誤解
天宮は全員の様子を見て何やら困惑していた。
「え? ちょっと? どういう…………」
そして暫く息を切らしていたが、やがて何かに気付いたかのようにはっとすると、突然、
「すぅみませんでしたぁ!!」
まるで音がするのではないかというほどの勢いで唐突に頭を下げた。
「え?」
突然頭を下げる取締局のトップ。
今度は逆に四人が困惑する。
天宮は頭を上げた。
「よ、ようやく、状況が飲み込めました。そして、私の最初の発言は極めて不用意でした。大変申し訳ありません」
天宮はまだゼェゼェと息を切らしている。
「す、少しだけ、休ませて下さい。何で、こんな、車も入れないような場所に、居を構えるのですか? おかげさまで私、この歳で、ここまで走ってきたのですよ」
それから一分ほど天宮はドア枠に寄りかかっていたが、やがてきっちりと立ち直した。
「改めて、大変申し訳ありませんでした。私の不用意な発言をお詫び致します。皆さんが仰っていたのはこれですね」
そう言うと、天宮は内ポケットから一枚の紙を取り出し、全員に見せた。
「あ」
キーノが声を漏らす。
それは以前キーノに突きつけられた、執行官解任通知書だった。
やはり捕まえに来たのか。
キーノの表情が曇りかけたが、
「え?」
書類を改めてよく見たキーノがぽかんとした表情を浮かべる。
その書類は以前見た時と少し変わっていた。
今宮の承認印まで入っているのは以前と変わっていなかったが書類の空白部。
そこには怒りを込めたような殴り書きで、
『不採用とする。代表執行官 天宮春名』
と記されていた。
決定が否決されている。
「夢町絹衣乃執行官。あなたはこの決定により自分が執行官の権限を失っていると思っていた。そして、執行官権限の虚偽行使の厳罰から、海外に逃げようと思っている時に私が『許しませんよ』などという発言とともに現れた。貴女は私が貴女を捕まえに来たと思ってしまった。そうですね」
「は、はぁ……」
「しかし、この通り。貴女はただの一度として執行官の権限を失ってなどいません。よって貴女の今回の行為は全て執行官の正式な権限に基づく、正義の行動です。表彰こそされ、罰せられる事など皆無です」
「え…………それじゃあ…………」
キーノの表情に徐々に灯りが灯っていく。
「私が最初に許しませんよと言ったのは、これほど優秀な執行官である貴女が理由もなく取締局を辞め海外に行くなど絶対に許しませんよという意味でした。途中から話が聞こえてきてしまったため、そのような発言をしてしまいました。本当に申し訳ありません。最初はただ貴女にお礼を言うのと、この通知書を一刻も早く見せるために来たつもりだったのですが、とんだ事態を招いてしまいました。改めてお詫び致します」
「では…………では…………私は…………」
キーノが必死で言葉を絞り出そうとすると、天宮はキーノの元に歩み寄り、キーノを抱きしめた。
「執行官権限の虚偽行使は重罪。貴女が今回、どれほどの恐怖と戦いながら任務を遂行して下さったかと思うと胸が潰れそうです。本当にありがとうございました。貴女は私達の誇りです。貴女が動いて下さらなければ、私達取締局は歴史に重大な汚点を残す所でした」
それを聞いたキーノは天を仰ぐようにして声を漏らした。
「良かったよぉ」
ケイはがっくりと力が抜けその場にへたりこんでしまった。
「ああ。ちなみにこの二件の通知書は決定されましたので、ついでにお知らせしておきます」
天宮が内ポケットからもう二枚、書類を取り出す。
それは、今宮と毒島の執行官解任通知兼特別降格通知兼僻地への異動通知だった。
今宮と毒島の二人はこのまま放置しておくのは危険で、それならば取締局で、使いっ走りとして監視しておいた方が安全と判断されたようだ。
本来ならば二人は重罪だが、牢屋にぶち込んでも国民の税金が無駄になるだけだ。
それならば奴隷同然の扱いで使い潰してやる、という天宮の意思が透けて見える。
「それにしてもこの書類が私の所に来たのは本当に僥倖でした。この手の決定通知書は内容に不服がある場合、上の者に内容を再審査してもらう再審査制度がある。それで私の所に来たわけです」
「わ! 私もそれが気になっていました! しかし、その制度は不服申し立て者と承認者の双方の合意がいるはず。なんで…………。しかも途中の上の人を飛ばしていきなり代表執行官の所に行くなんて…………」
キーノは不服申し立てをしていない。
申し立てをしたところで、毒島、今宮が合意するはずがない。よって申し立てすら頭になかった。しかし、その書類にはなぜか、キーノと毒島のサインが入っている。
ちなみに先程天宮が見せた今宮と毒島に関する書類には最終承認に天宮の名前が入っている。こうなるともう再審査は通用しない。
「ええ。それに関してはちょっとエピソードがありましてね。実は昨日の夕方、実にふざけた爆弾犯がいたのです」
「あ!」
キーノは当然覚えていた。
マンションに突入する前、作戦会議が終わり一旦解散した後の事だ。キーノにも出動要請があったあの爆弾事件だ。
「その爆弾犯の要求は私に電話を繋ぐことでした。しかし、私もこれで忙しい身。いちいちそんな要求に応えていられません。よって私ではないのですが、電話に出た者は要求は飲めないと突っぱねていたわけですが、爆弾犯は本当に爆弾を爆発させ脅しを掛けてきたのです。次は人を大量に巻き込む、と」




