親衛隊
表通りを歩いていたワイトはスマホをチェックする。
情報屋からの情報に加え、自身でも有用な情報がないかどうかを裏世界のネットで探していた。
そこである情報を見かけたワイトの顔がみるみるうちに驚愕に染まっていく。
「おいおい……まじかよ……」
ワイトはすぐにキーノとシロをいつものカラオケボックスに呼び寄せる。
「早くあいつらにも知らせとかないと」
カラオケボックスの前でワイトが二人を待っていると、
「おいそこのくそがきゃあ」
唐突に甲高い男の声がワイトに向けられる。
ワイトは頭を抑えながら、ゆっくり振り向く。
「ったく……。何で俺の周りにはこう、まともなやつがいないんだ……」
ワイトが振り向いたその先には、黒い革ズボン、革ジャンにリーゼントという絶滅危惧種を思わせるようなヤンキースタイルの男が、ワイトを睨みつけていた。
その眼力たるや、今にも相手を射殺すと言わんばかりである。
「てめぇ今日もシロお嬢さんにちょっかい出そうってのかああんてめぇあんま舐めてっとこの場で殺っちまうぞ」
「近い近い近い!」
男は甲高い声かつ早口で、ゆっくりとワイトに顔を近づけ、ひたすらに威嚇する。
この男は、シロの熱烈なファン、シロ親衛隊(非公認)の一員だ。
シロがいる古流武術の道場は女子供でも十分な護身が出来る術、という名目のもと、多くの女性道場員がいる。しかし、道場の頭首の孫娘であり、類まれなる才能、実力、更に容姿を持っているシロは別格の人気を誇っていた。
そんなシロは現在、修行のため、という名目で道場を離れ、一人都会の高校に通っている。それだけでも道場の男連中は寂しさ全開で、そこら辺の子犬でさえも襲ってしまうのではないかというやり場のない感情を溜め込んでいたのだが、ある日のシロの発言が男たちのそんな感情を一気に一つの方向へと収束させた。
「私、婚約者が出来たから!」
地球を覆い尽くさんばかりの怨嗟の念はあっという間にその婚約者(神への反逆者)がワイトであることを突き止めた。
そして、男たちはたった一言のもとに完全なる結束を誓った。
「「「「「「「「「「殺す」」」」」」」」」」
以降、ワイトは事あるごとに親衛隊に狙われるハメになった。
そして、これこそがワイトがシロに専属契約を申し込んだもう一つの理由だ。
シロをなあなあで良いように使っていると親衛隊が黙っていない。しかし、契約のもと、シロにきちんと仕事を依頼している、となればほんの僅かだけ心象が違う。それでも殺す指数=百が九十五になった程度のものではあったが、ワイトにとってはそれで十分だった。
「てめぇらは一体何万回言えば分かるんだ……。俺はあいつに何もしてねぇ……。ってかあいつがいっつも一方的に俺の邪魔をしてるだけだ」
「ほほうてめぇお嬢さんのご厚意が邪魔だってのか舐めてんなてめぇ舐めてんなよしこの場で殺すか殺っちまうか」
「いやまじで勘弁して下さい。あんたらの殺すはほんとのほんとに洒落になってないから……」
「もう! 何やってるの!」
ワイトががっつりとカツアゲされた所で颯爽と本人が登場した。いつもの制服姿だ。
「シ! シロお嬢さん! し、しかし、こいつが」
「もう! ワイトに変な事するなら嫌いになっちゃうんだからね!」
「ごはああああぁぁぁぁぁ!」
男は謎のエネルギー(女神の死刑宣告)によって地平線の彼方までふっ飛ばされた。
「行こ! ワイト!」
「あ……あぁ……。あいつ……死んだかもしれんぞ……」