世界を超える紫
ワイトとシロは深夜の街を走っていた。
シロは憧れのような眼差しでワイトを見つめる。
「やっぱりワイトは凄いよ。結局全部上手く行っちゃった」
「俺は何もしてねぇよ。最後に箱を持って運よく逃げ切っただけだ」
「うん。そうだね」
シロはニッコリと微笑みながら走る。
二人は深夜で人通りの殆ど無い裏道を走っていた。
「それにしてもあの毒島って人、凄い剣幕だったよね。何かあったのかな?」
「さあな」
事件解決前。
ワイトがシロを全回復させ、再び上に向かおうとしている時だった。
当然だが、敵が迫ってきた。
人数は六人だが、その中に毒島が混じっていた。
「殺せぇ! そいつらを生かしておいては我々の未来は無い! 殺せぇ!」
「シロ! 今うるさく喚いてるあの太った男を潰せ! 他は全部無視だ!」
「分かった!」
毒島以外の五人は、各々、ナイフを使ったり、腕力強化を使ったりし攻撃を仕掛けてくるが、シロはそれら全てをまるで舞を舞うかのように躱していく。
そして、あっという間に毒島の懐に潜り込んだ。
毒島の反応がようやく追い付き、「あ」と間抜けな声を上げた瞬間、シロの手刀が毒島の腹を捉えた。
それは傍から見ているとただ軽く腹を小突かれているようにしか見えなかったが、毒島は無言で崩れ去った。
ワイトはそれを見届けるとすぐに毒島に近づき、内ポケットから一枚のカードを奪った。目的のカードがどこにあるかはさり気なく使っていたサーチで把握済だ。
ワイトは奪ったその紫のカードを自身の内ポケットに厳重にしまい、シロと共にその場を走り去っていった。
ワイトは奪った紫のカードを取り出し、笑顔も見せず、じっと見つめる。
普通の黒や白のカードも綺麗な装丁が施されているが、紫のカードはもう一段装丁が豪奢だ。
「それがカード使いなら誰もが求める究極のカード……」
シロが思わず息を漏らす。
「ねぇワイト! そのカードはどんな効果なの?!」
「ああ。これはな……」
ワイトはそう言うと突然足を止めた。
「?」
シロもすぐに足を止めるが、その瞬間、ワイトは近くのマンションから降ろされていたつり革のような物の輪っかに手をかける。それは四階建てのマンションの屋上からワイヤーで吊るされており、ワイトが手を掛けた瞬間、一気にワイトを屋上へと引っ張っていった。
「ワイト!」
シロは、こんな所にも仕掛けを施してあったのかやれやれといった様子で上を見つめる。
「ワイトぉ! 降りてきてよ」
「シロぉ! この世界じゃお前がいてくれてホント助かったぜ! 邪魔もしっかりしてくれたが、それ以上にお前がいなきゃ取れなかったカードは山ほどある。まじで感謝してるぜぇ!」
ワイトはマンションの屋上の縁でシロを見下ろし、叫ぶ。
一歩間違えれば落ちてしまいそうな状況だ。
「ワイト? どうしたの?」
シロの胃がチクリと痛み始める。
「シロぉ! 受け取れよ!」
ワイトはそう言うと、一枚のカードを投げ捨てた。
シロが下でキャッチした、それはカード使いが使うカードではなく、本物のキャッシュカードだった。パスワードもカードに貼ってある。
「約束の今回の報酬だ! あと今までの礼も上乗せしてある! わりぃな! 俺も今回の件でもう殆ど金なくてな! ただ、そのカードに俺が最近売って、まだ振り込まれてない金が入ってくるはずだ! それでお前への礼とさせてくれ!」
「ねぇ……ワイト……。何言ってるの? 私こんなの要らないよ?」
シロの声のトーンがはっきりと下がる。
何かを察知したシロの胃がキリキリと痛み始める。
何なんだ。
今までこれほど嫌な予感を感じたことがない。
何かが起ころうとしている。
かつて経験した事が無いほどの何かが……。
「シロぉ! このカードの効果、聞きたがってたよな?! 教えてやるよ! このカードはな! 一言で言えば、別の世界へ行くカードだ! ただし、片道切符なんだけどな!」
「ワ……ワイト……。ねぇ……。な、何……言って……」
シロがよろよろしながら、屋上のワイトに向かって手を伸ばす。
もうまともな思考が出来ない。
心臓が激しく脈を打つ。
何かが…………起こる…………。
だから…………何か……しないと…………。
でも…………でも…………。
何も…………分からない…………。
「シロぉ! 最後の最後だ! よーく見とけ! このカードの効果を!」
ワイトがそう叫ぶと、カードは真っ白な光を放ち始めた。
その光はワイトを飲み込むようにして闇夜に広がっていく。
「ダメェェェェ!! ワイトォォォォ!!」
「発動しろ!! 世界を超える紫!!」




