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世界を超える紫  作者: 素人
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深い深い絶望

「キーノォォォ!!」

 シロが叫ぶ。

 謎の男は箱を取り上げようとゆっくりと手を伸ばす。

 しかし、キーノはそれを抱きかかえるようにして隠した。

「なに?!」

 謎の男が初めて声らしい声を上げる。低くドスの利いた声だ。

 キーノは朦朧とする意識の中、もはや無意識と言えるレベルの行動で箱を庇った。

 世界がグルグル回る。

 気持ち悪い。痛い。

 意識を失って楽になってしまいたい。

 しかし、キーノは最後の意地で意識を保っていた。

「くっ! 放せ!」

 謎の男はキーノの肩を掴み、箱を奪おうとする。

 キーノはうずくまり、卵を抱きかかえる母鳥のように動かない。

「やぁぁぁ! やめてぇぇぇ!」

 しかし、それは駄々をこねる子供のような姿でもあった。

 もうどうにもならない。

 泣き叫ぶしかない。

 謎の男はうずくまったキーノを何度も蹴るが、キーノは動かない。

「くっ!」

 謎の男は一枚の黒のカードを取り出した。

 そしてそれをキーノの体に触れさせる。

 すると、バチィッ! という電撃音が響く。

「ぐがっ!」

 筋肉が弛緩し、キーノは思わず海老反りのように体を広げる。

 その瞬間、謎の男はキーノの左手を蹴った。

 そして、箱がとうとうキーノの手を離れ、宙を舞う。

 更に謎の男はキーノに蹴りを加え、後ろに吹き飛ばした。

「あ…………」


「「キーノォォ!」」

 シロとワイトが同時に叫ぶ。

 シロはかつてないほどの怒りの表情で包囲網を突破しようとするが、突破できない。

「どけぇぇぇ!!」

「くっ!」

 ワイトは思わず駆けようとする。

 しかし、

「てめぇも油断ならねぇ。潰す!」

 Eランカーの男が思い切り拳を振り上げる。

 ワイトはかろうじてガードするが、そのガードごと顎を直撃し、空中に吹っ飛ばされた。

「がっ!」


 超反応を使っているわけでもないのに、なぜかキーノには全てがスローモーションのように見えた。

 ――終わった…………。

 後ろに吹き飛ばされる自分。五人掛かりで完全に抑え込まれているシロ。加速のカードも手放し力も殆ど残っていない上に吹き飛ばされているワイト。

 謎の男はキーノを蹴った足を収め、宙に舞った箱に体を向ける。

 ――もう…………どうにもならない…………。

 完全に詰んでいる。

 キーノは届くはずもない箱に向かって手を伸ばす。

 ――絶対に…………。絶対に離しちゃいけなかったのに…………。

 キーノの頭の中を様々な映像が走馬灯のように巡る。

 ――皆頑張ってくれたのに…………。

 今回の件を発見し、率先して動いてくれたワイト。

 カード使いでもないのに、命懸けの戦いに付いてきてくれ、瀕死の重体にまでなったシロ。そしてその親衛隊。

 いつ殺されてもおかしくないような相手を前に、寝る間も惜しんで情報を追い続けた情報屋。

 最後の最後まで必死で励まし続け、味方でいてくれたケイ。

 自身の人生を賭けて箱を作ってくれ、間に合わせてくれた職人、所長。

 自身の職責を賭けて電車を止めてくれた駅長。

 ――皆が繋げてくれた、奇跡のような細い糸だったのに…………。

 顔も知らない情報屋も含め、全員の顔がグルグルと回っていく。

 ――私のせいで…………私のせいで、全部終わっちゃうの?

 このまま謎の男に箱を取られればもう取り返す術はない。

 そして、今この場にいる三人は赤のカードの生贄にされてしまうだろう。

 万が一以下の確率でこの場から生き残れたとしても、キーノは執行官権限の虚偽行使を三回も犯している。それで事件を無事解決出来たのならともかく、失敗してしまった。確実に桁違いの厳罰が待っている。

 キーノの頭に未来の映像が浮かぶ。

 六十年後、白髪の老婆になっても冷たい鉄格子の中にいる自分。

 二十代、三十代という人生の華を全て凝縮したような最高の瞬間、年代。

 その全てを暗い牢獄の中で過ごす自分。

 そんな自分の姿を想像して、悔しさとやり切れなさと切なさと……。

 あらゆる感情が入り混じった涙が溢れてくる。

「いや…………だよぉ…………」

 この先どれだけ楽しい事があったか。どれだけ素敵な日々が流れていくはずだったか。

 その全てが割れたガラスのように崩れ去っていく。

「たす…………けて…………よぉ…………」

 謎の男が箱に向かって跳躍した。

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