起死回生
その瞬間だった。
「ぬぅぅああッッ!!」
気合一閃。
ワイトが吠える。
空中に吹っ飛ばされた状態で左手からワイヤーのようなものを投げ出す。
それは以前ワイトが使った、先端にトリモチが付いたワイヤーだった。
ワイヤーは正確に、先程吹き飛ばされた加速のカードを捉える。
「ぅああッッ!!」
そして、加速のカードを捉えたのと同時に上半身を捻り、右手で最後のゴム弾を放った。
ゴム弾は真っ直ぐ箱に向かって伸びていく。
そして。
謎の男の指が箱に触れようかという瞬間、ゴム弾が箱に直撃した。
「なにっ?!」
どんな高位ランカーでも紫のカード無しに、空中で急旋回するような物理法則を無視した行動は出来ない。箱はゴム弾で弾かれ、謎の男の手は空を切り、体はそのまま通り過ぎていく。
次の瞬間、ワイトは両手両足で不格好に着地し、同時に加速のカードを一気に引き寄せる。
そして、ワイヤーと銃を目の前のEランカーの男に向かって投げつけ、加速のカードだけを握りしめた。
――最後の一回だ!!
クラウチングスタートのような格好でワイトは構え、全ての力を集中させた。
「加速!!!」
僅かに遅れて謎の男も着地する。
「チィィッッ!」
謎の男もすぐさま、弾き飛ばされた箱に向かって超加速した。
ワイトと謎の男。
二人の手が箱に向かって進んでいく。
二人の手が同時に交差するかと思われた瞬間だった。
ワイトの手の甲を謎の男の指がかすめていく。
ほんのごく一瞬。
瞬きよりも短いほど、僅か一瞬だけ…………。
ワイトの方が速かった。
左手で箱を掴み取ったワイト。その口元には笑みが浮かんでいた。
その場にいた全員が唖然とした表情でその様子を見つめる。
誰一人、謎の男が箱を奪取する事に疑いを持っていなかった。
シロやキーノですらも完全に負けを覚悟していた。
しかし、箱を持って降りてきたのはワイトだった。
「とったあああああああああああ!!!」
シロが普段からは考えられないほどの大声で叫ぶ。
キーノは目の前の光景に一瞬、思考が停止してしまったが、シロの大声と共に、すぐさま今までとは別の涙を流し、声を絞り出した。
「ワイト君……。おねがいいいいいいい!!」
キーノは背中から地面に落ちた。
ほぼ同時にワイトも着地する。
そして、着地の瞬間、ワイトはフロアの入り口に向かって猛ダッシュした。
「チィィィッッ!」
謎の男はカードの力が強い分、滞空時間が長かった。
ワイトより少し遅れて着地し、すぐさまワイトの後を追いかける。
二人がフロアから姿を消し、一瞬、静寂が流れた。
しかし、
「どわああああ!」
シロを囲っていたEランカーのうち三人が吹っ飛ばされた。
全員の視線が先程の状況に集まっていた隙を狙って、シロが動いた。
ようやく包囲網を突破したシロがキーノの元に駆けつける。
「キーノ! ワイトが取ったよ!」
シロは満面の笑みでキーノを抱き起こす。
キーノは残る力を振り絞って立ち上がろうとする。
「うん……。そうだね……。私達も早く追いかけないと」
「要らない!」
「え?」
「カードを持って逃げられれば勝ちなんでしょ?!」
「そ、そうだけど……」
「だったらもう私達の勝ちは確定したよ!」
「え? で、でもまだ謎の男が……」
「逃げ出したワイトを捕まえるなんて絶対無理!」
「でも……。ワイト君、多分、カードの力は殆ど残っていないんじゃ……」
「同じような状況で私が何十回ワイトに負けてきたと思ってるの?」
シロは二人が出ていった入り口を向き、今までにないほどの悪戯な笑みを浮かべる。
「思い知ればいいんだよ。ああなったワイトを捕まえるのがどれだけムリゲーかって事をね」
「む、ムリゲー?」
「とにかく! あっちよりもこっち! 私達がやるべきなのはここを無事に抜ける事だよ!」
そう言うとシロは立ち上がり、残る全員に向き直る。
「私、何だかやる気出てきちゃった!」
そんなシロの様子を見て、キーノは笑みを浮かべながら、ゆっくり立ち上がり、カードを取り出した。
「そうだね。ちょっと元気出てきたね!」
二人が自信満々に肩を並べ、挑発的な笑みを浮かべ相手を睨む。
状況が逆転した相手は逆にたじろいでいた。




