力が無い≠何も出来ない
そして二人は店を後にした。
いつの間にか雨は上がり、湿気の多い空気が充満していた。
「シロ、お前も少し気をつけとけ。いかにお前でも謎の男に狙われたらひょっとしたら危ないかもしれない。こっちの動きがバレてる以上警戒は怠るな」
「分かった」
「そしてそれ以上に俺が気をつけないとな! 俺が謎の男に絡まれたら秒単位で昇天だ!」
「大丈夫だよご主人様。契約に基づき、私がご主人様をお守りするから」
シロがおどけて言ってみせる。
「頼むぜぇ! 俺の命はお前に掛かってる!」
シロはくすくすと笑う。
二人が表通りから曲がり、人通りの少ない路地を歩いている時だった。
二人の背後から一人の人物が近づいてくる。
その人物は、白色のカードを取り出すと、ワイトに向かって急加速してきた。そしてワイトの背中を殴ろうと右拳を繰り出すが、シロに右手を捕まれ、そのまま地面に組み伏されてしまった。
「あれ? 貴女は……」
「てめぇ、ドチビ!」
ワイトに殴りかかろうとした人物、ケイは獰猛な獣のように、フーッ! フーッ! と息を切らし、ワイトを睨み上げていた。
「てめぇ! ふざけんなよ! てめぇのせいでキー姉が執行官をクビにされちまった!」
内部の人間であるケイは通達によりキーノの事を既に知っていた。
「どういう事だ? 何で俺が?」
「アタシが独自に調べたんだ! キー姉がいっつもてめぇを庇うから執行官としての自覚が足りないって! だから罰として受けた任務でこんな事になったって!」
――そういう事だったのか……。
ワイトもその点は少しだけ気になっていた。
なぜこんな任務が降って湧いたように来たのか。いきなりそんな任務を毒島から言われたらキーノも少しは怪しいと感じたかもしれないがそんな背景があったとは。キーノはその事は話していなかった。
「ちくしょう! 悔しい! アタシに力が無いせいで! こんな奴のためにキー姉が! アタシのキー姉が!」
それを聞くとシロはケイの手を取り、ケイを立たせ、目線を合わせて言った。
「ごめんなさい。それを言うなら私も同罪」
「あ、いや、その……」
シロはいつも素直に罪を認めるのでケイも大きく文句は言えなかった。
「おい、チビ」
「ああん? 何だこのカス!」
「てめぇが最初に睨んでた通りだ。俺達は今とんでもなく面倒な事件に巻き込まれている。最近あいつの様子がおかしかったってのはそのせいだ。そして今回、あいつがこんな事になってしまったのもこの事件のせいだ。そしてこの事件は確かに俺が発覚させてしまったものだ」
「やっぱりてめぇのせいかよ!」
「今、あいつは間違いなくこんな状況でもどうすれば最善に至れるか、自分がどうすべきかを考えてくれてる。必死で戦ってるんだ。そして俺達も今絶望的な状況の中でどうすべきかを必死で考えてる。そんな時にお前はただ喚いてるだけか?」
「ッッ! てめぇなんかにそんな事!」
「別に俺に当たってくるのは構わんさ。だけどな。それが本当の本当にあいつのためになると思ってるのか?」
「分かってんだよ! そんな事は!」
「ワイト……」
シロはケイが泣き出してしまうのではないかとハラハラしていた。実際ケイの目元にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「分かってんだよ! 一番悪いのは力が無いアタシだ! そんな事は分かってんだよ!」
ケイがそう言うと、ワイトはことさらに語気を強めて言った。
「お前に一つだけ教えてやる。力が無い事と何も出来ないって事は決してイコールにはならない!」
「え?」
「力を貸せ。チビ。てめぇにしか出来ない事がある!」
「あ、アタシにしか?」
「そうだ。キーノを助けたいんだろ?」
それを聞くと、ケイは目をゴシゴシとこすり言った。
「分かりきってる事を聞くな! このドカス!」
ワイトは輝きを変えたケイの目を見て、ふっと笑う。
「何だよドカスって」
「教えてくれ。アタシに何が出来るのかを」
「それは…………」




