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世界を超える紫  作者: 素人
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強制連行

 二人が競っていたビルから程近いうどん屋。

 全国チェーンのこの店は夜でも営業している上に安いのが売りだ。

 シロは泣きながらうどんを啜っていた。

「うっうっ。おかしいよ。なんであんな所に……」

 トッピングゼロの素うどんに、ただで盛り付けられるネギと天かすをてんこ盛りにしてシロはゆっくりとうどんを口にしていた。

「よっ!」

 突如掛けられた声にシロは泣きっ面のまま恨めしそうにゆっくりと顔を上げる。

「ワイト……」

「お前さぁ。このへんで負けるといっつもここ来るよな」

「何しに来たの? 私をあざ笑いに来たの?」

「いや別に。俺も夕飯」

 そう言うとワイトはシロの隣の席に自分のうどんを、どすんっ、と置いた。ワイトの肉うどんには豪勢な海老天や国産具材の野菜かき揚げが所狭しと載せられている。

 シロはそれを見るとジト目でワイトを睨む。

「意地悪」

「何がだよ。ってかお前、みみっちい真似止めろよ。どんだけネギ盛ってんだよ。出禁になるぞ」

「ネギは体にいいんだよ。この店は最高だぜ!」

 シャキーンと親指を突き立て、シロは誇らしげな顔をする。

「店にとっちゃいい迷惑だけどな」

 ワイトはずるずるとうどんを啜る。

「だったらワイト。そのうどんの肉と海老天とかき揚げ、私に頂戴」

「何が残るんだよ。お前のと交換しろって事か?」

「さっきのカードをワイトに取られたせいで私お金ないの」

「そうかそりゃ残念だ。次頑張って下さい」

「どうしても分けてくれないの?」

「いや別に全部じゃなければいいぞ。海老天少し分けてやろうか?」

「……何か、凄い屈辱」

「どうしろってんだよ。めんどくせぇなお前は」

「これは天かす。あなたは人かす」

「余計な事じゃべってないでさっさと食え! チンカスって言わなかっただけ褒めてやるよ!」

「え? 何? よく聞こえなかった」

「何でもないです!」


「ありがとうございました~」

 食事を終えた二人は店を後にする。

「何か店員さんの顔が引きつってなかったか?」

「気のせいだよ」

 二人は繁華街を並んで歩いていた。大都会の繁華街は夜遅くでも人も光も全く絶えることはない。

「さっきのカードはどんなカードだったの?」

「なんてことはない、ただの腕力強化のカードだ。効果も弱い上に単発型。大した金にはならなかった」

「もう換金してきたの?! ワイト、すぐにいっちゃうんだね」

「おい、わざとか? 意味深な言い方はやめろ」

「何の事?」

「何でもないです。ってか危なかったぜ。大したカードじゃなかったせいで一回でも単発型のカード使わされてたら赤字だった」

 二人が表通りから別路地に曲がって少し経った時だった。

「おっふたっりさん!」

 突如後ろから快活な女性の声が響く。

「げぇ……」

「あ、キーノ!」

 そこには、腰に腕を当て、満面の笑みで仁王立ちする女性の姿があった。

 長い黒髪をポニーテールにし、全身黒ずくめの正装をしている。

「ワイト君。何かな? 今の、げぇ、ってのは。目の前にあんまりにも綺麗なお姉さんが現れて声が漏れちゃったのかな?」

 キーノは満面の笑みのまま瞼をひくつかせる。

「いつも言ってるでしょう! 俺はおばさんには興味ありません!」

 その瞬間、キーノはワイトの顔をがしりと掴み、万力の如き力で締め付ける。

「ワ~イト君。私もい~~~っつも言ってるよね。私まだギリギリ二十歳にもなってないんだけど。君の言うおばさんってのは一体何歳からを言うのかな? それとも君はあれかな? ロリコンってやつなのかな? 幼児じゃないと何も感じないのかな?」

「す! 少なくとも、男の体を片腕で持ち上げられるような奴を俺は女とは思わん!」

 キーノは、ふん、と鼻を鳴らすと、ワイトを捨てるように解放する。

 頭蓋骨が変形しちまうぞ~、余計な事にカードの力使いやがって~、というワイトのボヤキをよそ目にシロが恐る恐る話しかける。

「キ、キーノ。あの……。私達を捕まえに来たの?」

「ああ。さっきのね。違う違う。って堂々と言うのもアレだけど」

 シロは、良かった、と胸を撫で下ろす。

「今回はちょっとお二人さんに手伝ってほしい事があってね。それで話しに来たの。ってちょっと待てや!」

 キーノはこっそりと逃げようとしていたワイトの襟首をがしりと掴む。

「は、離せ! 俺は関係ない!」

「まだ話は始まったばっかりじゃない。そんなに喜ばないでよ」

「あんたからの依頼はまじでロクな依頼が無いだろうが! しんどい! きびしい! えげつない! その他四十五の項目でエスケーイーフォーティーエイトだ!」

「今回は楽なお仕事だって。ちょっと麻薬取引の裏で行われるっていうカードの取引を取り締まるだけだからさ」

「おいぃぃ! もう嫌な予感しかしねぇぇ!」

「本命はもうチェック済だからさ。君たちにはちょっと周りにいるザコ敵の相手をしててほしいんだ」

「サラッと言うな! どれだけの相手がいるのかも分からないのにやってられるか!」

「ね~。頼むよ~。後でファミレスでパフェでも奢ってあげるからさ~」

「それだけの仕事で報酬五百円?! 労働基準法はどこに行ったんですか?!」

「いいじゃない。君、ニートなんだから」

「ニートじゃないから! 一応稼ぎはあるから!」

「あれ? 君、納税してたっけ?」

「し…………」

 ワイトの声のトーンが急に下がる。

「してるよ…………。消費税払ってるから…………」

「消費税?」

 キーノはにやりと笑い、ワイトに突っかかる。

「ねぇワイト君。私の権限があれば今この場で脱税の容疑で君を逮捕出来ちゃうね」

「…………」

「それに私、さっき君たちの破壊活動を見逃してあげたよね」

「見逃してもらったんじゃないし…………。逃げたんだし…………」

「威張って言う事じゃないよねそれ」

「…………」

「ワイト。諦めて協力しようよ」

 シロは最初から特に抵抗すること無く、ワイトに投降を促す。

「あ~! もう! 分かったよ! やりますよ!」

「それでこそワイト君。協力的だよねぇ」

「あんたは脅迫的だよねぇ! 天下の執行官様がこんな事して許されるのか」

「何言ってるの。執行官だから許されるんだよ」

「堂々と言いやがるし。で、いつなんだよそれは」

「明日」

「明日!? 今何時だと思ってんの?!」

「ねぇシロちゃん。明日大丈夫?」

「うん。日曜だから問題ない」

「ありがとう! じゃあ決まりだね!」

「おい! 俺には大丈夫? って聞かないのか?!」

「君は年中暇でしょ。ノットインエデュケイションエンプロイメントトレーニング」

「だから違うって……」

「それじゃあ明日迎えに行くから。楽しみに待っててね~」

「何かの次回予告みたいに言うな。こっちは鬱で死にそうだ」

 キーノはそのまま去っていった。

「それじゃあワイト。私も帰る。次こそは絶対負けないから!」

「へ~いへい。出来ればお前とやり合うのは今回で最後にしたいんだけどな」

 シロも走り去っていった。

 一人残されたワイトは、はぁ、と大きくため息をつく。そして、歩き始めたかと思うと、

「ふざけんな。何が賑やかでいい、だ。何? ハーレム? 違うわ。あいつらどっちも俺より遥かにつえーんだぞ」

 誰もいない空中に向かって一人話しかけていた。

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