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世界を超える紫  作者: 素人
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取締局の少女

 翌日夕方前、ワイトは人通りの少ない、街の裏道を一人走っていた。

 事件の詳細が分からない段階では、ワイトにも出来ることはあまり無い。だからせめて少しでも資金の足しにしようと、近場で見つけた野良カード情報を元にそれを追いかけていた。実際問題、情報屋やシロへの契約料の支払いでワイトもカツカツだった。

「お、あったあった」

 ワイトは三階建ての古ビルの壁に貼り付いている黒色のカードを発見した。何も無い状態から情報とサーチのカードの力だけを頼りにカードに近づいていくわけだが、それをいかに早く出来るかがセンスの見せ所である。

 ワイトがカードを取ろうと、ポケットに手を入れた瞬間、一人の男が、上空から降りてきた。二十代後半の中肉中背と言った男だが、息を大きく切らしている。ワイトを必死で追いかけてきたのだ。ビルの数階分の高さから飛び降りても無傷である事と、その雰囲気からワイトにはすぐに同業者と分かった。

「やらせん! そのカードは俺が取る!」

「ちっ。もうちょいって所でめんどい……」

 男は黒色のカードを取り出しワイトに向けて念じる。

――〇.五秒の停止!

 相手の行動を〇.五秒だけ封じるカード。カード使い同士の戦いにおいて〇.五秒も行動を止められるのは致命的だ。その間に相手は加速なり跳躍のカードを使ってあっという間にカードを取っていってしまうだろう。

 ワイトはとっさに無効化のカードを取り出そうとするが、

――この程度の相手なら……!

 ワイトはカードの動きをよく見て、まるで弾丸を躱すかのようにさっと自力で身を躱した。

「なっ! 素の力で回避した、だと!」

 ピッチャーが投げるボールのようなもので、高位ランカーであればあるほど、カードの力も速く躱しにくいものになる。彼我の力の差が大きければ自力で避けることも不可能ではない。それでもかなりのセンスは必要なのだが。

「くそっ!」

 男はやけっぱちと言わんばかりにワイトに向かって加速した。

 男が拳を繰り出すのを確認すると、ワイトはそれを足で受け止める。相手の力も利用し、軽く空中に飛んだワイトは、「ほいっ」と軽口を叩きながら、カードに向かって何かを投げた。それは先端にとりもちが付いたワイヤーだった。ワイヤーは正確にカードを捉え、カードを壁から引き剥がした。

「なっ!」

 唖然とする男をよそ目にワイトはくるりと一回転し着地する。そしてワイヤーを手元に引き寄せると、カードを掴み、男に背を向けた。

「んじゃさいなら~」

「待て!」

 男は加速のカードで後を追おうとしたが、すぐに諦めた。相手との力量差を認めるのも大事だ。男の実力ではワイトには、まず追いつけないし、仮に追いつけたとしても返り討ちに会うだけだ。男はカードを収めた。

 無事にカードを奪取したワイトは余裕の表情で、表通りに向かっていた。

「楽勝楽勝。シロさえいなきゃ、この辺は俺の天下よ」

 カードを人差し指と中指で挟み、その効果を確認すると、ワイトはため息をついた。

「分かっちゃいたけど、しょぼいカードだ。即換金決定。まぁ他にカードは使わずに済んだし、赤字じゃないだけましか」

 そう言いながら、曲がり角を曲がろうとした瞬間だった。

 ピピーッと甲高い警笛音がワイトの背後から鳴り響く。

 ワイトは苦々しい表情でゆっくりと振り向く。

 またキーノか? 今日はそんな暴れてないだろ、と心の中でぼやいていると、そこには一人の少女が仁王立ちしていた。肩までのセミロングの赤髪、睨みつける眼差し、非常に小柄な体格、そしてジーパンに黒シャツとあまり年頃の女の子らしくない格好をしている。少女は開口一番、ワイトに向かって吐き捨てた。

「おい、そこのカス」

 ワイトは盛大に頭を抑える。

「てめぇか……、このチビ……」

 少女はズカズカとワイトに歩み寄ってくると、三白眼でワイトを睨みあげる。

「誰がチビだ、ああん?! 逮捕すんぞてめぇ!」

 少女は名前をケイと言い、キーノの部下だ。年齢は十三歳だがキーノの元で働いている。言うまでもなく本来は違法だが、キーノの組織は超法規的組織なので、何でもありなのだ。

「帰れ帰れこのドチビ。てめぇなんかに関わってる暇はねぇ。ってかあいつも近くに来てるのか?」

「ああん?! てめぇあんま舐めてっと大声で叫ぶぞ。このお兄さん痴漢ですってな!」

「やってみろや! その前にてめぇの口を潰してやる!」

「てめぇ! こんないたいけな少女の口を潰すとか大人として恥ずかしくないんか?!」

「いたいけな少女はそんな口を利かねぇんだよ!」

 二人は猛獣のように火花を散らし合っていたが、やがてワイトはふん、と鼻を鳴らすとケイに向かって背を向け、その場を去ろうとした。しかし、

「おい。何があった」

 ワイトはその言葉を聞いてピタリと立ち止まった。

「昨日からキー姉の様子がおかしい。何かあったろ」

 ワイトは振り向かないまま、心の中でぼやいた。

 ――ったく、勘だけは鋭いガキだ……。

「何もねぇよ。ガキはさっさと帰って宿題でもやってろ」

「てめぇ、いっつもキー姉を困らせやがって。キー姉に何かあったらてめぇ殺すぞ」

 ワイトはその言葉には反応しないまま、その場を去ろうとした。その時、

「あれ? ワイト君、とケイちゃん」

 ワイトの目の前にキーノが現れた。

「なになに~? また二人きりで火花を散らしてたの? 相変わらず仲が良いねぇ」

「「違うから!」」

「息もピッタリ」

 ワイトはため息をつきながら、キーノの横を通り過ぎる。ワイトとキーノの視線が交差するが、言葉を交わす事もなく、ワイトは通り過ぎて行く。

「おい。そのガキ、ちゃんと教育しとけ。目上の人間に対する言葉がなってねぇぞ」

 ワイトはそれだけ言うとその場を去っていった。

「君が言うかねぇ」

 キーノはワイトを見送ると、ケイに向き直る。そして笑顔のまま口を開いた。

「ケイちゃん。ワイト君と仲良くしないと駄目だよ~」

「無理! 絶対無理!」

「もう。そんなにワイト君の事好きになれないの?」

「あいつ全然分かってないんだよ。あいつのせいでキー姉がどれだけ苦労してるか。 いっつも毒島のゴリラに怒られて」

 そう言うと、ケイの頭にゴツンと軽い拳骨が入る。

「痛いって!」

「こら~。そんな言い方しちゃ駄目でしょ! 上司なんだよ~」

「あんなヤツ上司じゃない! アタシの上司はキー姉だけだ!」

 キーノはそれを聞くと、ふっと笑みを浮かべる。

「もう。本人の前じゃ絶対に言っちゃ駄目だよ」

 そして、ケイに向かって手を差し伸べる。

「じゃ、帰ろっか」

 ケイは先程までとはまるで別人のようにおとなしくなり、僅かに赤くなりながら、そっとその手を取る。

「うん」

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