世界最強のカード使い
しばらくしてキーノも合流した。
「私達、最近カラオケボックスに籠もってばっかりだね」
自虐的な笑みを浮かべながら腰掛ける。
「さて、状況だが、実に良くない」
ワイトはそう言うと、パソコンのモニターをキーノ達に向ける。
そこには情報屋からの報告が映し出されていた。
『誠に申し訳無い。現在全力で調査中だが、現時点で有用な情報が得られていない。追ってまた報告を上げる。『いつ』『どこで』『どうやって』については必ず調べ上げ報告する。必ずだ』
「そっか。現状、なんにも分からないって事か……」
「いや、そうでもないぞ」
「え? どういう事?」
「良くない情報その一だ。何度も言ってる通り、こいつの腕はピカイチだ。そんなこいつがこれだけ調査して、いつどこでどうやってが分かっていない事に加えてもう一つ決定的に分かっていない事がある」
「あ。そうか」
キーノはワイトに言われる前に気付いた。
「謎の男の正体が未だに分からない。こいつなら俺程度の人間なら一日も掛からず、名前や所持カード、過去の経歴といった素性を突き止めてくる。そんなこいつがこれだけの時間を掛けてもまだ正体に辿り着けていない。この事から分かるのは謎の男が相当なレベルの人間って事だ」
「そうか。その話からすると、少なくともワイト君よりは上位の使い手である可能性が高いって事だね」
「俺の予想なんだが、謎の男はCランカーか、それ相当の力だと思ってる」
「その根拠は?」
「Dランカーなら、いくら高位ランカーとは言えこいつがここまで手を焼くとは思えない。かと言って、Bランカー以上なら、世界中に数えるほどしかいないからな。そんな奴がこっそり活動していて裏世界で何の話題にもならないわけがない。たった一人でも動静が掴めなければすぐに話題になるはずだ。そうなると可能性としてはCランカー。極めて低確率でSランカーって事も考えられなくはないが、さすがにそれは排除していいだろう」
「正体自体が国家機密のSランカー。まぁ、もしそうだったら……」
「あぁ。ある意味で話は超簡単。もうお手上げだ。Sランカー相手に出来ることなんか一つも無い。もっともSランカーならこんなまどろっこしい事なんかしないんじゃないかって思うけどな」
「でもそうか。なるほどね。Cランカーか。私でも相手にならないし、シロちゃんでも厳しいんじゃないかな」
「で、だ。Bランカー以上なら動静が掴めなければすぐ話題になるって最たる例が早速あるんだ。良くない情報その二だ」
「え?! どういう事?!」
「これは俺が掴んだ情報なんだが、これを見てくれ」
ワイトはスマホで得た情報をパソコンのモニターで見せる。
「今日の朝の映像だ」
そこには空港のロビーに映る、一人の女性が映し出されていた。
燃えるような真っ赤なロングヘアーに、真っ赤な瞳。赤いTシャツの上にサバゲー用と思わせる袖なしジャケット、シンプルなジーパンを履いている。
キーノが驚愕の表情で口を開いた。
「『紅の爪』の代表。エルメ=レッドホーク様!」
「そうだ。こんな大物がこんな所にやってくるって事は……」
「今更だけど、紫の情報に間違いはないって事だね」
二人が勝手に話を進めていると、シロが不機嫌そうに口を挟んできた。
「私、分かんない。誰? その人」
「世界には金目のカードを奪取するための組織が数多くある。その中でも世界最高峰の組織の一つ、それが紅の爪だ。そして、こいつはそのトップ。エルメ=レッドホーク。二十六歳。紅の爪はかなり好戦的で、相手がカード使いなら容赦なく潰しにかかってくる。こいつもそんなスタイルで、女だが、幻術系なんかのカードは好まず、ひたすら強化系のカードで突っ込んでくるタイプだ。ちなみに、公認ランクはB」
「Bって、めちゃくちゃ強いって事だよね」
「生まれつきの特異体質であるSランカーを除くと、これより上はAランカーしかいないが、Aランカーは国の代表みたいな立場だから普通現場には出てこない。つまり現場に出てくるレベルとしては実質的に世界最強って言っても過言じゃないって事だ」
「ど、どのくらい強いの? まさかワイトでも秒殺されちゃうレベルとか……?」
「ああん? 秒殺だぁ? バカ言ってんじゃねぇぞゴルァァァ!」
「ご、ごめん! いくらなんでもそんなわけないよね!」
「瞬殺だよ! 瞬殺! こんなバケモン相手に秒単位で持ってたまるかゴルァァ!」
「そっちかーい」
「とにかく、だ。シロ。お前に一つ聞いておく。お前は自分が世界で一番強いと思うか?」
シロはすぐに首を振る。
「思わない」
「だったら話は早い。いいかシロ。Bランカーなんてもはや魔法使いとでも思っとけ。こっちの攻撃は一つも当たらないのに相手は百発百中の即死攻撃を使ってくるって具合でな。今回の件で万が一こいつに出くわしたりしたら絶対に戦ったりするな。視界に入った時点で命の危険があると思え。とにかく逃げることだけを考えろ」
「分かったけど、そうそう出くわすなんて事なんて無いんじゃない?」
「お前はこういうのを引き当てる天才だって事も自覚しとけ!」
そう言われると、シロは改めてモニターを見つめる。
(世界最強のカード使い、か……)