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世界を超える紫  作者: 素人
38/49

起死回生

 その瞬間だった。

「ぬぅぅああッッ!!」

 気合一閃。

 ワイトが吠える。

 空中に吹っ飛ばされた状態で左手からワイヤーのようなものを投げ出す。

 それは以前ワイトが使った、先端にトリモチが付いたワイヤーだった。

 ワイヤーは正確に、先程吹き飛ばされた加速のカードを捉える。

「ぅああッッ!!」

 そして、加速のカードを捉えたのと同時に上半身を捻り、右手で最後のゴム弾を放った。

 ゴム弾は真っ直ぐ箱に向かって伸びていく。

 そして。

 謎の男の指が箱に触れようかという瞬間、ゴム弾が箱に直撃した。

「なにっ?!」

 どんな高位ランカーでも紫のカード無しに、空中で急旋回するような物理法則を無視した行動は出来ない。箱はゴム弾で弾かれ、謎の男の手は空を切り、体はそのまま通り過ぎていく。

 次の瞬間、ワイトは両手両足で不格好に着地し、同時に加速のカードを一気に引き寄せる。

 そして、ワイヤーと銃を目の前のEランカーの男に向かって投げつけ、加速のカードだけを握りしめた。

 ――最後の一回だ!!

 クラウチングスタートのような格好でワイトは構え、全ての力を集中させた。

「加速!!!」

 僅かに遅れて謎の男も着地する。

「チィィッッ!」

 謎の男もすぐさま、弾き飛ばされた箱に向かって超加速した。

 ワイトと謎の男。

 二人の手が箱に向かって進んでいく。

 二人の手が同時に交差するかと思われた瞬間だった。


 ワイトの手の甲を謎の男の指がかすめていく。

 ほんのごく一瞬。

 瞬きよりも短いほど、僅か一瞬だけ…………。


 ワイトの方が速かった。


 左手で箱を掴み取ったワイト。その口元には笑みが浮かんでいた。

 その場にいた全員が唖然とした表情でその様子を見つめる。

 誰一人、謎の男が箱を奪取する事に疑いを持っていなかった。

 シロやキーノですらも完全に負けを覚悟していた。

 しかし、箱を持って降りてきたのはワイトだった。

「とったあああああああああああ!!!」

 シロが普段からは考えられないほどの大声で叫ぶ。

 キーノは目の前の光景に一瞬、思考が停止してしまったが、シロの大声と共に、すぐさま今までとは別の涙を流し、声を絞り出した。

「ワイト君……。おねがいいいいいいい!!」

 キーノは背中から地面に落ちた。

 ほぼ同時にワイトも着地する。

 そして、着地の瞬間、ワイトはフロアの入り口に向かって猛ダッシュした。

「チィィィッッ!」

 謎の男はカードの力が強い分、滞空時間が長かった。

 ワイトより少し遅れて着地し、すぐさまワイトの後を追いかける。

 二人がフロアから姿を消し、一瞬、静寂が流れた。

 しかし、

「どわああああ!」

 シロを囲っていたEランカーのうち三人が吹っ飛ばされた。

 全員の視線が先程の状況に集まっていた隙を狙って、シロが動いた。

 ようやく包囲網を突破したシロがキーノの元に駆けつける。

「キーノ! ワイトが取ったよ!」

 シロは満面の笑みでキーノを抱き起こす。

 キーノは残る力を振り絞って立ち上がろうとする。

「うん……。そうだね……。私達も早く追いかけないと」

「要らない!」

「え?」

「カードを持って逃げられれば勝ちなんでしょ?!」

「そ、そうだけど……」

「だったらもう私達の勝ちは確定したよ!」

「え? で、でもまだ謎の男が……」

「逃げ出したワイトを捕まえるなんて絶対無理!」

「でも……。ワイト君、多分、カードの力は殆ど残っていないんじゃ……」

「同じような状況で私が何十回ワイトに負けてきたと思ってるの?」

 シロは二人が出ていった入り口を向き、今までにないほどの悪戯な笑みを浮かべる。

「思い知ればいいんだよ。ああなったワイトを捕まえるのがどれだけムリゲーかって事をね」

「む、ムリゲー?」

「とにかく! あっちよりもこっち! 私達がやるべきなのはここを無事に抜ける事だよ!」

 そう言うとシロは立ち上がり、残る全員に向き直る。

「私、何だかやる気出てきちゃった!」

 そんなシロの様子を見て、キーノは笑みを浮かべながら、ゆっくり立ち上がり、カードを取り出した。

「そうだね。ちょっと元気出てきたね!」

 二人が自信満々に肩を並べ、挑発的な笑みを浮かべ相手を睨む。

 状況が逆転した相手は逆にたじろいでいた。

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