスを演出する必要はなかったけどね」

「おや、故意だとバレていましたか」

「あれワザとだったの?」

「キュルスタインは執事カフェの経営者ですよ?驚くくらい長い言葉を噛まずに言えるようなキュルスタインが、アレくらいの台本で噛むはずがないじゃないですか」


 そ、そうなのね。私未だにこの悪魔のスペックを計りかねてるから、判断が難しいのよね。でもほとんどがオリマの台本通りにことが進んだのよね……凄いあっさりと。


「おや、オリマ様、あれはリドラードでは?」


 キュルスタインの示す方を見ると先程のリザードマン、リドラードが近づいてきていた。うわ、ケーラが威厳のある顔に戻っているわね。こういうところはなかなか演技力あるのかしら?


「おい、ドラクロアル!貴様こんなところでダグラディアス家の姫君と何の話をしている!?」

「そこのキュルスタインさんが自警団の編制に協力してくれるとのことでしたので、ケークシュトファフラさんに紹介してもらっていたところです」

「……そうか。物好きな奴もいたものだな」


 オリマったら息を吐くように嘘をついたわね。随分とイチャモンをつけてくるけど、なんなのかしらこのリザードマン。あ、ひょっとしてケーラのことかしら?


「話はそれだけですか?」

「……あまり調子に乗らないことだ。お前のような混血魔族がダグラディアス家に取り入ろうたって、上手くいくはずがないからな!」


 やっぱりそうなのね。恋心……とはちょっと違うかしら。リザードマンからすればドラゴニュートは上位種族、取り入りたいのはリドラードの方に違いない。だけどケーラがオリマの方ばかり評価しているような素振りだから面白くないのね。


「肝に命じておきますよ」

「ふん、口では何とでも言えるがな!」

「……リドラード、さっきから聞いていれば随分な物言いですわね?」

「ひぃっ!?」


 まあ怒るわよね。そりゃあリドラードからすればオリマはケーラに取り入ろうとしているように見えるかもだけど、実際はケーラがオリマの下についているわけだし。分かりやすい怒気と殺気が入り混じった魔力が周囲に溢れ、その矛先となっているリドラードは歯をガチガチと鳴らしながら震えている。


「ダグラディアス家の娘である私が、取り入られようとしている?その発言、ダグラディアス家の家訓にも泥を塗ることと同義だと自覚できていまして!?」

「そ、そんなつもりは……お、お許し下さい!」


 リドラードは深々と土下座した後、逃げるように去っていった。私はケーラのオリマに対する想いを知ってるから当然だと思うけど、リドラードからすればどうしてオリマばかりが贔屓されているのかわからないのよね。それでもオリマに噛みつけるだけ勇気はあると思うわ。


「まったく、失礼な方ですわ!オリマ様が私に取り入ろうとしているだなんて!」

「貴方達の関係を知らなければそう見えても不思議じゃないわよ。でも悪い気はしないんじゃないの?」

「そんなことありませんわ!ダグラディアス家の家訓は『尽くしてこその幸せ、貢いでこその幸せ』ですわ!」

「あ、本当に家訓の話だったんだ……ってどういう家訓なのよ!?」

「そのままの意味ですわよ?」


 あれ、凄く不思議そうな顔をされてるんだけど、私の方がおかしいの?でもどう考えてもおかしい家訓よね?


「ウルメシャスさん、ドラゴンは財産を貯め込む習性があるじゃないですか」

「え、ええ。あるわね」

「その理由ってほとんどが想った相手へ貢ぐ為なんですよ」

「そうなの!?」

「そうですわよ。私達ドラゴンは力も強く、想いも強いのですわ。ですからどれだけ自分が相手を想っているのか、それを具体的に伝えられる財を集めることに余念がないのですわ!」


 そりゃあドラゴンがありったけの力で相手を抱きしめたら死んじゃうけども。そんな理由だったのね……。


「てっきり財宝の中で眠るのが好きだとか、そんな生態だと思っていたのに……」

「実際に自分の集めた財宝の中で眠るドラゴンは多いですよ。ただその時は『これだけの財を捧げることができれば、私の想い人はどれだけ喜んでくれるだろう』と妄想しながら寝ているそうです」

「自分自信を捧げるのは当たり前。それでも想いを伝えるには足りないと、未来の伴侶の為に財宝を貯め込むのですわ!」


 ドラゴンの血筋って思った以上に純粋なのね。愛が重いとも言うけど……物量的に。


「オリマ様がケーラを娶れば、それだけで資金面は全てクリアできるでしょうな」

「そうですわよ!私はいつでも受け入れられますわ!」

「気持ちは嬉しいんだけどね。でも僕は金目的で誰かを妻に迎えるとか、そういう真似はしたくないんだ」

「割と真面目なのね。なら財宝とか見返りを一切受け取らなきゃ良いんじゃない?」

「うーん。純粋な好意だけなら応えてあげたくもないんですが……」

「……わ、私はそれでも構いませんわ!」

「多分持っているけど与えられないって、ドラゴンからすれば物凄くストレスになると思いますよ。それは今のケーラの表情を見ればよく分かるかと」


 確かに今のケーラ、凄く複雑そうな顔をしているわね。ドラゴンってあるだけを注ぎ込めないとダメってことなのね。


「まあケーラとの関係については、僕が魔界を統べたあとでしょうかね。魔界の全てを手に入れれば、ケーラの贈り物も余すことなく受け取れますし」

「先は長そうね」

「くすん……でも俄然やる気が湧いてきますわ!つまり私はオリマ様にこの魔界を差し上げられるように尽力すれば良いということですわ!」


 あー、魔王に対してドラゴンが物凄く忠誠を誓っていた理由ってこれなのかしら。誰にも真似できない『世界』という贈り物ができるのなら、ドラゴンとしてはこれ以上にない想いを伝える手段になるわけだし。


「期待しているよ、ケーラ。でも無理はダメだよ?世界を贈られても、贈ってくれた君がいないんじゃ僕が君にお返しできなくなるからね」

「――ッ!はい!ケーラは例え死んでも死にませんですわ!」

「死んだら死ぬわよ」


 それにしてもオリマはケーラの扱いが上手いわね。恥ずかしくなるような台詞もサラっと言えるし、流石はサキュバスの血を引いているというか。


「さてと、それじゃあ帰って新しい魔物怪人の準備に取り掛かろう!」

「お供致しますわ!」

「いや、君はもう遅いから帰らないと。家遠いんだし」

「ぐすん……」


 遠距離恋愛(?)って大変よね。いっそ引っ越してくればいいのに。





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