お別れ
「君さぁ、どうやってあんな準備進めたの?」
その日の午前三時。
とある山奥の使われていない山小屋。
そこに、ワイト、キーノ、シロ、ケイの四人が集まっていた。
四人はごく簡単に乾杯しており、机には二リットルのペットボトルやコップ、お菓子が並べられている。
「何の事だよ」
「最後、赤のカードを抑え込んだ件に決まってるじゃない。あんなカードを抑え込める人間なんてSランカー以外いるわけがない。でもSランカーの正体は最重要国家機密。それを動かせる人は取締局でも代表執行官だけ。代表執行官なんて私が執行官だったとしても取り合ってもらえないのに」
「たまたま買い物にでも来てたんだろ」
「夜の一時に?」
「よっぽど腹でも減ってたんだろうな」
「あのさぁ、スーパーに行って偶然総理大臣に会いましたとかそんな事ってあると思う?」
「思わないけど可能性はゼロじゃない。今回はたまたまそれを引き当てたんだろう」
「……まぁいいけどさ」
「そんな事よりキー姉!」
「んん?」
「良かったね! 事件が無事解決して! 今宮と毒島は失踪したんだって。めっちゃいい気味!」
「まぁグレイとか他のDランカーEランカーも消えたわけだが、あいつらは元々裏世界の人間だからな。またどこかで暗躍するんだろう。ただ、今宮と毒島の二人だけは元々の立場が立場だ。もう元の舞台に戻ることは出来ないだろうな。ちなみに失踪したって言っても百パーすぐに捕まる。取締局から逃げられるわけがない」
「失踪したって事はやってた事がバレたって事かな。何でバレたんだろうね」
「さあな」
「そんな事どうでもいいじゃない! それより今日はキー姉の表彰日だよ。ゴリラもいなくなったし、一気に昇進とかもあるんじゃないかな!」
「ああ……。その事なんだけどね……」
キーノはコップを机に置くと改まってケイに向く。
「ケイちゃんは知らなかったかもしれないけど、今回の件で私は無罪にはならないの」
「え?」
「事件を無事解決出来たから多少の酌量はあるかもしれないけど、無罪は絶対に無い。だから今日私が登庁したら即捕まっちゃう」
「そんな!」
「だからこんな場所を選んだんだよ。ここならすぐに追っ手が来ることも無いって思ってね」
「おかしいよそんなの!」
「そうだね。でもそれが決まりなの。事件を解決したら無罪になるようじゃ皆自分の正義で動いちゃうでしょ?」
「そうだけど!……」
「今日皆に集まってもらったのは軽く祝勝会をするのとお別れを言うためなんだ」
「え?」
「私ね。海外に出ようかなぁって思ってるんだ」
「え? どういう……」
ケイの表情がどんどん曇っていく。
「このまま国内にいたんじゃたとえ取締局を辞めてもずっとお尋ね者だしね。かと言って私もカードの世界以外生きる道知らないし……。折角だから海外に出て自分の力を試してみようかなぁって、ね」
「そんな……」
「ワイト君と情報屋さんにはさっきまで相談してたんだ。転職先の斡旋ってやつだね」
「じゃあアタシも一緒に!」
「駄目だよ!」
キーノは強い口調で返す。
「ケイちゃんは私と来る理由が無い。これからもずっと取締局で働ける。取締局は凄く優秀な機関なんだよ。ケイちゃんをしっかり守ってくれる。私と一緒に危険な海外に来るなんて絶対にダメ!」
「それってキー姉とお別れって事?」
「そういう事になるね」
「なんで!? 嫌だよ! アタシ、キー姉と一緒じゃなきゃ嫌だ!」
「わがまま言わないの! 今回ばっかりは絶対にダメだからね!」
「嫌だ! 嫌だよ! キー姉と一緒に行く!」
「ケイちゃんはまだ十五歳にもなってないんだよ! 取締局以外の道じゃ生きていけない! ダメ!」
「アタシ元々一人だったんだ! あんな機関に頼らなくても生きていける!」
「昔それで捕まっちゃったのは誰? 捕まった先が取締局だったから良かったけどあれが何でもありの組織だったらケイちゃん今頃どうなってたと思う?」
「別にいいもん! 裸にされたって辱められたって! アタシ捕まるまではそんな事だってしてきた!」
キーノはそれを聞くと一瞬言葉を失ったが、すぐにふっと優しく微笑み、うっすらと涙ぐむケイを柔らかく抱いた。
「だから。これからは絶対にそんな事しちゃダメ。ケイちゃんは幸せにならなくちゃダメ。取締局に残りなさい。彼らは絶対に悪いようにはしないから」
「キー姉ぇ。嫌だよぉ。なんでそんな事言うの? アタシの事嫌いになっちゃったの?」
「大好きだよケイちゃん。今までもそしてこれからもね」
「そんな事言わないでよぉ…………。これからも一緒にいようよぉ…………。キー姉がいない取締局なんて嫌だよぉ」
「もう毒島執行官だっていなくなったんだから。過ごしやすくなったでしょ?」
「そうだけどぉ……。やっぱりキー姉がいないと…………」
ケイはなかなか折れなかった。
ワイトはやれやれといった表情でその様子を見守っていたが、シロは隣で号泣していた。
「ワイドぉ! お別れって悲しいよね!」
「お前……、そんな涙もろかったっけか?」
ワイトはシロにティッシュを渡す。シロはチーンと鼻をかんだ。
「ケイちゃんは取締局にさえいればもう一人で生きていけるよ」
「キー姉…………。でも一人は嫌だよぉ」
「だったらさ! 私に名案があるよ!」
「え?」
「ワイト君に面倒見てもらえばいいんだよ! それなら万事解決!」
「「断固拒否!!」」
「あはは! 相変わらず息ピッタリだね!」
ケイを抱いたままワイトの方を向き、少しの間笑っていたキーノだったが、やがて再び腕の中にいるケイに向き直った。
「ケイちゃん。でも本当に何か困った事があったらワイト君やシロちゃんに相談するといいよ。あの二人は信用できる。私のお墨付きだよ」
「あんな奴に相談する事なんて無いもん…………。キー姉がいてくれたら……」
「もう」
キーノはケイを離し、仰々しく手を広げてみせた。
「ケイちゃん。笑って見送ってよ! 私これから海外に行くんだよ! これからお姉さん海外で有名人になっちゃうから! 日本にまでその名前が轟くカード使いになっちゃうから!」
「今でも十分有名人なんだけどな」
ワイトがぼそっと呟く。
「これはそんな私を見送るための会なんだよ! 有名人になる私が取締局を抜けて海外に行く記念すべき日なんだよ!」
「キー姉……」
気丈に笑うキーノを見てようやくケイもうっすらと笑いかけた、その時だった。




