死刑宣告
真っ昼間だと言うのに、かなり薄暗い。
見ると、辺りは真っ黒な雲に覆われていた
一雨来そうだ。
キーノは虚ろな表情で、執務室外のフリースペースに座っていた。
全員、何とか一命は取り留めたようだが、かなりの重傷だった。
一番軽くて、全治二ヶ月。
治ったとしても順調に公務に復活できるのか怪しい。
キーノがこんな時に限って、回復のカードを持っていなかったのも痛かった。
もっとも、持っていた所で、回復のカードは傷を受けた直後でなければ大きな効果を発揮しないため、紫のカードでも無い限りは全回復は無理だっただろう。それでもある程度結果は違ったはずだ。
キーノは今宮から呼び出しを受けた。
今、連絡が来るまで待機している。
外を見ると、雨が降り出していた。
遠くの方では雷も鳴っているようだ。
なぜ。なぜ。どうしてこんな事になった。
キーノは頭の中でその言葉ばかりを繰り返していた。
やがて、一人の女性がキーノの元にやってきた。今宮の秘書だ。
「夢町執行官。今宮執行官がお呼びです」
「はい」
キーノは力ない返事で立ち上がり、ふらふらしたような様子で今宮の執務室へと向かう。
扉をノックし、自分の名前を告げると、
「入りなさい」
今宮は静かな声で言った。
扉を開けると、今宮は窓の外に向かって立っていた。
「夢町執行官。今回の件、何か言い分があるなら聞こうか」
キーノは拳を握った。
何もかも話してしまいたい。何もかも話せればどれだけ楽になれるか。
しかしそうもいかない。毒島を捕らえた所で、赤のカードを持っていなければ何も意味がない。というか、普通に考えて、赤のカードは謎の男が持っているだろう。取締局の本拠地であるこんな場所にあんな危険なカードを保管しているはずがない。であれば、今話をして、百歩譲って毒島を捕らえた所で、謎の男の警戒を高めてしまうだけだ。そうなると、余計にカードの奪還が難しくなる。
また、今宮に話した所で、調査をするのは下の人間だ。相手のレベルがレベルだけに、そんな者たちが気付かれずに完璧な調査を実行できるとはとても思えない。
「申し訳…………ございません。全て…………私の責任です。私の身勝手な行動が…………今回の事態を招きました」
「任務中、二十分ほどどこかに行っていたそうだね。何をしていたのかな?」
「それは………………」
「まぁ、執行官には極秘任務もある。どうしても話せないというのであれば致し方ないが」
「申し訳……ございません。全てが終われば必ずご報告いたします」
「ふむ。それに今回、一番憎むべきは当然犯人だ。それは間違ってはいけない」
キーノもそれが気になっていた。
仮にも執行官が三人もいたのだ。
彼らを相手にこれだけの短時間でこれだけの危害を加える。
――一体誰が…………。
いかにDランカーでもそこまでの事が出来るものなのか。実際キーノには自信がない。というより無理としか思えない。そうなると…………。
キーノが思考を巡らせていると、今宮が口を開いた。
「犯人は目下全力で調査中だ。夢町執行官。貴殿の行いは命令違反であり、許されるものではないが、今は犯人を憎み、顔を上げて職務を実行したまえ!」
「はっ!」
キーノは敬礼する。
――まさか、意外に処分は軽いのか?
当然処分が軽くて安堵しているわけではない。
しかし、自分には今やらなければならない事が山程ある。
処分はいくらでも受けるが、出来れば後にしてほしい。
今宮はそんなキーノの思いを汲み取ってくれたのか?
キーノがほんのごくわずか、暗闇の中に光を見出した瞬間だった。
「今回の貴殿の処分だが…………」
やはりただでは済まないか…………。
キーノもある程度覚悟を決めていた。
「貴殿の上司である毒島執行官とも相談した。今回の件もそうだが、貴殿は普段から少々執行官としての自覚が足りない行為が多いようだね」
「そ、それは…………」
何も言い返せなかった。こればかりは純然たる事実だ。
「そこで、今回の処分を決定した」
そう言うと、今宮は一枚の紙をキーノに見せる。
「え…………?」
キーノの時間が止まってしまった。
それほど衝撃的な内容だった。
外は土砂降りの雨になっている。
そして、近くで雷が落ちる轟音とともにキーノにとって死刑宣告とも言える内容が告げられた。
「夢町執行官。現時点より三ヶ月間、貴殿を執行官より解任する」