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覚醒してください、勇者(魔王)。  作者: 安泰
覚醒しない勇者と魔王。
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1-10-2

「ん、ライライムから借りた靴の紐が切れた。不吉だなぁ」

「なんであのスライムが靴を持っているのよ」


 なんか今日は靴が違うなとは思ったけども。そう言えばライライムが逃げたオーガ達を追って人間界へ向かってからそれなりの日数が経過しているわよね。そろそろ帰ってきてもおかしくないと思うのだけれど。


「もしかするとライライムに何かあったのかもしれませんね」

「靴紐だけでどうこう考えるのはどうかと思うけど、確かに帰りは遅いわよね」

「オリマ様、ライライムの愛用していたカップが割れてしまいました。これは不吉な兆しではないでしょうか」

「なんでライライムの愛用のカップを貴方が使用しているのよ、キュルスタイン」


 そもそもスライムはカップを使って飲み物を摂取するの?あいつ口ないんだけど。なんて思っているとメンメンマまで飛び込んできた。


「オ、オリマ様!ライライム先輩から借りた歯ブラシを使っていたら突然根本から折れてしまいましたメン!」

「それは借りちゃダメじゃない!?」

「あ、いえ、ライライム先輩に支給された物だったのですが、ライライム先輩には歯がないのでと……」

「ああ、そういう……紛らわしいじゃないの!」

「も、もうしわけありまメン!?」


 それにしても三つ続けて不吉な予兆が現れるっていうのはただごとじゃないわよね。ライライムのことだから遅れを取るとは思わないのだけれど……。そして続けて入ってきたのはケーラ。あまり慌てている様子はないわね。


「オリマ様!この四魔将ケーラ、遊びに来ましたわ!」

「遊びに来てるんじゃないわよ!?」

「非番に遊びに来てはダメですの!?」

「非番ってあるの!?」

「ありますよ。キュルスタインだって執事カフェの経営とかありますし」


 あるんだ……。そもそもキュルスタインの場合、こっちが副業なんじゃないの?魔王の幹部が副業ってのもアレだけど、本格的に動いているってわけじゃないし。


「どういう雇用形態なのか気になるわね……」

「月単位でシフトを組んでいますよ」

「魔王の幹部ってアルバイト感覚だったの!?」

「いえ、お給料は今のところ出せていませんので。寄り合いのような形でしょうか」


 魔王軍が寄り合いのようなものって……いや質は凄いんだけどね?オーガの参入でもう少しマシにはなったとは思うけれど、もうちょっとこう魔王軍らしい感じにしていきたいわね。


「ちなみに費用などはオリマ様と四魔将がそれぞれ負担しております。設備代などを考えるとオリマ様が最も出費なさっていますね」

「あの地下室を考えればそうよね……。ん?ケーラって普段何をして働いているの?」

「働いておりませんわよ?」

「負担してるって話じゃないの!?」

「費用なら出しておりますわよ?」

「働いてないのに!?」

「ケーラはその父上であられるダグラディアス卿の財産から資金を出費しておられるのですよ」


 うわぁ、親の脛をかじって魔王軍の維持費を捻出しているとか初めて聞いたわ。


「お父様は私の為ならば全ての財産を使っても良いとおっしゃっていますので、私も遠慮なく使わせていただいておりますわ!」

「オリマ、いいのこれ?」

「パトロンがいると思えば悪くはないですよ。流石に額が増えすぎると四魔将の立場的なバランスが崩れますので、他の三人と同じ額で抑えてもらっています」

「なんだか悲しい話ね……」


 ただ今の話はなかなか悪い話でもないのよね。ダグラディアス卿というかドラゴンの一族は結構財産を貯め込む習性があり、ドラゴンすなわち金の山といっても過言じゃない。成り上がり系の魔王にとって金策は切っても切れない問題になる。オリマにとってダグラディアス家は最終的に頼れる便利な資金源となるかもしれない。


「四魔将内での優劣を決めるのは当人に対する評価ですからね。ケーラに親の資金力しかなければ考え方も変えますが、ケーラはきちんと四魔将としての力もありますから」

「えっへん、ですわ!」

「でも最弱扱いなのよね」

「ぐすん……。ところで皆様揃って何かありましたの?」

「そうだった、すっかり話題が変わっていたわね……。どうもライライムに何かあったんじゃないかって話をしていたのよ」


 てっきりケーラもライライム縁の品が壊れたとかで天丼してくると思ったんだけど、そんなことはなかったわね。


「ライライム?それでしたら人間界で魔力が消失したのを観測しておりますわよ?」

「それを先に言いなさいよ!?」

「ひんっ!?」


 このドラゴニュート、天丼どころかオチを付けてきたわね!?遊びに来るよりも報告することがあるじゃないの!


「あれ、でも人間界にいるはずのライライムの魔力を観測していたって、そんなことできるの?」

「格の高いドラゴンに備わる索敵力ですね。一度覚えた魔力の波長ならとても広い範囲で感知することができるんですよ」


 あーそう言えば過去魔王が死んだ時、ドラゴンの一族って凄く早く撤退していたのよね。契約のようなもので繋がっていると思っていたんだけど、直接感知していたのね。


「オリマ様が何処にいようとも、このケーラは必ず見つけ出してみせますわ!」

「色んな意味で怖い能力ね……。ってそんなことより、ライライムは死んだの!?」

「さぁ?観測できていた魔力が突如消えましたので。でも死んだ時とは感じが違いましたわ」

「ふむ。ドラゴンは知人の死にはとても敏感なんだけど、ケーラがそういう反応を示しているということは一応生きているのかな。でもライライムはドラゴンの察知能力から隠れられるほど高度な魔力遮断の手段を持っているわけじゃない」

「もしかしてオーガに返り討ち……はないわよね」


 ライライムならオーガキングでさえ勝てるだろうし、オーガが二十程度揃ったところで負ける要素はまずないわよね。


「ないですね。考えられるのは人間界で接触した何者かと交戦し、敗北したといったところでしょうか」


 この辺は人間界の中心からずいぶんと離れている。オーガ達が人間界の方へ真っ直ぐ逃げたとして、たどり着くのは辺境の土地のはずよね。そんなところにライライムを倒せる強者がいるっていうの?


「そうなるとオリマ様、『惨殺姫』でしょうかね?」

「ああ、オーガキングがそんな話をしていたわね」


 話によればドラゴンすら殺しているそうだし、上限が分からない相手ならライライムが敗れても不思議じゃないかも?


「ちょっと違う気がしますね。『惨殺姫』に接触した強い魔物達は皆殺されています。ケーラの表現の仕方だとライライムは魔力を失って敗北したと考えられます。『惨殺姫』の話ではそういった搦め手を使ったという情報はありません。恐らくは魔法を使用して戦う相手でしょうね」


 直接見たわけでもないし、頭の弱そうなドラゴニュートのふんわりとした説明だけでよくもまあこれだけ考えが進むわね。


「ライライムを倒せる程の人間が近くにいるってこと?……もしかして勇者!?」

「ケーラ、近くで特殊な魔力を感じたりはしなかったのかな?」

「あまり意識してはおりませんでしたので……。ただライライムより強い魔力を持つ者は傍にいなかったと思いますわ」

「あ、そんなことまで分かるのね」


 勇者なら物凄い魔力を持ってるだろうし、違うようね。毎回魔王が勇者に倒されてるからつい意識しちゃうのよね。


「ケーラの察知能力は常に対象の周囲を朧げに観測し続けることができますからね」

「凄いわね、それ」

「ただ魔力の波長を覚えてからは常に意識の片隅に存在することになります。ですから特定の意識した相手以外はほとんど詳しい状況を把握できないという欠点もあります」


 そっか、一度覚えた魔力を常に補足できるってことは、知り合いが増えれば増えるほど補足対象が増えるってことよね。そりゃあその中の一人が何をしているかなんて常に細かく把握するわけないわよね。


「オリマ様のことは日夜細かく、毎日ちょこちょこ魔力が減っているのもしっかりと把握しておりますわ!」

「それ本人を前に言うことじゃないと思うわよ?てことは知人の魔力が消失すれば、『おや?』って感じで反応するってことなのかしら?」

「そうですわ。ただライライムの反応がなくなってしまいましたので、すぐにその周囲の様子は分からなくなりましたわ」


 補足した対象を中心に観測するって感じなのかしら。それもそっか、この位置から人間界まで全ての範囲を一度に観測していたら脳が焼き切れても不思議じゃないわよね。


「どの道調べて見る必要はありそうですね。キュルスタイン、頼めるかな?」

「了解致しました。可能ならばライライムの回収も含めてといったところでしょうか?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいメン!その任務、私にやらせていただけないでしょうかメン!」


 突然大声でメンメンマが割り込んでくる。ケーラの爆弾発言から随分と固まっていたようだけど、我に返っていたのね。


「オリマ様。メンメンマはこう言っておりますが、いかが致しましょう?」

「別に構わないよ。でもメンメンマ、君はキュルスタインに比べれば遥かに戦闘能力に劣る。そもそもライライムが敗北するような相手と接触する可能性もあるんだ。その意味は分かるよね?」

「もちろんですメン!それでもライライム先輩は生まれたばかりの私に様々な手解きを施してくださった方ですメン!」

「それじゃあ今から言う三つのことを死守して任務に付くように。一つ、一週間以内にここに戻ること。二つ、少しでも手に負えないと感じたならば撤退すること。三つ、もしも敵意のある相手が現れたとして、それがどれほどの雑魚でも決して戦闘しないこと」

「は、はいですメン!」


 随分と慎重な命令ね。メンメンマはライライムに比べれば弱いかもしれないけど、魔力保有量だったら大地からも補給できる分優れているわけだし、多少の戦闘を行っても平気だと思うのだけれど。


「特に三つ目は意識しておくようにね。でないと君が死ぬことになる」

「え、ええと……どういうことですかメン?」

「ケーラの報告ではライライムより魔力を保有する存在は近くにいなかった。つまり相手は能力的に言えば格下ということになる。ライライムはキュルスタインとの手合わせを経験して、どんな格下相手であろうとも油断はしないようになっていた。だけどそんなライライムが格下相手に敗北した。これがどれだけ不気味なことか、理解はできるね?」


 オリマの説明にメンメンマの表情が青ざめる。油断しないはずのライライムが格下相手に敗北する、そんなことがあり得るのだろうか?あるとすればそれはライライムの予想を遥かに上回るような戦略や手段を用いたということになる。


「わ、わかりましたメン!決して戦闘は行わないようにしますメン!」

「ねぇオリマ。キュルスタインでもないのに、そんなことをできる奴っているの?」

「実際にいる可能性がある以上は否定できませんよ」

「……例えばオリマならライライムを倒せるの?」

「可能ですね。中級魔法三~四発分の魔力を補充できれば初回限りではありますが、あっさりと勝てるでしょう」


 うわお、少しも迷いのない断定でちょっとカッコイイって思っちゃった。もしもオリマが私の力を完全に使いこなすことができれば、過去……いや未来ですら見ることのできない最強の魔王になるかもしれないわね。


「それではメンメンマ、ライライム先輩の消息を調べに出発しますメン!」


 メンメンマは敬礼をしたあと、物凄い速さで駆け出していった。飛ぶ鳥よりも早く走れるのよね、あの子。


「さて、私達も急いでやるべきことをしなくてはなりませんね」


 オリマは真剣な表情でキュルスタインと顔を見合わせながら頷く。そうよね、ライライムすら倒されるような相手が近場にいるんじゃこれからの魔界統一の為の活動に支障をきたす可能性だって出てくるわけだし、しっかり対策を練らなきゃいけないわよね。


「急いでライライムの備品を買い直さないとだね」

「そっち!?」



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