真相
「執行官。どういたしましょう? どうやら都内で本当に爆弾が爆発したようです。犯人は代表執行官を出せと言っております。偽物を出しても分かるから本物を出せ、と」
天宮の秘書の女性が天宮に相談する。
「……仕方ありませんね。少しだけ時間を稼いで下さい。すぐに準備します」
少しして天宮は電話を取った。
「もしもし。お待たせいたしました。取締局代表執行官の天宮と申します」
『遅い! どんだけ時間掛かってんだ!』
電話の向こうの男は激高する。
声は何かしらの方法で変えているようだった。
「申し訳ありません。今電話の近くにはおりませんでして」
『まぁいい! それにしてもアンタの所の執行官はまじで優秀だな! 逃げても逃げても追いかけてきやがる!』
電話の向こうからは風の音がゴーゴーと鳴っている。
何やら走っているようだ。
「それで。私に何のご用でしょうか?」
『いいか! 一回しか言わない! これから話す事を信じるも信じないもアンタ次第だ! 今とあるマンションで災害級の赤のカードが発動しかけている! それを阻止しようと夢町って執行官が立ち向かってるんだが、そいつは罠にはめられて執行官を解任されちまった! そいつは執行官権限の虚偽行使に怯えながら必死で戦ってるんだ! アンタに頼みたいのは、今アンタの元にその解任通知書が再審査で届いてるはずだ! それをアンタの権限で否決してほしい! それとそのマンションに二千人規模の命を吸う赤のカードを抑えられる人間を寄越してほしい! それだけだ! 詳しくはアンタの所の今宮と毒島って奴に聞いてみてくれ。この二人がこの事件の黒幕だ! こいつらが紫欲しさに赤のカードを発動させようとしてるんだ! じゃあな!』
そう言うと爆弾犯は一方的に電話を切った。
天宮はすぐに机の上を探す。
すると、本当に話のあった通知書が届いていた。
「本当……なのですか。今の話は……」
天宮はすぐに秘書に連絡を入れた。
「大至急、車を。それと、回答看破を準備して下さい!」
天宮はまず、人事局に来た。
「この解任通知書ですが、本日否決します。ですが、この書類は人事上はいつ発効された事になっていますか?」
オペレーターの女性が答える。
「これは土曜に既に通知され、人事としても土曜に発効された事になっております」
「つまり、本日日曜に否決したとしても」
「ええ。昨日、こちらの夢町執行官が何か執行官任務を遂行していた場合、執行官権限の虚偽行使になってしまいます……」
「ふむ……」
天宮は少しだけ考えるような仕草をした。
「私はこの書類を昨日否決した。そうですね?」
「え? で、でも人事上は既に昨日……」
「この書類は昨日否決された。そうですね!?」
天宮はにっこりと微笑みながら、オペレーターの女性に迫る。
「は! はい! この書類は昨日否決されております! よって夢町執行官には執行官としての空白期間などはございません!」
天宮はそれを聞き届けるとくるりと振り返った。そして、ぼそっと呟く。
「申し訳ありません。この埋め合わせはまたいつか」
そして、天宮は取締局本庁へと向かった。
今宮と毒島は今宮の執務室で笑いながら話していた。
「いよいよですな。今宮執行官。あと数時間で紫のカードが我々の手に」
「まぁまだ油断は出来ない。万全を期さねばな」
「実質的に二人対二十人です。万が一もありますまい」
「君も向かうのかね?」
「はっ! これより私も現地に向かい応戦するつもりです」
「うむ。戦力は一人でも多い方が良い。君にも期待しているよ」
「はっ!」
毒島が敬礼した時だった。
外から何やら騒がしい音が聞こえてくる。
「し、しかし、今は誰も通すな、と」
「構いません! 通しなさい!」
「何事かね?」
少しすると扉をノックする音が響いた。
「誰だ? 全く誰も通すなと言っておいたのに」
毒島が扉を開けた。
「失礼します」
中に入ってきた人物を見て今宮と毒島は飛び上がった。
「あ! ああああ! 天宮代表執行官!」
二人は直ちに敬礼する。
天宮は威厳を示すため、わざわざ部屋奥の、今宮の椅子にどかりと座った。
そして、解任通知書を机に叩きつけ、口を開いた。
「これはどういう事ですか?!」
「こ! これは!」
今宮も毒島も言葉が出なかった。
なぜ、この書類がここにあるのか。更に再審査のサインまで入っている。
今宮がアイコンタクトで「これはどういう事かね?!」とサインを送るが毒島も首を振り「私にも何が何やら!」と返す。
慌てる二人をよそ目に天宮は回答看破を取り出した。
「あなた達は自分の私利私欲のために災害級の赤のカードを発動させようとしている。本当ですか?」
そして、回答看破を二人同時に仕掛ける。
「あなた達はそのために邪魔だったこの夢町執行官を罠にかけ執行官を無理矢理解任させた。これも本当ですか?」
二人は何も答えないが、回答看破を使っている天宮には全て分かっていた。
「あなた達が何を考えているのか私には全く理解できません。ひょっとしたら私が何か勘違い、見逃しをしている可能性もあるかと思い来ました。何か言い分があるのでしたら言って下さい」
二人は何も答えられなかった。
天宮は、ふう、とため息をつくと立ち上がった。
「毒島執行官」
「は、はっ!」
「私は今どのような顔をしていますか?」
「は?」
唐突な質問に毒島は思わず間抜けな声を上げてしまった。
「ひ! 非常にお美しく、凛とした顔をされております!」
「そうですか」
「は! はい!」
天宮は少しの間俯くと、顔を上げ、鬼のような形相で二人を睨みつけた。
「私は今、あなた達二人をグチャグチャに潰して八つ裂きにしてやりたい気持ちでいっぱいなのですが、それを上手く隠せているようなら良かったです!」
二人はその様子を目の当たりにしてムンクの叫びのような表情になった。
「失礼します。今はあなた方に構っている場合ではありません」
そう言うと天宮は部屋を後にした。
二人はしばらく放心状態だったが、やがて今宮が口を開いた。
「毒島君。何をしているのかね! 早く現場に駆けつけたまえ!」
「え?」
「分からんのかね! 我々はもう終わりだ! こうなったら絶対に今回の紫を手にし、その金で残りの人生を過ごすしかない!」
「は、はっ!」
外に出た天宮はすぐに電話を掛ける。掛けた先は。
「総理。緊急事態です。Sランカーを一人出動させます」
Sランカーは国家のパワーバランスを変えてしまうほどの存在。よって出動には許可が必要になる。
取締局は内閣総理大臣付きという扱いになっているので、最終承認は総理大臣になるのだが、これは形式的なものだ。拒否されることなどは絶対に無い。
「間に合って下さい」
天宮はすぐにSランカーの元へと向かった。
この話と同時に、ケイは少し前の事を思い出していた。
キーノが執行官を解任されてしまい、自棄になっていた時。ワイトに突っかかったケイはワイトに言われた。
「お前に一つだけ教えてやる。力が無い事と何も出来ないって事は決してイコールにはならない!」
「え?」
「力を貸せ。チビ。てめぇにしか出来ない事がある!」
「あ、アタシにしか?」
「そうだ。キーノを助けたいんだろ?」
「教えてくれ。アタシに何が出来るのかを」
「取締局の庁舎のどこかにあるキーノの執行官解任通知書。これの原紙を取って来い!」
「え? そんなもの取ってきてどうするんだ?」
「てめぇは知らんかもしれんが、執行官解任通知書はたとえ承認が入っても双方の合意があれば上の人間に再審査を要求できる再審査制度がある」
「そうなのか! って、でもあのゴリラが再審査に応じるはずが……。万が一応じたとしても、それを上の誰に渡せばいいのか……」
「それを俺が何とかしてやるから原紙を取って来いって言ってるんだ。俺じゃ取締局の庁舎に入ってそれを取ってくるのは不可能だ。内部の人間であるお前にしか出来ない」
「分かった! やってみる。いや! 必ず持ってくる!」
「頼んだぞ。毒島が原紙を持ってなかったらひょっとしたら原紙は人事局に行っているかもしれない。その場合は人事局に忍び込んででも取って来い。内部の人間であるお前になら不可能じゃないはずだ」
「分かった!」
「それとこの話はキーノには絶対にするな」
「え? 何で……?」
「まずお前がそんな事するって言ったら止められる。それに俺も何とかしてやるとは言ったものの絶対の自信があるわけじゃない。ぬか喜びさせるのは残酷だからな」
「そういう……事か」
「ただ、絶対の自信は無いが、必ず何とかしてやる! だからさっさと行ってこい!」
「何か矛盾してる気もするが、分かった!」
「期限は明日の午前中だ! 徹夜してでも取って来い!」
キーノとケイは同時にワイトの方を向いた。
「何だよ。何で俺の方を向く?」
「ワイト君。君ってやつは!」
「何の事だよ」
「君以外の誰にこんな事が出来るって言うんだよ……。代表執行官を脅すなんて、神をも恐れぬ大罪だよ」
キーノは涙を流しながら笑みを浮かべる。
「ねぇ。エクスワイトさんでしたか」
天宮はワイトに向かって話しかける。
「な、なんすか」
「実は私は今日これから内閣総理大臣の元に向かわなければならないのです。理由は、先程言った爆弾犯の要求を飲んだ挙げ句、取り逃がしてしまったからです。このため、私は総理大臣から厳重注意、つまりお小言を頂くことになるわけですが、あなたが一緒に来て下されば私の罪が随分軽くなる気がするのですが、どうでしょう?」
天宮は悪戯な笑みでワイトに問いかける。
「何で俺が関係するんですか。俺は何も関係ない」
ワイトがそう言うと、天宮はふっと笑った。
「まぁ、いいでしょう」




